2015/5/11
ニュース
いよいよ日本上陸!!アンスネス&マーラー・チェンバー・オーケストラ
熟成の時を迎えたアンスネス&マーラー・チェンバー・オーケストラによるベートーヴェン
レイフ・オヴェ・アンスネスが2011/12年シーズンから取り組んできた「ベートーヴェンへの旅」が、もうすぐ終着駅に辿り着く。ここ3年間を、ほぼベートーヴェンの音楽だけに対峙するというこのプロジェクト。いったい何が、アンスネスをそのような旅路に駆り立てたのだろうか。去る2月、カーネギー・ホールでベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲の弾き振りを終えたばかりのアンスネスに尋ねたところ、非常にシンプルで当然とも言える答えが返ってきた。それは、ベートーヴェンの「音楽」であったという。
「何かが私の中で育まれ、(ベートーヴェンの音楽は)今の私に最も多くを与えてくれる、真実の音楽であると語りかけるようになったのです。ピアニストには、バッハから現代音楽まで数多くのレパートリーがあるため、常に異なるものに取り組むことは簡単です。しかしベートーヴェンという偉大な作曲家に対する理解を、まとまった時間をかけて深める必要があると感じるようになったのです。」
プロジェクトの成果の一つとして、マーラー・チェンバー・オーケストラを自ら指揮した、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲および「合唱幻想曲」が収められたCDのボックス・セットも昨年発売された。一連の録音は多くの批評家から高く評価され、“全集”をコレクションに加える喜びを味わったファンも多いことだろう。しかしアンスネスにとっては、全集を完成したことよりも、彼にとってこれが初めてのベートーヴェンの録音だという事実の方が、はるかに意味のあることだったのかもしれない。
「(録音する時期が来るまで)私は待ち続けたのです。世の中にはベートーヴェンの録音は、素晴らしいものも含めて既に数多くあります。そんな中、もし新しい録音を作る理由があるとしたら、それは私が何か違うことを言えると感じることだけだと思っていました。」
アンスネスが待ち続けた時間は、彼の中でベートーヴェンが熟す時間であった。
「子供の頃の私にとってベートーヴェンは、感心する音楽でしたが、理解出来る音楽ではありませんでした。若い頃はもちろん、ベートーヴェンのエネルギーを好んでいましたが、その豊かさを真には感じていなかったと思います。ここ10年くらいで、やっとその豊かさを真に感じられるようになったのです。ベートーヴェンはシリアスなだけではありません。ユーモアやダンス、軽やかさ、優しさ、命に満ち溢れているのです。」
今回のプロジェクトは、マーラー・チェンバー・オーケストラとの共演も重要な要素だ。モーツァルトやハイドンを指揮ぶりするピアニストは少なくないかもしれないが、アンスネスのようにベートーヴェンを指揮振りするピアニストは決して多くない。彼自身、特に第4番と第5番の弾き振りは難しいという。しかし3年を超える共演によってお互いに対する信頼が高まった今、かつてほど指揮の執拗性は無くなり、小さなジェスチャーでほとんどのことが伝えられるようになったという。それも数年に渡る共演を実現させた、今回のプロジェクトならではの成果だという。
「マーラー・チェンバー・オーケストラとなら、何かユニークなものを音楽にもたらすことができると思っていました。プロジェクトの始め、彼らと初めて演奏した時は緊張しました。もし彼らが私をよく思わなかったら、私がやりたいと思うことが出来ると思えなかったら、3年間我々は困ったことになったわけですから(笑)。しかし結果は、インスピレーションに溢れた、素晴らしい経験となりました。これまで3年あまり、人生で初めて、一つのオーケストラを長きにわたって指揮し続けた音楽監督のような気持ちを、少し味わえたように思います。私とオーケストラのプレイヤーの間に、信頼感が培われたのです。」
満を持してアンスネスが取り組んだ、ベートーヴェンへの旅。それがどんな旅路であるかは、録音だけでなく、ぜひコンサートホールに出かけて体験していただきたい。
文:小林伸太郎(音楽評論・NY在住)
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世界50都市を巡る<ベートーヴェンへの旅> いよいよクライマックス!
レイフ・オヴェ・アンスネス (指揮&ピアノ) with
マーラー・チェンバー・オーケストラ
2015年05月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
2015年05月17日(日) 14時開演 東京オペラシティ コンサートホール