2014/12/1
ニュース
世界が注目する新進気鋭のピアニスト! キット・アームストロングに聞く Vol.1
欧米での活躍が注目される若手ピアニスト キット・アームストロングが、来年3月に待望のリサイタルを行います。
アルフレッド・ブレンデルが「私が出会った最も類稀なる才能」と絶賛し、シャイー、ドホナーニ、サロネン、ナガノなどのマエストロたちと共演を重ねる新星に、電話インタビューを行いました。
Q:来年3月の日本公演、とても楽しみにしております。来日は初めてでしょうか?
キット・アームストロング(以下、K.A):私もとても楽しみです。日本にはすでに2009年に伺っております。ゲヴァントハウス・オーケストラとの共演で、マエストロ・シャイーとご一緒しました。演奏したのは、バッハのコンチェルト1番、ニ短調です。
Q:そのツアーでは、何が印象に残っていますか?
K.A:日本のことはよく覚えています。とても好きな国です。真面目で誠実な空気を感じました。わけても、クラシック音楽に関して、人々がよく理解している国、と思います。
Q:日本のどこに行かれて、なにをごらんになったのですか?
K.A:ほんの数日間しか滞在できず、東京の町しか見ることができませんでしたので・・・とは言っても、合間の時間に少し、散歩などもしましたが・・・。食べ物、特に魚がとても美味しかったです。次回も、日本で魚料理を食べるのを楽しみにしています。
Q:現在22歳でいらっしゃいますが、お生まれはどちらでしょう。今日までの人生を主にどこで過ごされたのですか?
K.A:生まれたのはロサンゼルスです。その後8歳まで、ロサンゼルスに居ました。その後はフィラデルフィア、ロンドン、パリで過ごしています。
Q:子供の頃からそのように環境を変えての生活は、大変ではありませんでしたか?
K.A:私自身は、なにも大変なことはありませんでした、自分が興味・情熱を感じることにまっすぐに取り組んできましたから、また、取り組める条件に恵まれていましたから、非常に幸運な人生です。大変なのは、周囲の人たちです。とくに私の母は、住む場所が変わるたびに生活環境を整える面倒を見てくれていますから。彼女がいちばん大変だったでしょう。
Q:ご家族はアジア系ですね?
K.A:私は八分の一、日本人ですよ。ですから、周囲に日本を知る人も少なからずいて、とてもいい国だよ、と、話を聞いていました。自分は日本には住んだ経験がありません。それだけに、来年の公演は楽しみです。
Q:今回、とてもユニークなプログラムをご準備くださいました。前半がバッハのコラール前奏曲集とパルティータ、そこに、ご自身の作品を組み込まれ、後半はリストの3つの作品と、最後にまたバッハですね?
K.A:はい。これは、2011年、フランツ・リストの生誕200周年記念の年に、考案した私の演奏プログラムです。考案した意図は、リストがバッハをいかに尊敬していたか、という、その関係性をみなさんに知っていただきたかったのです。ヨーロッパの音楽史をふりかえるとき、バッハの成した業績は偉大です。バッハの音楽を理解すると、さらに彼以前の時代の音楽のことまでが見えてきます、バッハは、そういう人です。そのバッハを、フランツ・リストがどれほど尊敬し、また、倣(なら)っていたかを示したかった。みなさんは、「リスト」と聞くと、おそらくすぐれたパフォーマーであり、また、激情的な表現を好む作曲家であったと思われるかも知れませんね、ですが、それは誤解で、根本のところではリストはバッハによく似ています。近年のリスト演奏家たちの主流が、そんな「派手さ」を見せるものに偏っていたために、私たちはリストの本質をわかっていません。バッハの「半音階的幻想曲」などに触れると見えてきますが、リスト、バッハともに、単なるファッション《様式》としての演奏法のレベルではなく、彼らの作品のストラクチャー《構成》に踏み込んで、新しい理解を提示したかったのです。かれらの成就した仕事は一般に考えられているよりもっとずっと複雑なものです。
Q:ご自身も作曲家でありピアニスト、という道を歩まれています。自分はどのような音楽家だと思いますか?
K.A:私は、西洋音楽の伝統を守る人間です。そして、常にそうありたいと思っています。それを、さらに深くしようと思っているのです。現代においては、まったく新しい試みをしようとする方々もいますが、私はそうではないんです。トラディション《伝統》は、人類が過去の長い長い時間をかけて積み上げてきたものです。それを、まなび、流れも、内容も、すべてふまえた上で、さらにそれを未来に向かって引き継いでいくことが「伝統を守る」ことです。多くの人たちの仕事の軌跡を学んで、そして、そのうえに、自分にはなにができるか?という、その問いかけを繰り返します。私は自分はとてもラッキーだったと思う理由は、そのための勉強をすることができましたし、いま、アーティストであることがさらに幸運でもあります。そんな研鑽の成果をもって、聴衆のみなさんに、多くの方々に、理解のためのきっかけを差し上げられるからです。
Q:プログラム中に、ご自身の作品「バッハの名による幻想曲」を組み込まれていますが、これは、どのような作品ですか?
K.A:バッハに捧げるオマージュのつもりで書きました。すこし、瞑想するときのような気分になる作品かもしれません。どうぞ楽しんでお聴きください。
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~私が出会った最も類稀なる才能~- アルフレッド・ブレンデル –
2015年3月5日(木) 19時開演 浜離宮朝日ホール