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マレイ・ペライアのインタビュー Part3

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Q:3月にペライアさんのリサイタルを聴きにくるファンのなかには、オペラ好きの方々もきっといますので、いまのお話はとても楽しい話題になりそうです。
なによりです。ええと・・・シューベルトのお話がまだでしたね。シューベルトは、奇跡的な作曲家です、たった31歳で亡くなってしまいますが、その生涯になんと多くのゴージャスな作品を残してくれたことでしょう!ここでもやはり「人の声」のための、彼の歌曲集に心打たれますね。私は伴奏者として、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ氏と「冬の旅」を、ペーター・ピアーズと「美しき水車小屋の娘」を、ご一緒したことがあります。他の方たちとも多く共演しました。シューベルトの歌曲の、その、美のボリュームには圧倒されます。彼の楽曲はじつは、さらりと耳で聞いたときに受ける印象ほど簡単ではありません。むしろとても複雑と言ってよく、だからこそインスピレーションの源となります。彼はピアノ・ソナタもかなり書いており、私はすでにそのうち6曲を演奏しています。

Q:これら作曲家のうち、シューベルト、そしてモーツァルトの二人は、若くして亡くなりました。ペライアさんは来年71歳になられますが・・・あえて「成熟した」お歳でいらしゃると言わせてくださいね。
嬉しいですね、そう言っていただけると。しかし、はっきり言いまして、歳をとりましたね(笑)。

Q:伺いたいのはむしろ、その視点なのです。我々みな、ある程度の年齢になって初めて、先人たちの、つまり、自分より長く生きた人たちのことが見えてくる。若い時はそれがどういうことか、まったく想像できないのです。作曲家や楽曲について、ペライアさんがいま、ご自分の年齢に助けられて、過去にはわからなかったことがわかるようになった、ということはありますか?
日々、そのような発見が起こっている、と言いましょう。すべての瞬間がそのような発見に満ちています。「どうして、前に弾いたときには、このことに気づかなかったんだろう!」と、毎日自分に言っていますよ。そしてその度に、新たな洞察(=insights)が得られるのです。なんと嬉しいことでしょう・・・それらを得て、私はまた、以前に弾いた曲にいま立ち戻ることができ、そして見渡し、変化を加え・・・実質的に、新たに手を加えられるアイディアが増えているんです。いま、歳をとり、この境地に至り、そしてまだ先に進んでいくための時間も与えられている・・・こんなに幸せなことはありません。

Q:ぜひ、具体的な演奏の例でその変化を教えていただきたいですが。
その発見が具体的にどのようなものか、言葉で言うのは難しいのですが、技術的な意味では、ハーモニーに関することだったり、対位法的な規則性だったり、いろいろで、そしてその中には、若い時には思い浮かばなかった点も数々あります。また情緒的な目線も・・・それはそれで、やはり言葉にできませんが・・・あえて言えば、楽曲を一枚の絵画に例えたとき、私はそこに以前より大きなスケールの絵を見ている、と言っていいのかと・・・。構成しているさまざまなパーツに注ぐ目線は以前と同じでも、そのパーツが仕上げる全体像が、より大きなもののように感じます。ただ、若いころはさほど意識に上って来なかった「悲しみ」を、以前よりも、数多く、音の中に汲み取るようになった、とも思いますね。これはパフォーマンスにとって大切なことだと自覚しています。そして悲しみ以外の感情表現も、すべて、時とともに少しずつ違ったものになっていっていると思います。おそらくは日々を生きている私自身が、変化し、違う人間になっていっているのでしょう・・・完全に別人ではないですけれど、きっと、かなりの部分で。

Q:ご自身ではっきりと自覚されるほど、人間としての変化を感じておられる・・・それを、ぜひ、3月の演奏で私たちに見せてくださいね。楽しみにしております。
ぜひ、そんな姿を理解していただけるよう、最良の演奏を試みます。

Q:最後の質問は、当時としてはおそらく長生きしたほうでありましょう、ヨハン・ゼバスティアン・バッハについてですが。彼のバイオグラフィーをご覧になり、「行間に」なにを読みますか?
バッハに関しては情報がやや少ないですけれども、彼の書いた音楽から感じ取れることは、やはり強い宗教的な香りです。彼の音楽の基盤であり、彼の曲はみなその色に染まっていますね。たとえそれが宗教曲でなくても、やはり強い要素です。毎週毎週、教会のためにカンタータを書くことが仕事だったのですから、信心というものにすべての曲調が影響を受けていても不思議はない。悲しみの要素も見られます。「受難」のテーマはキリスト教のひとつの柱ですから。そしてもうひとつの宗教的要素、「救済」により喜びの園に至る、その幸福の概念です。すべての人々に与えられる未来への明るい希望です。バッハの音楽にも、こう考えますとやはり同様に深い感情の境地が、けれど宗教的な意味において、つねにあると思います。

Q:バッハの膨大な作品群を見渡すと、そもそもその総体をまとめて語るのは無理でしょうが、しかし、ときに、非常に重い、心に錘をつけられているような気分がする曲などもありますね。
そうですね、そしてその対極に、これは「J.S.バッハの天賦の才」と言える特徴だと思いますが、究極の軽やかさも存在する。いまおっしゃったような「重さの表現」は、バッハ以前にもあったと思うのです。ですが、そこに対極的なバランスをもたらしたこと・・・美しく重厚な部分を消さずにね。これがバッハの業績ではないでしょうか。

Q:今回演奏してくださる「フランス組曲」は、まさにそちらの、軽やかさを楽しむべき作品ですね。
そうです。そしてバッハの全体像にも思いを馳せてみてください。

Q:申し上げるのを忘れていましたが、まさにその「フランス組曲」のCDがグラミー賞にノミネートされたニュースが入っています。おめでとうございます。

ありがとうございます。

Q:ますます精力的にお仕事をされていることが伝わりますが、2018年は1月早々にテル・アヴィヴでのコンサートですね。こんごの大まかなスケジュールをぜひ教えてください。
まだまだ、元気に演奏が続けられると思いますが、同時に勉強もしたいですね。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全楽譜の出版についても、ヘンレ版の校訂・編纂の仕事が続いています。原譜の手書き譜とスケッチを研究していますので、そちらにも時間を割きたいのです。でも過去にまだ演奏していない、新しい曲にも挑戦しますよ。演奏スケジュールを減らす、ということではなく、ペースは保っていきますが、腰を落ち着けて勉強する時間をすこし増やそうと思っています。

Q:そのつねに前進するエネルギーはどこから生まれるのでしょうか?
わかりません。これまでもいつもこうしてきましたし、これが私の自然なありかたで、そもそもがエネルギッシュな人間なのだと思います。

Q:ペライアさん、今日は、いろいろなお話、ほんとうにありがとうございました。
こちらこそどうもありがとう。再会を楽しみにしています。

高橋美佐(取材・通訳)

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静謐さと内なる情熱の音世界
マレイ・ペライア ピアノ・リサイタル
2018年3月23日(金)19:00 サントリーホール

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