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マレイ・ペライアとアカデミー室内管弦楽団公演を聴いて

2017年11月6日フィルハーモニー・ド・パリでアカデミー室内管弦楽団と共演したマレイ・ペライア。
公演レポート是非ご覧ください。とにかく凄い人気である。
こんなありきたりな表現は、もはや巨匠ペライアには似つかわしくないかもしれないが、11月6日にコンサート会場となったフィルハーモニー・ド・パリでは、チケットは3日前に完売し、最後の当日売りにかけたファンが開演前に列を作った。
ベートーヴェン・プログラムの当夜の第一曲目は、「ヴァイオリンとオーケストラの為のロマンス第2番」で、コンサートマスター自らソロパートを受け持ち小編成の室内オーケストラを牽引。日頃から常に一緒に音楽に取り組んでいるアンサンブルの、まとまりの良さが印象に残る。

次は「交響曲第1番」である。まだペライアは登場しない。特筆すべきは 、この曲で一回り大きく二管編成となったオーケストラが、指揮者なしで実に緻密で立体的な音楽を作り上げたことだ。彼らと15年以上も仕事を共にしている首席客演指揮者のペライアが,いかにこのオーケストラの発展に貢献しているかが伺える。各楽器間のフレーズの受け渡しの正確さ、自然さ、音程の揃い方など、私の横にいたドイツから来たあるオーケストラの団員がため息をついた。どこをとっても文句のつけようがない、指揮者無しも有りうるけれど、普通こうはいかないと・・・。

さていよいよ休憩の後は最終の3曲目は、ピアノ協奏曲第5番『皇帝』。待ちに待ったという感じの聴衆の暖かい拍手に迎えられ、真打のペライア登場である。
彼の弾き振りは決して派手ではなく、時折り各楽器のモチーフを引き出す為、思わず!という風に椅子から身を乗り出し指揮をする。が、オーケストラは彼の言いたいことは全てわかっているのだ。ピチカートとピアノのスタカートが混じり合い、金管が突出することなく他楽器とのバランスも絶妙だ。どれだけ耳と神経を集中させ楽譜を読み込んでいるのか・・・と思う。彼のソロでは、ピアニシモの美しさが際立った。フォルテをこれでもかと鳴らすピアニストは多くいるかもしれないが、ペライアは違う。ペダルを豊かに使ったフォルテシモで、ピアノ全体の響きがオーケストラと渾然一体となる。又、和音の交代、転調の瞬間瞬間を、微妙な音色の変化で聴かせてくれる。思わずゾクッとする。けれど、気を引こうとしたり飾ったりすることの全くない音楽なのだ。2楽章の、単純な和声の反復進行が、これほど美しく響くのはなぜだろう。楽譜に書いてある作曲家の言いたいことを全て、いかに自分を押し付けることなく代弁できるか否かが、偉大な演奏者であるかないかの鍵だ。

ところで、筆者は20年以上前にパリでペライアを聴いているが、その時と比べても更に心にしみ入るような、より深いものがあるように思う。動作や緩急の変化はよりシンプルになっており、もったいつけたリタルダンドなどはもってのほか、なのだ。
ちなみにこの夜のアンコールはシューベルトの即興曲op. 90-2で、ベートーヴェンとはまた違った色彩のピアノ、ピアニシモを聴かせてくれた。
最後、聴衆とオーケストラの団員からも限りない拍手を受け、律義に舞台と袖を何往復もしていたペライア。これだけの演奏をしながらも謙虚で控えめな、そして真摯な佇まいであった。

鈴木理香(作曲家/在パリ)

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静謐さと内なる情熱の音世界
マレイ・ペライア ピアノ・リサイタル
2018年3月23日(金) 19:00開演 サントリーホール
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