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一夜限りの「イワン雷帝」 テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

来る11月13日、ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団によるプロコフィエフのオラトリオ「イワン雷帝」が一夜限りで演奏されます。この特別な演奏会について音楽評論の東条碩夫氏がご執筆くださいました。ぜひご覧下さい!「イワン雷帝」、音楽は全然怖くありません。

恐ろしげな肩書や絵姿を見て、こんな怖い皇帝が主人公になっている音楽なんかとても、と引き気味になっている方もおられるかもしれないが、このオラトリオで描かれる「イワン4世」には、未だいわゆる「雷帝」の雰囲気はほとんど無いのだ。全曲の最後は、彼の帰還を待望する群衆の大合唱で壮大に結ばれるのである。

その音楽には、もちろんダイナミックで劇的なものも多いが、その一方、いかにもロシア民謡的な雰囲気を持った曲も多い。最弱音で始まる合唱「草原はタタールに支配され」は、オペラ「戦争と平和」にも出て来るもので、筆者も大好きな曲なのだが、これはもう美しさの極みだ。また、チャイコフスキーの「1812年」でおなじみのロシア聖歌も聞こえて来る。意外に、耳に馴染みやすいオラトリオなのである。

そして原曲ではロシア語のナレーションがストーリーを紹介するのだが、これがそのままの形で上演される機会はなかなか無い。その意味でも今回は、実に貴重な機会と言うべきであろう。これは、テミルカーノフが是非とも日本でこの形により上演したい、という強い意向によって実現されたものだというそういえば、テミルカーノフが先輩ムラヴィンスキーの後任として、当時はレニングラード・フィルという名称だったこのサンクトペテルブルグ・フィルの音楽監督・首席指揮者となってから、今年でちょうど30年になる。早いものだ。

壮年の頃にはかなりアクの強い指揮で知られていた彼も、70代半ばになったあたりからは自然体の裡に深々とした情感や強い緊迫感を湛えるという、巨匠ならではの味を出すようになって来た。今では、指揮の身振りだけは「物静か」なものになったが、しかし彼がほんの少し腕を動かすだけで、オーケストラは怒涛の如く盛り上がり、揺れ動く。「眼」と「意志」の力だけで大軍団を制御する。まさに巨匠の芸である。

かつて学生ゲルギエフの才能を見抜き、「きみ、卒業したら僕の助手になれ」と一方的に通告、キーロフ(現マリインスキー)劇場でプロコフィエフの「戦争と平和」を上演した際に新人の彼をいきなり抜擢して指揮させた話、あるいは後年、「このままでは優れた才能がみんな国外へ流出してしまうぞ」と政府に掛け合い、歌劇場やオーケストラなど主たる音楽組織の給料を上げさせた話など、大胆な行動力を示すエピソードには事欠かないテミルカーノフ。その指揮表現も、今なお強靭な気魄に満ちる。

今回は、その彼が指揮する「イワン雷帝」━━。

東条碩夫(音楽評論)

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テミルカーノフ80歳記念公演 ロシア最高峰の巨匠とオーケストラで聴く 薫り高き響き
ユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

2018年11月12日(月) 19:00開演 サントリーホール
《プログラム》
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47 (ヴァイオリン:庄司紗矢香)
ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 作品27

2018年11月13日(火) 19:00開演 サントリーホール
《プログラム》
プロコフィエフ:オラトリオ「イワン雷帝」作品116

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