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【インタビュー】ナレク・アフナジャリャンに聞く

2017年6月に来日するナレク・アフナジャリャンのインタビューです。

―2011年のチャイコフスキー・コンクール優勝後、どのような変化がありましたか?

 それ以前からも演奏の機会には恵まれていた方だと思いますが、コンクール優勝後は世界の名ホールで素晴らしいオーケストラ、マエストロと共演する機会が格段に増え、メジャーなマネージメント会社との契約にも恵まれました。
一方で受賞したことに対して大きな責任を感じています。それは時にプレッシャーにもなりますが、良い意味でのプレッシャーですね。絶えず練習を重ねて、向上心を保つことができるわけですから。

―6月の来日公演では、京都でバッハの無伴奏チェロ組曲を全曲演奏されます。この作品を通してもっとも表現したいことは?


 バッハのチェロ組曲を全曲演奏することは、チェリストにとって音楽的にも肉体的にももっとも大変な仕事だと思います。それは同時に、とても興味深く、エキサイティングなこと。バッハの音楽は「祈り」のようなものだからです。私はクリスチャンですが、定期的に教会に行くということはしません。ですが、バッハの音楽を弾くときは、まるで神と直接対話をしているかのような、スピリチュアルな気持ちになります。私にとってバッハの音楽は、異なる惑星であり、世界そのものなのです。

―東京でのプログラムもやはり無伴奏のリサイタルで、バッハ、クラム、黛敏郎、リゲティと多彩な時代、地域からの作品を選ばれていますね。

 自分が好きな曲ばかりを選びました。ジョージ・クラムのソナタもそうですが、リゲティのソナタは私にとって特にお気に入りの作品です。黛敏郎の“BUNRAKU“は、自分が愛し感嘆する日本文化への贈り物として選びました。文楽の人形劇を模倣した偉大な作品です。私が弾き慣れているヨーロッパの作品とはまったく違う要素を持ちますが、それだけに大変興味を惹かれます。日本のお客さまに気に入ってもらえたらと思いますし、できるだけ日本の文化を理解した上でオーセンティックに演奏したいです。

―1月末にはドイツのベルリン、その後がアメリカのユタ。各地に客演しながら世界中を旅されていますが、特に好きな場所はありますか?

 行く先々どの場所にも敬意を持っていますが、日本は特別です。これは決して社交辞令ではありません。聴きに来てくださる方の知識の豊富さや演奏中の集中力は素晴らしいと思います。客席から常に強いエネルギーをもらい、私もそれに対してお返しをしたいと思う。交感が生まれるのですね。驚くのは、欧米に比べて若い聴衆が多いこと。自分と同じぐらいか、さらに若い人がヨーロッパの音楽に興味を持って聴きに来てくれる。そのことからも触発を受けます。私は日本に行く度、現地の友人にお願いして観光地ではない地元の場所に連れて行ってもらっています。毎回新しい発見がありますよ。前回の来日時は東京の小さな街の寿司屋に行き、シェフが信じられないほど美味しい寿司をおまかせで握ってくれました。古いお寺の多い京都も大好きです。

―音楽以外で好きなことや、特に影響を受けたものはありますか?

 読書、写真、映画、アート、スポーツ(特にサッカー)……。一つに絞るのは難しい。最近はKindleなどの電子書籍を活用して、移動中も多くのライブラリーを持ち歩いています。ジャンルでいえば詩、特にロシアの詩に惹かれます。一番好きな本は、サン=テグジュペリの『星の王子さま』でしょうか。複雑な話ではないけれども、読む度にエネルギーがチャージされ、心の内面を綺麗にしてくれます。今も1、2年に一度はリフレッシュを兼ねて読みますよ。もちろん、シェークスピア、ゴーゴリ、ドストエフスキーといった作家も。ドイツのパトリック・ジュースキントも好きな作家ですね。初期の頃に『コントラバス』という素敵な小説を書いていて、周りの音楽家はみんな読んでいます。それから、行く先々で新しい人に出会うこと。もちろんアートも。今回ベルリンに来る前、アムステルダムに滞在しましたが、自分のコンサートの翌日に迷わずゴッホ博物館へ行きました。一つ一つの作品に感嘆しながら、4時間ぐらい過ごしたでしょうか。そういう時間が、自分の音楽にインスピレーションを与えてくれます。

中村真人(在ベルリン/ジャーナリスト)

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チャイコフスキーコンクールを制した俊英による多彩な音の世界
ナレク・アフナジャリャン 無伴奏チェロ・リサイタル
2017年6月13日(火) 19:00開演 浜離宮朝日ホール  ほか
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