チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル

正統派ピアニストの極めるべき道

2017年5月のリサイタルから長い時を空けず、チョ・ソンジンが再び来日して、魅力的なプログラムを届ける。彼のように、公演のたびに新しい顔を見せる演奏家のリサイタルは毎回欠かさずに通いたくなるが、とくに今回は、これからも彼が力を注いでゆくのであろう重要な分野の作品が揃う。生涯を通じて取り組みたいと語るベートーヴェンのピアノ・ソナタからの２曲、フランスものから、2018年に没後100年を迎えるドビュッシー、そしてショパンのピアノ・ソナタ第３番と、正統派ピアニストの極めるべき道をまた一歩進んでゆくような内容だ。
ベートーヴェンの悲愴ソナタは、これまでにアンコールで胸に沁みるような美しい第２楽章「アダージョ・カンタービレ」を披露したことはあったが、日本のリサイタルで全楽章を演奏するのは初めて。
また、楽しみなのは、チョ・ソンジンならではの強く前向きな音が奏でるベートーヴェン晩年の第30番のソナタ。いつかソナタ全曲演奏をしたいという彼は、これまでにも後期三大ソナタの第31番をはじめいくつかのソナタを弾いているが、その計画が着々と進められていることを示す嬉しい選曲だ。
そしてパリ生活も約５年となる今取り組むドビュッシーから、「映像」第２集(東京公演)と第１集(横浜公演)。ドビュッシー弾きとしても評価の高い師のミシェル・ベロフから受け継ぐものに加え、チョ・ソンジンのピアノ最大の魅力のひとつである透明感ある音を生かした表現を聴かせてくれるだろう。
　ショパンの新しいレパートリー、ピアノ・ソナタ第３番への期待も大きい。第２番の葬送ソナタについては、2015年のショパンコンクールで演奏している。そこからさらに音楽的な発展がみられるこの第３番のソナタで、ショパンのハーモニーをいかなる形で輝かせ、どんな感情の揺れを描き出すのだろうか。
極めて忙しい演奏活動の中、高水準の演奏を保つだけでも簡単なことではないが、チョ・ソンジンはもちろん、それだけで満足する人ではない。少しの間ではっとするような変化を見せる。目が離せないピアニストだ。

高坂はる香(音楽ライター)