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目で聴くシューマン・ツィクルス Vol.1 【ドレスデン国立歌劇場管弦楽団】

 バイロイト音楽祭で「ローエングリン」「トリスタンとイゾルデ」を指揮し、躍進続くクリスティアン・ティーレマン。10月31日・11月1日に東京で、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団とシューマンの交響曲全曲演奏会を行います。シューマン好きにとっては、聴き逃せないコンサート。今回、音楽評論の舩木篤也さんが、シューマン:交響曲第1番・第2番を中心に、作品の魅力を掘り下げてくださいました。  ロベルト・シューマンの交響曲第1番の冒頭。ホルンとトランペットが声を合せて鳴らすふしに、歌われない歌詞があるのをご存知だろうか?「おお、変えよ変えよ、お前の行く手を」という。これに続くオーケストラの応答は、「谷間には春が萌えている」。これらはアドルフ・ベトガーという人の「春の詩」の一節。シューマンはこの詩に霊感を受け、曲を着想したのだ。なるほど、原文を読んでみると、詩句のリズムと冒頭の音楽のリズムはぴたりと一致する。
 詩にいわれる「お前」とは、冬をおおっていた雲の霊を指しているのだが、実際、シューマンは暗い「冬」を過ごしてきた。なんといってもクララとの結婚が、彼女の父親から猛反対されたのはつらかった。だが2人は抵抗に打ちかった。1841年。クララと迎えたさいしょの新年に、ピアノ曲や歌曲ではなく、喜びが炸裂する春の交響曲を仕上げたとき、ロベルトの胸中はいかばかりであったろう?

 ベートーヴェンやシューベルトをつぶさに研究していたシューマンは、もちろん、一私人としてではなく、音楽家として新しい交響曲を模索していた。1845/46年の第2交響曲(実際には3番目にあたる)は、そのきわめてユニークな成果と言えよう。
 冒頭、これもまた金管楽器で奏でられる「ド」と「ソ」の信号が、全曲中、なんども現れるのだ。それならベルリオーズの「幻想交響曲」に似たような例があるとおっしゃる向きには、いま一つ、「苦闘の身ぶり」を挙げておこう。これは筆者が勝手にそう名づけたのであるが、音がしばしば高みを目指して、時にじっくりと、時にもがきながら上昇してゆく。そして終楽章ではついに、「ド」から「ド」へ、2オクターヴもの跳躍をあっという間になし遂げる。筆者にはこれが、どうにも心の叫びに聞こえてならない。
 住み慣れたライプツィヒからドレスデンに移り住んだシューマンは、本作の作曲中、精神的な苦境にあった。そんな彼を支えたのはバッハの音楽であり、バッハ研究をともにしたクララだった。ハ長調で書かれた第2交響曲の中心音「ド」は、あちらの音名ではC。クララの頭文字Cと重なるのは、たんなる偶然だろうか?

 2作とも純粋に音楽として、とても美しい交響曲。だがそれは、それを生んだ人の生に、一篇の詩として深く食い込んでいる。願わくはそこも聴き届けられれば。

舩木篤也(音楽評論)
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ティーレマン×シューマン~陶酔のロマンティシズム
クリスティアン・ティーレマン指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
2018年10月31日(水) 19:00開演 サントリーホール
2018年11月1日(木) 19:00開演 サントリーホール
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次回は、交響曲第3番・第4番についてをお届けいたします