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”世界中で大ヒット《アンナ・カレーニナ》の謎”~ボリス・エイフマン スペシャル・インタビュー Vol.2

前回のVol.1では、≪ロダン~魂を捧げた幻想≫に込めたものをお話くださいました。Vol.2では、世界中で大ヒットしている≪アンナ・カレーニナ≫の謎を解き明かします。≪アンナ・カレーニナ≫でエイフマンさんが一番表現したかったことは、何なのでしょうか?

ボリス・エイフマン(以下B.E.):『アンナ・カレーニナ』は、トルストイの有名な小説です。描かれているのは、夫、妻、愛人という平凡な三角関係のストーリー。しかし、平凡であるにも関わらず、なぜ、多くの映画監督や舞台演出家、バレエ振付家が、この物語がこんなにも取り上げるのでしょうか。

それは誰もが、アンナ・カレーニナという女性の秘密を謎解きたいと思うからでしょう。どうして彼女は、自分や周囲の人々の精神を壊し、社会や神に逆らってまでも、子供を、家族を捨てるまでになってしまったのでしょう。

トルストイは、自作の中で、女性の心理分析を行っています。その分析を私なりに再度分析した結果、私がこのバレエで表現したのは、アンナという女性が、男たちとの愛、愛から生じる“情熱”というものの犠牲になってしまったということです。大きな破壊力となり得る“情熱”によってアンナの心は病んでしまい、変わっていきます。小説の中に、このようなシーンがあります。アンナが鏡に向かって言うのです。「これは私ではない、別人だ」と。彼女の中で、別の人間が生まれてしまっているわけです。そして最後には、すべてを破壊してしまったその女性(つまり自分)を殺すという選択をします。
二重人格というのは、一人の人間の中に、二人の人格が共存することをさしますね。その表現方法として、二人のダンサーを使うこともありますが、≪アンナ・カレーニナ≫では、一人のダンサーが2つの人格演じ分けることによって、その精神状態を表現しています。2幕で、アンナが裸(ボディタイツ)姿で踊るシーンです。あのシーンのアンナは、“情熱”という病に囚われた別人なのです。そして夫カレーニンもまた、その犠牲となった一人です。
カレーニンは、アンナの裏切りを正当化するために、悪者として描かれることが多くありますが、私が描くカレーニンは、まだハンサムで若い、そして深く傷ついた人間です。
先ほどから申し上げている“情熱”とは、一体何なのでしょう。それは、ある時突然人の心に棲みつき、台風のようにすべてを破壊してしまう非合理的なものです。カレーニンは何も悪くない、非合理的な力による犠牲者です。それはヴロンスキーにもいえることです。
トルストイは、作中で「なぜ?」「何のために?」という疑問を頻繁に投げかけます。すべては非合理的な力が働いたがゆえに起きたことなのです。

これまでのお話を聞いていると、最後にアンナが列車に身を投げるシーンは、まるでアンナの魂の解放のように感じられます。

大切ポイント!
B.E.:その通りです。アンナは、自殺という手段を選ぶことで、同時に、自分を苦しめていたもう一人の女性を殺したのです。自分の中に棲みついてしまった邪悪な力に終止符を打ち、解放されたのです。そして、自分自身のみならず、夫や愛人をも解き放つことができました。

注目ポイント
もう一つ、私の≪アンナ・カレーニナ≫の特徴をお教えしましょう。先ほど申し上げた通り、この原作をバレエ化したものは多くあります。
当然、アンナを最後に轢き殺してしまう汽車を、大道具として舞台に登場させる演出もあります。でも私は、物質的な力で、つまり大道具の力を借りてアンナを殺すのではなく、あくまでも振付の力で、アンナを死なせることに拘りました。私のバレエに、汽車の大道具は登場しません。結果的に、この最後のシーンは、振付による心理描写の一番強いシーンとなっています。≪ロダン≫も≪アンナ・カレーニナ≫も、お話をうかがっていると、エイフマンさんが作品をつくるインスピレーションの源は、「なぜだろう?」という謎にあるように思います。

重要!“心理バレエ”という新たなジャンルの追求
B.E.:私たちエイフマン・バレエは、“心理バレエの劇場”と呼ばれます。演劇の世界における心理劇の一番のリーダーは、チェーホフですね。私たちは、バレエの世界における新たなジャンルとして、“心理バレエ”を追求し続けています。私たちが求めているのは、身体という“言葉”を通して、人の内面の世界を表現することです。
通常、バレエが見せるのは、人の身体の美しさや動きの美しさ、つまり外面的な美です。しかし私たちは、人の心をより深く掘り下げ、その内面の世界を動きで表現しようとしています。私は、人の身体とは、心の世界を表現するための最良の道具だと考えているのです。

私たちのバレエが、アジアやアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなど、世界各国で好評いただいているのは、バレエというお馴染みの芸術でありながら、まったく新しいバレエに触れることができるからでしょう。テレビやインターネットでは決して得ることができない、大きなエネルギーを受け取ることが出来るのです。情報は簡単に手に入っても、生きた感動をなかなか得ることが出来ない昨今、私たちのバレエで大きな力を得ることが出来る。だから、世界中の皆さんが、私たちのバレエを見に来てくださるのです。さながらエネルギーを充電するために。

次回Vol.3では、ボリス・エイフマンが、“エイフマン・バレエ”スタイルを解き明かします。

Vol.1はこちらから
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エイフマン・バレエ
「ロダン ~魂を捧げた幻想」

2019年7月18日(木) 19:00
2019年7月19日(金) 19:00
「アンナ・カレーニナ」
2019年7月20日(土) 17:00
2019年7月21日(日) 14:00
会場:東京文化会館
公演の詳細はこちらから