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マレイ・ペライアのインタビュー Part2

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Q:ベートーヴェンの生涯そのものについても、若い頃からお勉強されてきたのですか? 楽譜の分析だけではなく?
私がつねに興味を抱くのは、楽曲がどのようにして作曲されたのか、ということです。ベートーヴェンに限ったことではないのですよ。自分の探求は、ハーモニーをどう処理すべきか、音符がどのように進行し、まとまってゆくか、また緊張感はどのようにして生まれてくるか、などからはじまります。でも、そうやって分析してゆくうち、ベートーヴェンの場合、彼の人生がどんなものだったのかにも興味が湧き、また、彼が行った音楽研究そのものにも興味が膨らんでいきました。
ベートーヴェンは非常に幅広い勉強をした人です。彼はハイドン、アルブレヒツベルガーに就いていましたし、対位法に関して非常に高度な講義を受けていたのです。音楽家が学ばなければならないありとあらゆることを彼は勉強し、しかも、深く徹底的に身につけた。その点にもとても興味を覚えます。しかしながら、面白いのは、彼はむしろ社会的な意味で人生の達成感を得ていない・・・つまり、彼は一度も結婚しておらず、ご存知のように後半生は耳が聞こえず、周囲となじまずに孤立しているような人生だったわけですが、「音楽」では勝利をおさめた。彼の作った音楽は彼の人生の個人的・実際的な面とは対象的に、栄光に満たされています。

Q:ペライアさんにとって、この上なく興味をかき立てられる作曲家であるのですね。
そうです。とても惹かれます。

Q:他の3人はいかがですか? バッハ、シューベルト、モーツァルトですが。もちろん、彼らを簡略な言葉だけで語り尽くせるものではありませんが、あえて「生き方」を描写するとしたら?
やはりモーツァルトが、私にとっては「いつも、戻ってゆく場所」と言える作曲家ですね。彼の書く曲は、最初の音を弾いた瞬間に、それがどう、どこへ、巡ってゆくのかを想像させる。けれども音を出してみるまではまったくなにも想像できないようなところがあるのです。楽譜のページごと、段ごとに、目を通してみてはじめて、弾いてみてはじめて、「ああ、そうなっていたのか!」と発見させられる。このモーツァルトが作る「雰囲気(=mood)」に魅せられます。彼独特のデリカシーです。ここにも、いくつもの「意味」が隠れています・・・一見したところは、つきつめない、シンプルな感じに見えるのですけれどね。モーツァルト自身が用いた分析方法というのも、とても面白いものです。彼がイギリス人の作曲家、トーマス・アトウッドに言ったことは印象的です。多くの弟子を取って教えた作曲学、主に対位法の授業中に、モーツァルトは、音の一つ一つがどのように終結するかはいわずもがな非常に大切なことだという作曲の基礎を説明しつつ、自分の研究はまだ終わっていない、これからもずっとこの研究を続ける、と言ったそうです。
もうひとつモーツァルトに関して言えば、彼のオペラを見てみますと、そこには彼が器楽曲を書いたときに払ったのと同じ注力が働いていることがわかります。ピアノ曲を書くときにも、そこに、美しいオペラのように、人や暮らしを見渡す目線があるのですね。

Q:ペライアさんは、オペラもお好きなのですか?
はい、とても好きです。

Q:観客としてご覧になるのがお好きなのですか?
ええ、そうです。そもそも私が音楽に馴染むようになったのも、オペラ好きの父に手を引かれて、毎週土曜日に劇場に連れて行かれたことに端を発しています。オペラは私のインスピレーションです。

Q:お父様も音楽家だったのですか?
いいえ、違います。でもとても音楽好きでした。母のほうはあまり一緒に出かけたがらなかったので、3~4歳の頃、いつも、土曜日になると、父が私の手を引いて劇場に連れて行ってくれたのです。

Q:たとえば、どんなオペラがお好きですか?
もちろん、いちばんよく見たのはイタリア・オペラの主要作品でした。ヴェルディ、プッチーニ作品はすべて見ましたよ。そのなかに、ときどき、モーツァルトのオペラもあって、「素敵だ!」と感じていました。思えばあの体験が音楽への最初の架け橋でしたね。

Q:予期せず、ペライアさんとオペラのお話をすることになりまして、驚いていますが。
(笑う)

Q:しかし、オペラには当然、ヴォーカルのパートがあります。そんな「人の声」の素晴らしさを子供時代に体験したことが、後年のピアノ演奏に影響しているのでしょうか?
もちろんです、確信があります。素晴らしい歌手の声を聞くと、スリリングな興奮を味わいますね。テノールの声を思い起こしてください、当時は、ジャン・ピアース<米、1904~1984>、リチャード・タッカー<米、1913~1975>をはじめ、ああ、全員の名前が思い出せません・・・私ももう70歳なので・・・66年前のことですから!(笑)。とにかく、素晴らしい歌手たちがいました。ソプラノにも素晴らしい歌手たちがいました、レナータ・テバルディ、マリア、カラス、そしてジョーン・サザーランドも聴きました。

Q:3月にペライアさんのリサイタルを聴きにくるファンのなかには、オペラ好きの方々もきっといますので、いまのお話はとても楽しい話題になりそうです。

高橋美佐(取材・通訳)

・・・Part 3へ続く
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静謐さと内なる情熱の音世界
マレイ・ペライア ピアノ・リサイタル
2018年3月23日(金)19:00 サントリーホール

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