2015/3/18
ニュース
【公演評】アンスネス&マーラー・チェンバー・オーケストラ ニューヨーク公演
2015年2月23日、25日にニューヨークのカーネギーホールで、レイフ・オヴェ・アンスネスとマーラーチェンバー・オーケストラが<ベートーヴェンの旅>の公演を行いました。
2015年2月23日(月)カーネギーホール
[プログラム]ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第2番・第3番・第4番
2015年2月25日(水)カーネギーホール
[プログラム]ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第1番・第5番
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Beethoven From Andsnes and the Mahler Chamber Orchestra
ニューヨーク・タイムズ
⇒ New York Times
TEXT By ANTHONY TOMMASINI(FEB. 26, 2015)
4年間に渡るベートーヴェン(特に5つのピアノ協奏曲)漬けの日々を「ベートーヴェン・ジャーニー」と呼ぶことにより、卓越したノルウェーのピアニスト、レイフ・オヴェ・アンスネスは、このプロジェクトにさらに注目を集めようとしたと同時に、彼は期待をも高めたのだった。
アンスネス氏はそれ以前にもベートーヴェンを演奏していたが、ベートーヴェンを中心に据えたことは一度もなかった。アーティストなら誰でも、巨匠の作品を、ましてやベートーヴェンのような、ピアノのレパートリーの中核をなす作曲家を弾く義務があると思うはずである。
アンスネス氏がこのプロジェクトを始めたとき、これが変化した。
その中心には、5曲の協奏曲を、アンスネス氏の弾き振りでマーラー・チェンバー・オーケストラと演奏し、録音しようという計画があった。その試みと、タイトルの中にも暗示されたものは、この一連の動きが熟慮された個人的なベートーヴェンの探求を描いているというメッセージである。そのため、アンスネス氏と共演者には、何か特別なものを生み出さなければというプレッシャーが課せられたのだった。
そして彼らはそれをやってのけた。カーネギーホールで演奏された月曜と水曜の夜の爽快なプログラによって明らかにされたように。1日目に(WQXRラジオでライブ放送され、同ラジオのウェブサイトでも聴ける)彼らは協奏曲2番、3番、4番を演奏。2日目は1番と5番(「皇帝」)を演奏した。2回ともほとんど売り切れに近く、壮麗な演奏に拍手喝采が贈られた。
多くの意味で、これは驚きでもなんでもない。ソニー・クラシカルはこの協奏曲集を連作でリリースしていたが、昨年3枚組みのボックスセットとして発売した。これは私の昨年のベスト・アルバムのリストに載っている。また、44歳のアンスネス氏とこの精鋭揃いのオーケストラは、この協奏曲全曲演奏でツアーを行い、13カ国26都市で絶賛され続け、今後も増やし続けることであろう。たとえベートーヴェンの協奏曲のような名曲であっても、一般的に、同じ曲をそんなに頻繁に演奏するということは、演奏家はルーティンに陥る危険性があると思われるかもしれない。
私は、これらの曲がこのように新鮮に、しかも明らかに没頭して演奏されるのをあまり聴いたことがない。アンスネス氏は常に演奏の中で、見識の探求と自然な没入という特別な組み合わせを見せてきた。このオーケストラのメンバーは、そうした性質にわくわくするほどぴったりだ。
アンスネス氏が指揮とソロ演奏の両方をこなしたことで、この演奏からほとばしる共同作業のエネルギーの度合いは確実に高まっていた。プログラムに書かれていたインタビューの中で、アンスネス氏はこう言っている。「ピアニストが指揮者と協奏曲を演奏するとき、そこには必然的にオンとオフのボタンのようなものがあります」。この2夜では、そんなことが起こる可能性はまったく無かった。オーケストラのトゥッティのところでは、アンスネス氏は立ち上がり、明瞭でありながら優美な所作で指揮をし、澄んだ白光に輝く演奏をオーケストラから引き出した。
月曜の1曲目の協奏曲第2番変ロ長調の元気な冒頭から、まさにそうだった。いたずらっぽくちょっと内気なフレーズの方向と音楽の性格が、力強く届いてくる。フィナーレの踊るような騒々しさは、すばらしく威勢よく聞こえた。
1997年創立のマーラー・チェンバー・オーケストラは、クラウディオ・アバドの主導により1986年に創立された一流のトレーニング・アンサンブル、グスタフ・マーラー・ユース・オーケストラの副産物である。今も多数の若いメンバーを擁し若々しい性格を持っている。ピアノ協奏曲第3番ハ短調第一楽章の長いオーケストラの提示部の間、アンスネス氏はきびきびしたテンポを設定しつつも、しなやかでむだのない演奏を保った。フレーズが変化しオーケストラのセクション間で交換されてゆく間、そこにはめったに見られない対話の感じがあった。私はアンスネス氏が指揮するベートーヴェンの交響曲が聞いてみたいと思った。しかし、その後彼が座ってソロ・パートを弾き始めると、その知性と演奏の華々しさで、我々がなぜ彼をピアニストとしてこんなにも必要としているのかをすぐに思い出させたのである。
ピアノ協奏曲第4番ト長調の演奏では、繊細さと優美さを湛えながらも、この音楽の神秘的な魅力とラプソディー風の大胆さが伝わってきた。水曜日の夜には、彼とオーケストラは初期のピアノ協奏曲第1番を、後半に演奏した壮大な「皇帝」を前もって示すかのように演奏した。そして「皇帝」は威厳があり激しい演奏だった。
2晩とも贈られた大喝采の間、アンスネス氏とオーケストラのメンバーは、拍手と握手を交わして互いの賞賛の意を表した。アンコールは数曲、もちろん、ベートーヴェンである。月曜日はバガテル2曲、水曜日には1曲。最後のアンコールは、オーケストラによる活気に満ちたドイツ舞曲2曲に委ねられた。2曲目の間、アンスネス氏はパーカッション(ちょうどピアニストが座るべき場所)のセクションに移動し、最後のファンファーレでタンバリンを振った。それはこの共演による旅を締めくくるにふさわしい方法だった。
Photo by Hiroyuki Ito
また、2015年4月号『音楽の友』にも今回の公演レポートが掲載されています。
ぜひ、ご覧ください。
⇒ 音楽の友
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世界50都市を巡る<ベートーヴェンへの旅> いよいよクライマックス!
レイフ・オヴェ・アンスネス (指揮&ピアノ) with
マーラー・チェンバー・オーケストラ
2015年05月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
2015年05月17日(日) 14時開演 東京オペラシティ コンサートホール