2014/12/4
ニュース
アレクサンダー・ロマノフスキーに聞く
秋深まる11月、長崎の若者たちの交流プログラム、教会でのリサイタルのために来日したアレクサンダー・ロマノフスキーさんに、来年1月に予定されているリサイタルについてお話を伺いました。
Q:今回は短い日本滞在でしたが、長崎の訪問はいかがでしたか?
アレクサンダー・ロマノフスキー(以下、AR):とても素晴らしい時間を過ごすことができました。1日しか滞在できなかったのですが、それでも、長崎で受けた印象は、とても素晴らしいものです。第一印象、って大切ですよね。とてもあたたかく受け入れていただき、ご一緒した方々との交流もとてもおもしろかった。今回は教育プログラムで、ある学校の生徒たちが中心となって今回の演奏会を作り上げてくれました。17-18歳の若者たちが、それこそチケットを配ったり、マスタークラスの参加者を募ったり… 長崎は大きな悲劇を受けた街です。と同時に、カトリック教会など、特異な歴史的背景のある街でもあります。今回は教会で演奏会を行ったのですが、とてもシンボリックで、長崎の街の雰囲気を感じ、歴史に浸ることができました。演奏会には1,000人もの方々が集まってくれ素晴らしいコンサートになりました。子供たちの努力の結晶です。
実は、若者たちを対象にした音楽啓蒙活動は、私が今、最も力を入れている分野の一つです。若い人たちに、もっとクラシック音楽を知ってほしい。知るためには、実際にふれてみる機会が必要です。そういう意味で、今回の長崎訪問はとても有意義なイベントでした。
私の夢は、若い世代のクラシック音楽への視点や接点を変えていくこと。若者たちにもっと積極的にクラシック音楽に接していってほしいと考えています。その一環として、音楽コンクールがあります。実はウクライナでコンクールを開催する予定だったのですが、一連の政変で、それが実現不可能となりました。それを新たに、モスクワで開催することになりました。15年3月にモスクワで開く、「第1回、ウラジーミル・クライネフ 国際ピアノコンクール」です。12月下旬まで参加申し込みを受け付け、世界各地、東京を含め現在8つの都市でオーディションを行います。審査員は、各地へ飛び、実際に演奏を聞いて、合計20人の参加者を選抜します。その20人が3月にモスクワで、最初はソロプログラムを弾き、ファイナルに進んだ10人がスピヴァコフ指揮のオーケストラ伴奏で、協奏曲を演奏します。私はこのコンクールの責任者ですから、日本にも、オーディションで来日しますよ。
Q:その前に1月にリサイタルとNHK交響楽団との共演のために来日くださいますね。
その時のリサイタルでは、前半にベートーヴェン、後半にショパンを演奏してくださいます。両極端ともいえる作曲家ですが、この二人を組み合わせた意図をお話しください。
AR:たしかに偉大な二人の大作曲家、両極端にも思えますが、私は全くそうであるとは思いません。1月のプログラムは、前半にベートーヴェンのドラマのあるロマンティックな作品を選びました。後半はロマンあふれるドラマティックな作品を選びました。つまり、ロマンティックとドラマティックを組み合わせたプログラムにしたのです。
ベートーヴェンは、音楽を通して、何かを説明したい、自分のアイデアを伝えたいという“強い思い”を持ち続けていました。また、情熱に満ち溢れていた彼の心の中、その“内なる炎”を、抑えようという気持ちもあったような気もします。そのような二面性が、彼にはあったのではないでしょうか。
ベートーヴェンの場合、「無意識が意識を先んじていた」という気がします。彼の素晴らしい魂も、楽ではなかった人生も、様々なものが音楽を通して伝わってきますよね。
Q:ベートーヴェンの作品は、好んで弾かれるのですか?
AR:言うまでもなく、私が最も好きな作曲家の一人です。決して数多くの作品を弾いてきたわけではありませんが、最近では「ディアベリ変奏曲」を録音しました。ソナタは、8~10曲を弾いています。
Q:その中で、今回は14番「月光」と30番のソナタを選ばれた理由は?
AR:ベートーヴェンのソナタの中でも、最もロマンティックなソナタで、後半のショパンと組み合わせるにふさわしいソナタだからです。「月光」の方は、ブゾーニのコンクールでも弾いた、私には思い入れの強いソナタでもあります。26番以降のソナタはレパートリーに入っていますが、いわゆる後期三大ソナタ(30番から32番)の中で、今回は30番を選びました。先ほども申しましたが、最近Op.120の「ディアベリ変奏曲」を弾いているのですが、これは最後のソナタOp.111より後に書かれた作品です。「ディアベリ」は私の最も好きな作品の一つなのですが、この作品の中で、ベートーヴェンは“落ち着いた”と、私は感じるのです。ベートーヴェンの賢明さや経験はもちろん、人生の苦悩などすべてが、ポジティブにさえ感じてしまうほど、“悟った”というか、“落ち着いた”。嵐の後の静けさ、とでも言いましょうか。ソナタ30番でも、それに近い感じがあります。“闘い”なのですが、それは次なる希望、明かりへといざなわれる…。
31番ソナタになると、これは「死」と「復活」ですね。
Vol.2へ続く (次回は、後半のショパン作品について伺っています。ご期待ください!)
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気品と風格にあふれる至高のピアニズム
アレクサンダー・ロマノフスキー ピアノ・リサイタル
2015年01月23日(金) 19時開演 紀尾井ホール
<プログラム>
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調Op.27-2「月光」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第30番 ホ長調Op.109
ショパン:バラード 第2番 ヘ長調 Op.38
ショパン:バラード 第4番 へ短調 Op.52
ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.35「葬送」