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【チャイコフスキー・フェスティヴァル2019 マリインスキー・オペラ】出演者が語る<スペードの女王>の魅力~ミハイル・ヴェクア(2)

出演者が語る<スペードの女王>の魅力。ゲルマンを歌うミハイル・ヴェクア。マリインスキー劇場で最も活躍する一人です。作品について興味深い解釈を、前半・後半でお届けしています。
前半はこちらからゲルマンという役柄についてお尋ねします。物語でゲルマンはリーザを愛しており、愛する人への気持ちはとても強いけれども、自分はカード賭博で勝利してお金を得たい。結局、ゲルマンにとって自分の愛よりも欲望の方が勝ってしまう。ヴェクアさんはゲルマンをどの様な人物と思われますか?

そのように解釈もできます。例えば、こんな風にも見ることができます。プーシキンの原作を読むと、ゲルマンに、いつカード賭博への情熱が芽生えたのか、それが何故なのかはわかりません。自分の経済的状況を良くしてリーザに自慢するためなのか。それとも、リーザへの愛も賭博への情熱も同時に生まれたのか。もしくは、賭博には常に強く惹かれていて、リーザへの愛は後から芽生えたのか。幾とおりにも解釈できます。
プーシキンは、人間の情熱や性格の核心を捉えていると思います。それをさらに発展させることもできたでしょうが、人間関係の重要な点や、内面世界の構成要素を扱うにとどめています。
チャイコフスキーは、プーシキンの原作を大幅に変えました。原作では、ゲルマンは発狂し、一方リーザは結婚します。チャイコフスキーのオペラでは、ご存知のように、ゲルマンはナイフを自らに突き立て、リーザは運河に身を投げて死にます。プーシキンの詩も、チャイコフスキーのオペラも、多面的な作品なのです。

小さな子供でさえ、どんな人もその生を生きているのですが、正しい身の振り方ができないこともあります。正しい生活が何であるのか理解していても、正しく生きることが上手くできないこともあります。ゲルマンはドイツ人で、非常に慎ましい生活を送っています。その中で4万ルーブルものお金を貯めたのです。帝政期にそれは大変な額です。プーシキンの原作では、ゲルマンは技師であり、一生かけて節約し、その額は4万ルーブルにもなったとあります。倹約家で、よりよい生活のためにお金を貯め続けたのです。賭博場に毎日通いながらも、それを賭博に使う激しさも持ち合わせていませんでした。ゲルマンの人生に「愛」が、「愛」というよりは「熱情」が生まれたとき、彼に内面の葛藤が始まります。ゲルマンが恋するリーザは高貴な家柄で、彼のものになるわけにはいかない運命ですが、彼はその運命に抗いたいと思います。ここでゲルマンの内面の激しい葛藤が生まれます。人は、何が正しい行いが何かわかっていながら、時には正しく行動できないことがあるのです。心の内では自分はこうしたいと思うけれど、現実ではそのようにいかない、という葛藤があるからです。

<スペードの女王>の第一幕第一場のラストに、雷雨と仲間内で呼んでいる場面があります。ゲルマンが「雷、稲妻、風よ。あなた方の前で私は厳粛に誓います。彼女は私のものになると。私のものに」と言う歌詞です。彼は、自分の心の中に湧き上がる熱情が、雷よりも大きいのだと言います。どれだけの情熱が彼のうちに渦巻いているのか、想像できるでしょうか。彼の頭の中、心の中で燃え尽きた内面の葛藤があまりにも強すぎて、この雷よりも大きいのだと歌うのです。舞台の最後に、ゲルマンがスペードのクイーンを引いたとき、彼の頭の中ではどんな感情が響いているのかお聞かせくださいますか。

最初、ゲルマンはカードを見てさえいません。彼はそれがまさに1のカードであると信じ切っていて、「あなたが持っているのはスペードのクイーンです」と周りに言われても、冗談を言っているのだと思います。彼は「何のカードですか」と聞き、「スペードのクイーンです」と言われ、「まさか」。そしてカードを見て驚愕します。
プーシキンの原作では、ゲルマンは発狂し精神病院でひたすら「3、7、1…3、7、クイーン…」と繰り返します。チャイコフスキーのオペラでは、彼の葛藤が行き詰まるがゆえに、自殺以外の選択肢を見つけることができなくなります。ステパニュクの演出では、それを人生がトランプのカードにぶつかって壊れるという描き方をしています。ゲルマンはラストで物理的に自分を刺すのではなく、トランプのカードでできた家の上に倒れるのです。そして事実上死にます。トランプへの熱情、そして私が思うに、リーザへの熱情の角にぶつかるかのようにして。リーザへの思いが愛だったら愛が勝ったでしょうが、それはやはり熱情だったのでしょう。演出家ステパニュクは、物語を子供時代のゲルマンが自分の理想であるトランプのピラミッドを作る場面から始めています。権力に、貴族に近づき、貴族になり、裕福になりたいと。このオペラの最初に作ったピラミッドは、最後に崩壊します。とても興味深いお話を有難うございます。「愛」と「熱情」の違いは難しく、人は「熱情」にあるとき突然とりつかれ、それは人生を破壊させるほどの力を持っているのですね。
さて、マエストロゲルギエフは、あなたにとってどのようなインスピレーションを与える存在ですか?


ゲルギエフは、現代の卓越した指揮者、天才だと思います。彼の解釈はいつも新しく、新鮮で、他に例を見ません。毎回、音楽は新たな生彩を放ちます。そして、ゲルギエフの指揮で、歌手が本領を発揮できます。これは最も重要なことです。例えば、ガルージンが、私が、もしくは他のアーティストがゲルマンを歌う時、その歌手その人の性格を引き出すのです。ここに彼の天性の才能があります。彼の天才的なところは、歌手に演じる上での自由を感じさせる点です。それでいて、あくまでクラシックの手法に、作曲家が書こうとしたものに依拠します。彼は歌手をこのように助け、翼を与えてくれます。最後に、日本の観客の皆さんに一言お願いします。

訪日をとても楽しみにしています。日本は独自の文化を持つ素晴らしい国で、日本人は非常に古い起源を持つユニークな民族です。この偉大な日本文化に触れられることを心待ちにしています。日本を知るたくさんの時間ができるといいなと思っています。

ありがとうございました。

【チャイコフスキー・フェスティヴァル2019 マリインスキー・オペラ】
《スペードの女王》あらすじ
ゲルギエフとマリインスキー劇場、活気に満ちた白夜祭
■出演者が語る<スペードの女王>の魅力

ミハイル・ヴェクア(1) / ミハイル・ヴェクア(2) / エカテリーナ・セルゲーエワ / ロマン・ブルデンコ(1) / ロマン・ブルデンコ(2)

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巨匠ゲルギエフ&ロシア芸術の殿堂 マリインスキー歌劇場が総力を結集して贈る
マリインスキー歌劇場 チャイコフスキー・フェスティヴァル2019
▼画像をクリックするとPDFで詳細をご覧頂けます▼
歌劇「スペードの女王」
2019年11月30日(土) 15:00 東京文化会館
2019年12月1日(日) 15:00 東京文化会館
歌劇「マゼッパ」(コンサート形式)
2019年12月2日(月) 18:00 サントリーホール
マリインスキー 歌劇場管弦楽団 演奏会
2019年12月5日(木) 19:00 サントリーホール(チェロ:アレクサンドル・ブズロフ)
2019年12月6日(金) 19:00 東京文化会館(ヴァイオリン:五嶋龍)
2019年12月7日(土) 13:00 東京文化会館(ピアノ:セルゲイ・ババヤン、辻井伸行)
2019年12月7日(土) 18:00 東京文化会館(ピアノ:セルゲイ・ババヤン)
特設サイトはこちらから

マリインスキー 歌劇場管弦楽団 日本公演 <東京以外の公演>
2019年11月28日(木) 19:00 福岡シンフォニーホール(ヴァイオリン:五嶋龍)
(問)アクロス福岡チケットセンター 092-725-9112
2019年11月29日(金) 19:00 レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール(ピアノ:松田華音)
(問)県民ホールサービスセンター 087-823-5023
2019年12月3日(火) 19:00 アクトシティ浜松 大ホール(ヴァイオリン:五嶋龍)
(問)公益財団法人浜松市文化振興財団 053-451-1114
2019年12月8日(日) 14:00 フェニーチェ堺 大ホール(堺市民芸術文化ホール)(ヴァイオリン:五嶋龍)
(問)フェニーチェ堺 072-228-0440