2017/5/29

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【インタビューその2】樫本大進と共演/ピアニスト アレッシオ・バックスに聞く!

・・・・インタビューその1はこちら
南イタリアのプーリア地方、バーリ市のご出身ですね。ピアニストになるまでの経緯を少し、お話しいただけますか?
はい。9歳で地元でピアノを始めまして、まずはバーリ音楽院に入ったのです。10年かかるコースを私はすこし速く5年で修了することができましたので、そのあとは、バーリよりすこし北の、シエナ音楽院に進みました。そこでスペイン人の先生のホアキン・アチュカロ先生と出会いました。2年後にアチュカロ先生がアメリカでも教鞭を取られることになりまして、先生について私もアメリカに渡ったのです。当時はヨーロッパの優れた教師は大勢イタリアで教えていらして、いい出会いがありました。とてもオープンな環境でしたね。また、バーリは南イタリアの中でもピアノ音楽の伝統が濃い地方なのです。

そのようですね。また、音楽のみならず著名な舞台俳優などにも多く出身者がいますね。
はい。文化的には充実していますし、申し上げてよいならば、若くて優秀な演奏家たちがつねに出ている地方でもあります。

しかし、まだ高校生の息子を実家から離れた場所に送るのは、教育のためとはいえご家族にも大きなご決断だったのでは?
そう思いますが、両親はとても理解があり、また、私がどこへ行ってもしっかりやるだろう、と信頼してくれていたと思います。その後はアメリカはもとより、日本の浜松でも、コンクールに出場して経験を積み、また出会いにも恵まれて、今につながっています。

日本に初めていらしたのはいつでしたか?
1994年のことになります。コンサートでの訪日でした。それ以後、行かなかった年はたしか、1995年か1996年の、1年だけだったと思います。以後、途切れることなく毎年1度は日本を訪れています。

どのような印象をお持ちですか?
その確かさのレベルが素晴らしいですね。仕事に関してはなにごとも正確にことがはこび、それが一箇所だけではなくてどの演奏会場でも同じです。私だけでなく、日本を訪れた演奏家はみな同じように感じているはずです。そして聴きにきてくださるみなさんが「なにかをしっかり感じて帰りたい。」という熱意をもってきてくださるというのが、日本の特徴だと思います。

確かに、私たちはおのずと「特別な体験」を期待する傾向があるとは思いますが、でもヨーロッパなどでは反対に、コンサート会場もとてもリラックスした空気ですね。
よくも悪くも、ですね。それだけ生活が違うということでしょうね。

日本の聴衆の期待の強さが、プレッシャーになることはありませんか?
そうですね。でもそれは「張り合い」ですから。逆にそれ以外の部分で、リハーサルやステージでの段取りがちゃんとできてなかったらどうしよう?なんていう心配は、日本では絶対、ありませんよ!(笑)。そのような心配が皆無ということは、言い換えれば、演奏に100パーセント集中できるということなのです、それが、タフな演目でプレッシャーを感じていても、集中できるのです。みなさんが、演奏される音楽の中に「なにか」を見つけようとして会場に来てくださること、それは、おっしゃらずともしっかりと空気で伝わります。音楽を「プライオリティの高いもの」としてご判断くださる姿勢を、とても嬉しく感じます。
それから、日本には長年の友人も多いので彼らに会って一緒に食事をしたりすることも楽しみなのです。私は美味しいものが好きで、食べること、そして料理が趣味なんですよ。

そうそう、お料理をなさるそうですね、しかもかなり本格的に。存じておりますよ。
あ、もうご存知だったんですね。そうなんです。なので、どんな食材や調理法があるか、日本ではいつも発見が楽しみです。またDaishin(今回共演するヴァイオリニストの樫本大進)もとてもよい友人なので、再会が楽しみです。

お二人の出会いについて教えていただけますか?
Daishinと初めて会ったのはキプロス共和国でのコンサート会場でした。

キプロスですか?ということは、なにか、野外でのフェスティバルかなにかでしょうか?
いいえ、場所はパフォスの遺跡の近くですが、室内のコンサートホールでした。2009年のことです。私は彼のコンチェルトの演奏を聴き、そのときはまだのちに一緒に演奏できるとは思っていませんでしたが、一緒に食事をした機会に、お互い年齢も近いことなどから意気投合し・・・

以後、8年間にわたり、友情が続いているのですね。
はい、そうです。もう、長い友情ですね(笑)。

今回のプログラムですが。じつに、異なる4人の作曲家の曲目で構成されています。樫本大進さんと相談して決めたのですか?
はい、二人で考えを出しあって、現在の私たちの心をしっかり込められるものを、と考え・・・そしてみなさんの耳が、すでに知っているものと、知らないものをミックスするのが面白いかと。まったく未知のものを提供してびっくりさせよう、ということではなくてね。むしろ、曲調から「あ、たぶん、あの作曲家じゃないかな?」と感じていただけるようなところを狙ってみたんですよ。

そして、モーツァルト、さきにお話いただいたブラームス、シマノフスキ、そしてグリーグ、となったわけですね。
プログラムの前半のモーツァルト・ヴァイオリン・ソナタK.301、そしてブラームス・ヴァイオリン・ソナタOp. 78 の2曲は、後半の2曲に比べれば、みなさんのお耳に馴染みがあろうかと思います。ただ、グリーグのヴァイオリン・ソナタOp. 45 は、これは、ご存知の方はご存知ですね、フリッツ・クライスラーとラフマニノフによる完璧な録音が存在している曲ですし。しかも、流れの抑揚がすばらしく、オーケストラの演奏を思わせるようなスケール感で書かれています。
シマノフスキの「神話」Op. 30、これは、他の3曲がヴァイオリン・ソナタであるのに対し、ヴァイオリンとピアノにまったく同等の役割が与えられているような曲ですね。ピアノのパートもなんとも表情豊かです。
このシマノフスキの曲は、とても不思議なファンタジーの世界を表しています。彼の多くのファンタジックな作品の中でも、とりわけその特徴が強いものです。みなさんにも「自分はこの作曲家の偉大さや、持ち味を、今日まで十分わかっていなかったのではないだろうか?」と感じる経験をしていただきたくて、そしてそのうえで、私たちは自分たちも大好きな、「弾きたい!」と強く感じるものを選んだのですよ。
Daishinがつねに私に言うことなのですが、彼はたとえヴァオリン・ソナタでも、ピアノが顕(あらわ)さんとするものを打ち出してほしい、と言います。ただの伴奏で終わってほしくない、というのです。これをうけて私ものびのびと、どうすれば曲全体がさらにすばらしくなるかを追求して弾きます。彼との共演は、そのような、得難く、かつ楽しい体験です。彼にとっても私がそのような存在であればいいですが。
また、これは室内楽曲のコンサートだからこそ実現できる面白さですね。オーケストラとの共演ということになりますと、個々の楽器奏者の意思は指揮の導きに委ねられる部分がでてきますが、今回のような場なら、ピアノとヴァイオリンとの掛け合いを存分にエンジョイすることができます。

話がすこし逸れますが、ぜひ、さきほどのお料理の話を聞かせてください。いま、いちばんご自慢のレシピはなんですか?
ニューヨーク・タイムズ 紙にも料理のコラムを頼まれて書きましたが(笑)、では、最近、とても美味しくできたものをお教えしますね、Uni(=雲丹)のスパゲッティです。南イタリアの海でもウニはたくさん取れますので、馴染みの食材なのですが、日本やアメリカでも美味しいものがありますね。ホッカイドウのウニ、最高ですね!ウニを使ってパスタのレシピに挑戦して成功しましたよ。白ではなく、軽めの赤ワインと合わせていただくと最高です、みなさんもぜひお作りになってみては。

すてきなアイディアをありがとうございます。ぜひトライしてみましょう。最後に、7月の来日を楽しみにしている聴衆にメッセージをいただけますか?
もちろんです、みなさん、再会できる日が待ち遠しいです。みなさんの「国民的ヒーロー」Daishinとの共演が楽しみです。プログラムは全体のバランスをよく考えて決めました。曲調や、作曲家のバックグラウンド・・・聴きながら、心がどこかに旅するような気分をきっと味わっていただけるでしょう。ぜひ、いらしてください。

バックスさん、きょうは楽しいインタビュー、どうもありがとうございました
こちらこそ。では、7月に。

インタビュア:高橋美佐

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歌う弦、きらめくピアノ あたたかく共鳴しあうデュオの真髄
樫本大進&アレッシオ・バックス
2017年7月12日(水) 19:00 東京オペラシティ コンサートホール

詳しい公演情報はこちらから

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