2014/11/17

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アレクサンダー・ガヴリリュク 電話インタビュー

 モスクワ音楽院、ロンドンのウィグモアホールでのリサイタルを成功させたガヴリリュクに来年1月の来日公演に向けて話を聞きました。

ガブリリュク

Q:1月のリサイタル・プログラムは技巧的な作品が多いように感じますが、プログラミングの意図をお聞かせください。
― このようなプログラムにした目的は、技術的な難しさが、演奏の「壁」にならないようにすることです。どんなに難易度高い作品でも、技術的に難しくて、作品の内部に込められた音色や色彩を伝えられなければ、意味がありません。技術的な問題をクリアして、かつ、作品が抱く精神的な世界、内面的魅力を伝える。技術が、音楽の本質を伝える際の「障害」にならないようにする。難しくても、作品の心を、しっかりと描き出せるように、「壁」を乗り越える…それが私が自分に課していることです。最近はそのような方向でプログラムを組んでいます。
このプログラムは、一回弾き切ると、良い減量になりますよ…(笑)

Q:このプログラムは、すでにどこかで弾いたのですか?
―ヨーロッパで数回、アメリカやモスクワでも弾きました。アムステルダムのコンセルトヘボウでも。そして日本の聴衆の前で演奏する機会に恵まれました。日本のお客さんとの関係は、私にとってとても大切なものです。みなさんの、音楽に対するとても真摯な姿勢、誠実な聞き方、とでも言いましょうか、非常に私にとっては尊いものです。

Q:日本の聴衆は、他の国の聴衆と違う部分がありますか?
― 音楽が、ホールにいる一人一人の心をとらえる感動的な瞬間のえも言えぬ雰囲気、空気、というのは、万国共通ですね。心の中が伝えられたと時の達成感、というか、つながり、というのは、どこにいても同じ感動を得ます。ただ、その表現の仕方は、聴衆によってさまざまかもしれません。
日本のお客様は、演奏の最中はとても静かに、じっくりと耳を傾ける、そして終わったら、あたたかく、誠実な感動の気持ちを、奏者に投げ返してくれます。心が揺れ動く瞬間です。

Q:作品を演奏する際、最も大事にしていることは何ですか?
― ステージで誠実になることでしょうか。そして聴衆との心の(精神的)つながりです。
ソ連の有名は俳優、スタニスラフスキーは、ステージで、人物を“演じる”のではなく、完全にその人物になり切っていました。それが観るものを、強く惹きつけていました。スタニスラフスキーの本を読んで、私は非常に共感しました。ピアニストも、同じだと思います。作曲家を“演じる”、台本に当たる楽譜を“なぞる”のではなく、作曲家と、作品が生まれた周囲の環境などについて、自分のとらえ方を盛り込んで、一つの形にしていきます。それが私が考える課題です。
そして一番の目標は、聴衆と、心の深いところでつながり合うことです。
芸術的真実…とでも言いましょうか、それが私が目指すものです。

ガブリリュク

Q:演劇との比較は面白いですね。
― はい。でもとても共通するものがあると、スタニスラフスキーの本を読んで強く感じました。

Q:以前からお客様とのコミュニケーションはとても大切だと仰っていましたが、そのお気持に変わりはないようですね。
― 変わらないどころか、どんどん強くなっていきます。いろんな本を読むにつれ、様々な音楽家と知り合い、共演を重ねるにつれ、聴衆とのコミュニケーションの大切さは、私の中で、よりはっきりと重要性を増しています。

Q:近年の活動について、教えてください。
― コンセルトヘボウ管と、共演しました。ラフマニノフの協奏曲第2番です。
それから、ウラジーミル・ユロフスキーとは、ラフマニノフの3番。他、モスクワのロシア国立響とも、何度も共演しましたし、来週もモスクワで彼らとラフマニノフの第3番を弾く予定です。
… なんだかラフマニノフばかりですね…(笑)でもロシア国立響とは、これまでにシューマン、グリーグ、ラフマニノフの1番も、演奏してきました。
他に、リサイタルは、モスクワを始め、ウィーン、ウィグモアホール、ロンドン…いろいろな場所で行っています。
それから、室内楽も。ジャニーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン)と一緒に、ラフマニノフのトリオや、ブラームスの室内楽を演奏しました。室内楽は、全体の活動の10パーセントほど。決して多くはありませんが、ピアニストにとって、これは大切な分野だと思います。非常にたくさんのことを“掘り出す”ことができる分野です。

Q:偉大なマエストロとの共演で得るものは、何でしょう?
―偉大な指揮者、偉大な音楽家との共演は、最大のレッスンです。ジュネーブで、ネーメ・ヤルヴィとラフマニノフの協奏曲を共演する機会に恵まれました。マエストロのリハーサルや本番に取り組む姿勢は、とても勉強になりました。彼の、「芸術の真実」- これは私の一番の目標なのですが、-は、私にヒントをくれました。音楽を創るときに、とても自由なフレーズや動きで、オーケストラもそれに応えます。自由な精神状態で、音楽がナチュラルに流れていくのです。
それからマエストロ・ユロフスキーとの共演で学んだことは、彼の作品に対する、古典的なアプローチです。どういうことかと言うと、作曲家と、作品が生まれた時代、背景に限りなく近づく、ということです。ラフマニノフを例にとると、ともすればありがちな“余計な”メランコリックやロマンティックを省き、作曲家がつづった大きなフレーズを滑らかにつなげ、紡ぎ、フレーズからフレーズへと音楽が流れていくのです。このようなことを教えてくれた偉大な共演者には、本当に感謝しています。素晴らしいアイデアをたくさん得ることができました。
それからもう一つ、実は今3歳になる娘が生まれたことも、私にとっては大きな転換点の一つとなりました。新しい考え方、新しい視点で作品に取り組むようになったのです。子供の純真さが、私を開眼してくれた…たとえば、シューマンの「子供の情景」とか、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の2楽章、それからモーツァルトの作品など、子供の汚れない心、純真さが、新たなヒントとなり、視点が変わったんです。

ガブリリュク

Q:今度のレパートリーについて、どのような計画をお持ちですか?
― 具体的には、ブラームスの協奏曲を取り上げたいと思っています。そして、ヨーロッパの中心的作曲家をもっと演奏してきたいと考えています。これまではどちらかと言うと、ロシアの作曲家の作品が多かった。これは仕方のないことですが(笑)、もちろん、それだけでなく、シューマンやモーツァルト、バッハなどはずっと弾いてきましたよ。でも今、せっかくドイツに住んでいますから、オーストリアやドイツ、イタリアの作曲家の作品に取り組む、良い時期ではないかと考えます。しばらくは、モーツァルト、シューマン、シューベルトなど、積極的にレパートリーに取り入れていこうと考えています。ロシアの作品を演奏は続けますが、これまでより比重を少なくする、ということですね。
それからショパンも、もっと弾いていきたいです。

Q:1月のプログラムには、モーツァルトやシューベルトはありませんね…
― (1月のプログラムは)言ってみれば、ロシアからヨーロッパへの“移行”プログラム、ですね。ブラームスの変奏曲は、意義が深く、内容ぎっしりの作品。リストは、ずっと興味も持ち続けている作曲家です。

Q:日本の印象をお聞かせください。
― 日本も、日本の文化も、私は大好きです! 日本には、2年半ぶりになるでしょうか、今からとても楽しみにしています。
前世で日本人だったのでは、と思うぐらい日本が好きですよ(笑)!
日本の人々の、互いを敬う心、細やかな配慮の気持ち、など、とても素晴らしいと思います。日本の人々と接するのも楽しいです。日本食も大好きです。
日本が好きな理由は、たくさんありますよ!
ジャパンアーツの皆さんも、ツアーはいつもしっかりオーガナイザされているし、日本で演奏するホールもピアノも、おーけストラもすばらしい!
N響との共演も楽しみです。

Q:N響については、いかがですか?
― 素晴らしいオーケストラです!これが二度目の共演で、以前はマエストロ・アシュケナージとともに、プロコフィエフの協奏曲2番を演奏しました。とてもクリアな、はっきりとした解釈で、ちょっとしたショックを受けたのを覚えています。アシュケナージさんとは、シドニーのオーケストラとプロコフィエフの協奏曲全曲を録音し、その後、N響と演奏することになりました。次の指揮者は、マエストロ・ノゼダです。始めての共演です。考えてみれば、N響と、またプロコフィエフですね…
オケとの共演も、リサイタルも、とても楽しみにしています!

どうもありがとうございました!

インタビュア:小賀明子(ロシア語)

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現代最高の若きヴィルトゥオーゾ!
アレクサンダー・ガヴリリュク ピアノ・リサイタル

2015年01月20日(火) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール

ガブリリュク

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