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アイディアマン、カヴリリュクが一夜に弾く「ロシア3大ピアノ協奏曲」

 2000年11月、弱冠16歳の金髪の美少年アレクサンダー・ガヴリリュク、愛称サーシャが浜松国際ピアノ・コンクールに優勝したとき、桁外れの技量を持つ、フレッシュなピアニストの出現に、筆者は目を瞠(みは)った。さすが、ロシア・ピアニズムの鉱脈は深くゆたかなものだと感心したのを覚えている。その後のサーシャは、リサイタルでも協奏曲でも胸のすくような演奏を聴かせ、まさに快進撃という言葉がぴったりだった。ところが、2年後、彼は自動車同乗事故に巻き込まれ、意識不明の重体に陥る。しかし幸いにして、彼の若さとピアノへの熱い思いが奇跡を呼び起こし、不死鳥のようにカムバックを果たした。それからというもの、持ち前の驀進力(ばくしんりょく)と超絶的なテクニックに加えて、療養中の思索で培われたらしい中身の濃い演奏を聴かせるようになり、多くのファンを魅了してきた。 今回、彼は「ロシア3大ピアノ協奏曲」を演奏する。その3曲とは、成立順にはチャイコフスキーの1番、ラフマニノフの2番、プロコフィエフの3番だが、実はこれらを「ロシア3大ピアノ協奏曲」と命名し、一夜にして3曲を一気に披露しようというのは彼自身の発案だという。筆者の知る限り、この3曲を同じピアニストが同一のコンサートで弾いた例はない。これは実に珍しく、また興味深い企画だ。どうやらサーシャはピアニストとしてのみならず、プロデューサーとしても卓抜なひらめきに恵まれているようだ。ただし、どんなにアイディアが素晴らしくても、実行力が伴わなければ頭の中だけで終わってしまう。でも、この3曲の難曲を若い頃から弾き込んできた彼にとって、技術や体力の上での壁はない。むしろ重要なのは、この3曲にどのような音楽を盛り込み、ロシアの文化と歴史の中にそれぞれを位置付けながら、美しい演奏の花を咲かせることだ。
帝政ロシアに西洋クラシック音楽が根をおろしつつある19世紀に、自国の民族カラーを濃厚に反映させ、美しいメロディーをふんだんに散りばめて書かれたチャイコフスキーの1番。20世紀の始まりの年に作曲されながら、19世紀の残照とメランコリックな情感に彩られたラフマニノフの2番。ロシア革命の混沌を国外に逃れたプロコフエフが、古き良きロシアへの惜別の情も込め、新体制への皮肉を滲ませながらフランスで完成させた3番。それぞれの作曲背景はまさにロシアの歴史そのものだ。ただし、唯一、長調で書かれたプロコフィエフを間に挟む演奏順となるが、これら3曲を自国の代表的なピアノ協奏曲として選び出し、各曲に洞察力を巡らしながら、要求されるテクニックをすべてクリアして一挙に弾く。これはガヴリリュクでなければできない壮挙だ。
 東京交響楽団を指揮するのは、2017年の第8回ショルティ国際指揮者コンクールを制覇した若手、ヴァレンティン・ウリューピン。クラリネットのソリストとして多くのコンクールに優勝歴がある彼は、ピアノ協奏曲の並走者としてもうってつけの指揮者ではなかろうか。

文:萩谷由喜子(音楽評論家)

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音楽史に凛然と輝く!
アレクサンダー・ガヴリリュク ロシア3大ピアノ協奏曲
2018年9月12日(水) 19:00開演 東京芸術劇場 コンサートホール
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