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来日迫る!クリスティアン・ティーレマンの近況レポート【ドレスデン国立歌劇場管弦楽団】

 いよいよ1ヶ月後に迫る、クリスティアン・ティーレマンとドレスデン国立歌劇場管弦楽団による、シューマン交響曲全曲演奏会。“シューマンの夢幻的で、詩的な初期ロマン派の精神性の真髄を、より強く、深く感じていただけると思います”とのマエストロの言葉のとおり、歴史的演奏への期待が高まります。今回、マエストロが中心的役割を担うバイロイト音楽祭に赴かれた、音楽評論の舩木篤也さんからの近況レポートをお届けします。(c)Matthias Creutziger

『複合体のうまみ ~バイロイトのクリスティアン・ティーレマン』

 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団を率いて、クリスティアン・ティーレマンがふたたび日本にやってくる。さて、彼の近況は?そこで、去る2018年の8月に筆者が見聞したバイロイト音楽祭での様子をご報告しよう。
 ティーレマンは自らを好んで「カペルマイスター」と呼ぶ。指揮者とか、芸術家などとは絶対に言わない。ドイツ語の「カペルマイスター」が持つニュアンスは、楽団や組織によって微妙に異なるのだが、文字どおりに訳せば「楽長」であり、彼もこの意味で用いているのだろう。つまり、自分はひとりスポットを浴びる存在ではなく、あくまでも全体に目配りを利かす役に徹しているというわけだ。
 だが、そこまで謙遜する必要があるだろうか?筆者はこれまで、そう思っていた。2015年にバイロイトの「音楽監督」の座に就いて以来、ティーレマンは名実ともに音楽祭の顔、カーテンコールで決まって大喝采を浴びるスターである。だからというばかりではない。どの演奏においても、彼の個性が、あまりに濃い個性が、前面に出ることがあるからだ。 たとえば<トリスタンとイゾルデ>第2幕の終わり。裏切り者メロートの刃に向かってトリスタンが自ら身を投げると、オーケストラは悲痛な叫びを上げる。その際、彼の棒に掛かると、裏拍を突く和音が、類例がないほどに粘る。なるほど、傷を負ったトリスタンが、よろめいているということか?だが一方で、「これぞ我が芸なり」と指揮者が念を押しているようにも聞こえないだろうか。いや、それでもティーレマンは、たしかに全体に奉仕している。そう痛感できる場面を、今回、いろいろと発見した。
 たとえば<ローエングリン>第2幕。エルザがオルトルートに向かって、「信じることによってただ私たち(=エルザとローエングリン)だけに与えられているような幸福を、あなたは味わったことがないのね」と歌う場面。「私たち」「だけ」の語に目立った強勢が置かれていたが、あとで楽譜を確かめたら、なんとそこにアクセント記号が記されているではないか。つまりあれは「芸」ではなく、作曲家の意図したところを、オーケストラと歌手の双方にしかと伝えた結果だったのだ。これにより、「排除されるオルトルート」というドラマの構図が、くっきりと浮かび上がることになった。
 強い表現意欲と、周到な目配りと。指揮者ティーレマンは、それらの複合体であると言える。ドレスデン勢と聴く今回の来日公演は、オペラではないけれど、この複合体のうまみは、シューマンの交響楽でもきっと発揮されるに違いない。

舩木篤也(音楽評論)

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ティーレマン×シューマン~陶酔のロマンティシズム
クリスティアン・ティーレマン指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
2018年10月31日(水) 19:00開演 サントリーホール
2018年11月1日(木) 19:00開演 サントリーホール
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