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インバル&コンツェルトハウス管弦楽団の来日直前コンサート [上原彩子]

 エリアフ・インバル指揮ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団が日本ツアーを前に本拠地のコンツェルトハウスで3日間の定期公演を行った。2001年から06年までコンツェルトハウス管弦楽団(当時はベルリン交響楽団)の首席指揮者を務めたインバルは、その後も毎シーズンに1回は古巣の楽団に客演し、良好な関係を保ってきた。
 プログラム前半では、最初の2日はヴァイオリンの五嶋龍が、最終日はピアノの上原彩子が協奏曲のソロを演奏した。私が聴いたのは上原をソロに立てたモーツァルトのピアノ協奏曲第20番の方。インバル指揮の悲壮感と逞しさを併せ持つ伴奏に乗って、上原は時にロマン的な濃厚な表情も付けながら、モーツァルトの美しいふしを奏でてゆく。第1楽章の終わりのベートーヴェン作によるドラマティックなカデンツァも大きな聴きものになっていた。これからツアーで共演を重ねることで、両者によってさらに親密な音楽が形作られてゆくはずだ。
 メインプロはマーラーの交響曲第5番。聴衆が固唾をのんで見守る冒頭のトランペット・ソロが見事に決まり、葬送行進曲の重苦しい旋律が鳴り始めるやいなや、この交響曲の世界に引きずり込まれた。この葬送行進曲のメロディは何度も繰り返されるのだが、時に一歩一歩踏みしめるように、また時には木管が加わって一筋の光が差し込むこともある。インバルはその一つ一つを丁寧に、かつ真実味を込めて音の芸術に変えてゆく。この第1楽章を聴いただけでも、インバルのマーラー指揮者としての卓越性は際立っていた。第3楽章ではホルンセクションを中心とした管楽器が安定した実力を発揮し、かのアダージェットでは弦楽器の精緻な響きの中にもすすり泣きが聴こえてくる。ここでの合奏は近年のコンツェルトハウス管の充実ぶりを如実に物語るものだった。
 そして、フィナーレ。対位法が駆使され、さまざまな音が入り乱れる複雑な楽章だが、インバルの一振りで思わぬ声部が浮かび上がる。曲がクライマックスに向かうにつれ、一層熱を帯びてくる低弦(特に外側に座ったチェロセクション!)にも目を奪われた。丹念に音を積み重ねてきたがゆえに、クライマックスで生まれた全員一丸となった力の開放と音のうねりは、比類ないものがあった。私自身、これほど作曲家と演奏者が重なるかのようなマーラーを聴くのも稀なことである。
「インバルが81歳の人にはとても見えないだろう。彼はエネルギーも、(仕事への)厳密さも失っていない」と地元の『ターゲスシュピーゲル』紙は、このような書き出しで始まる批評記事を掲載したが、筆者も同感である。

中村真人(在ベルリン/ジャーナリスト)

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エリアフ・インバル指揮 ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 (ヴァイオリン:五嶋 龍)
2017年3月21日(火) 19:00開演 東京芸術劇場 コンサートホール
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