2018/6/6

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大西宇宙のインタビュー[ロシア・ナショナル管弦楽団]

アメリカで夢を掴んだワンダーボーイ・バリトンが今年、
日本のオペラ・シーンでも本格始動!
武蔵野音楽大学・大学院を卒業後、ニューヨークが世界に誇るジュリアード音楽院の主催する声楽オーディションで最優秀賞を受賞し、日本人としては数少ない声楽専攻生として同音楽院に入学。その後、大学院終了者のうち一握りしか進むことができないアーティスト・ディプロマ・コースをトップの成績で収め、2015年からは名門シカゴ・リリック・オペラに所属し活躍中。そんな期待の若手バリトンが6月に来日。プレトニュフ指揮&ロシア・ナショナル管弦楽団によるチャイコフスキーの歌劇《イオランタ》(演奏会形式)でロベルト公爵役を演じ、その1週間後には待望の本格的なソロ・リサイタルに挑む。

――オペラ歌手になるのは子どもの頃からの夢でしたか?
いいえ、全然(笑)。ピアノを4歳から習っていましたが、オペラとは無縁のごく普通の家庭で育ちました。歌うのは好きでしたが、中学からは吹奏楽部でずっとチューバを吹いていましたね。それが高校の時に、オペラの曲を演奏したり、合唱に参加したり、音楽の授業でカンツォーネなんかを歌っているうちに、だんだんクラシックの声楽に興味が湧いてきたんです。それで高校3年から音大を目指して自主的に練習していたら、ある時期を境に自分でも声に手応えを感じるようになった・・・ずっと楽器をいじっていたら急に思い通りの音が出たみたいに!目の前にぱっと世界が広がったように感じた瞬間でした。

――武蔵野時代はどんな音大生でしたか?
勉強熱心な学生でしたよ。最初はとにかくベルカントを中心に歌っていましたが、大学院に進む頃にはイタリアものだけでなく、フランス語やロシア語、英語の歌といろんなものに手を出すようになった。周囲を見わたしてもあまりそういうタイプはいなくて、先生にも「ひとつのことを極めた方がいい」ってよく言われていました。留学先もまわりは圧倒的にイタリアが多かったのですが、自分としてはどうも気が進まなくて・・・

――それで渡米を決意したのですね。
先輩からの助言もありましたが、もともと英語やアメリカ文学が好きで憧れがあった。多様性に富んだ複雑な文化的背景を持ち、世界中から才能が集まるアメリカでなら、様々な国のオペラを本格的に学べると思ったのです。それで高校時代にニューヨークを訪れたこともあり、どうせ受けるならジュリアードだと思ってチャレンジしたら・・・まさか本当に入れるなんて! 日本人としては10年ぶりの声楽専攻生で、結局4年間、自分だけだったので英語力もかなり鍛えられました。

――どんな4年間でしたか?
大学院コースとプロフェッショナル養成所であるアーティスト・ディプロマ・コースを2年ずつ。文字通り音楽漬けの日々で、音楽理論や発音法を学び、発声レッスンやオペラの演技指導などを受け、空いた時間にも予習や自主練習は欠かせなかった。でも、在学中に《フィガロの結婚》や《エフゲニー・オネーギン》などに主要キャストとして抜擢されたほか、学内オーディションを経てリンカーン・センターでリサイタル・デビューを果たすこともでき、とても充実した4年間でした。

――そして、名門オペラ・ハウスに入られました。
リリック・オペラは1954年の創設ですが、最初のシーズンにマリア・カラスが伝説的なアメリカ・デビューを果たして以来、数多くのスターを輩出してオペラ・ファンを魅了して来ました。劇場が大きく、定番の人気作品から現代ものまでレパートリーも幅広い。「全盛期のパヴァロッティをよく憶えている」みたいなことを言うスタッフや耳の肥えた聴衆が多くて、鍛錬の場所としては最高。基本はアンサンブル・キャストですが、カヴァー役も務めます。最初の大きな役はオネーギン。途中降板した歌手に変わって終幕だけの出演でしたが、それで信頼を得て、いろんな役をやらせて貰えるようになりました。

――6月の《イオランタ》公演でのロベルト公爵役がとても楽しみです。
オネーギンもそうですが、チャイコフスキーのオペラでバリトンはいつもどこかクセのある役なんです。イオランタ姫の許嫁なのに別の女性に恋している公爵には、登場してすぐに歌う情熱的なアリアなどもあって、とても魅力的なキャラクターです。日本ではあまり上演されることのない作品ですが、盲目の美しいお姫様をめぐるおとぎ話のようなラヴ・ストーリーで、とにかくチャイコフスキーの音楽が美しい。一幕ものですので初めての方にもぜひお勧めしたい。シカゴでの僕のロシア人コーチに「指揮者は誰なの?」って訊かれたのでミハイル・プレトニュフだよって答えたら「オー・マイ・ゴット~それは凄い!」って興奮していました。

取材・文:東端哲也

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2018 ロシア年&ロシア文化フェスティバル オープニング
ロシア・ナショナル管弦楽団 ミハイル・プレトニョフ(創設者/音楽監督)
2018年6月12日(火) 18:30開演 サントリーホール
公演詳細はこちら

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