フィルハーモニア管弦楽団

活動のエッセンスが凝縮された日本公演
後藤 菜穂子（音楽ライター／在ロンドン）

　サロネンとフィルハーモニア管弦楽団のコンビも早いものでこの秋で5年目に突入する。その間に筆者が聴いたなかで心に残る名演としては、息もつかせぬほど精緻でスリリングだったマーラーの交響曲第6番、モダンで洗練されたシベリウスの交響曲第2番、そして昨シーズンのハイライトであった映像付きのバルトークの《青ひげ公の城》が挙げられる。
　サロネンの指揮のアプローチは、作曲家の視点から作曲のプロセスを論理的に分析し、きわめて緻密に音楽を組み立てていくものだ。しかしいざ指揮台に立つと、そうしたアプローチを超えた異次元のダイナミックなドラマを繰り広げてくれるのが彼の大きな魅力といえよう。
　フィルハーモニア管とは就任以来、首席指揮者およびアーティスティック・アドバイザーとして大規模な年間プロジェクトを企画、オーケストラとしての特色を強く打ち出してきた。ウィーン世紀末の音楽、バルトークのシリーズ、そして2013年はルトスワフスキ生誕100周年記念のシリーズを手がける。また2013年の《春の祭典》の初演100周年を記念したコンサートもハイライトの一つだ。ここ一年はベートーヴェンにも力を入れており、10月にはボンのベートーヴェン音楽祭で交響曲ツィクルスを行う。さらに、フィルハーモニア管は独自のデジタル・インストレーションのプロジェクトでも高い評価を受けており、数年前の《春の祭典》をもとにしたRE:RITEに続き、この夏はロンドンの科学博物館においてホルストの《惑星》の演奏を映像化した展示が人気を呼んでいる。
　3年ぶりとなる来日公演でも、こうした最近の活動のエッセンスが詰まったプログラムが用意されている。ソリストについても、ピアノのレイフ・オヴェ・アンスネスはサロネンとは共演も多く、この秋のシーズンの開幕公演でもベートーヴェンで共演、また諏訪内晶子もフィルハーモニア管のレギュラーなソリストのひとりであり、サロネンとともにしなやかでスタイリッシュで演奏を生み出してくれることだろう。