2015/9/24

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現地公演レポート!!フィンランド放送交響楽団

 世界各地のオーケストラの新シーズンがスタートする秋、フィンランド放送交響楽団の2015/2016シーズンが9月2日に開幕しました。本拠地ヘルシンキ・ミュージック・センターは大勢の人で賑わい、新シーズン初日の高揚感と熱気に満ちていました。


<フィンランド放送交響楽団の本拠地、ヘルシンキ・ミュージック・センター。>

 2015年は、なんといってもシベリウス生誕150周年。そのシーズンの幕開けですから、プログラムの前半はもちろんシベリウスで、交響詩「大洋の女神」とヴァイオリン協奏曲が演奏されました。ただしどちらも現行版ではなく初期稿という、シベリウスの地元ならではのこだわりが見えます。指揮は首席指揮者ハンヌ・リントゥ。ステージ上には、首席ソロ・フルート奏者の小山裕幾さん、トランペット奏者の櫻木厚子さん、副首席ティンパニ奏者の森田和敬さんの姿も見えます。


<建物に入ると、天井から吊られているキルシ・カウラネン作「GAIA」に目を奪われます。>

 1914年作曲の交響詩「大洋の女神」は、同年に初演する前にシベリウスが楽譜を改変しており(調性も変更)、それが現行版となっています。改変前の初期稿(イェール版)は2002年に世界初演されたばかり。印象派を思わせる海の描写が聴きどころの作品ですが、イェール版はよりいっそう海を感じさせます。リントゥは各楽器から躍動感ある動きを導き出し、波のぶつかり合いや戯れを鮮やかに描き出しました。なお、ステージの壁には照明が施され、海をイメージしたような青色も雰囲気を演出していました(シベリウスは調性に色を感じる共感覚者でしたが、その色に合わせた訳ではないようです)。


<休憩中の青の照明。演奏中もこのような照明が点いていました。>

 照明が紫になり、2曲目はヴァイオリン協奏曲。この曲は、ご存じの通り、1904年の初演に満足できなかったシベリウスが書き変えて現行版が完成したのですが、リントゥのツイッターによれば、ヘルシンキで初期稿が演奏されるのは、なんと初演の1904年以来だとか。そのソリストを務めるのは、エリナ・ヴァハラ。余計な圧力をかけない素直な音色で、現行版以上の難曲を弾き切りました(第1楽章の最初のカデンツァで照明が赤に変わったのが粋)。オーケストラも、初期稿ならではのソリストとのかけあいや、交響詩を思わせる音楽をドラマティックに演奏しました。

 休憩後は、フィンランドの作曲家カレヴィ・アホ(1949~)の新作「メゾ・ソプラノと弦楽器と打楽器のための交響曲第16番」の世界初演。アウシュヴィッツで亡くなったドイツのユダヤ系詩人ゲルトルート・コルマー(1894~1943)の詩「Die Fahrende」に基づく交響曲で、5楽章からなり、各楽章のタイトルは詩の言葉がつけられています。注目は多種多様な打楽器(民族楽器を含む)で、4人の打楽器奏者(副首席打楽器奏者の安田直己さんも登場)が大活躍。なかでも仏教の打楽器が印象的に使われ、どこか無常観をも感じさせる作品でした。メゾ・ソプラノが登場するのは第5楽章で、ヴィルピ・ライサネンが魂の叫びのような歌唱を聴かせませした。
 リントゥの冴えわたる指揮のもと高い機能性を発揮した好演で、リントゥ体制3年目のシーズンをスタートしたフィンランド放送交響楽団。日本ツアーではどんなシベリウス像を聴かせてくれるか、期待が高まります。


<ロビーにはフィンランド人指揮者の指揮棒が!(チャリティーのため)左から、J.パヌラ、E-P.サロネン、J-P.サラステ、L.セーゲルスタム、O.ヴァンスカ、S.オラモ、H.リントゥ、O.カム、J.ストルゴーズ、S.マルッキ、M.フランク、A.アルミラ。リントゥの指揮棒に「L」が入っているのが見えると思いますが、反対側には「H」も入っています。>

レポート・写真:榊原律子(音楽ライター)

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シベリウス生誕150周年記念
母国の名門オーケストラで聴く、ザ・ベスト・オブ・シベリウス!!
ハンヌ・リントゥ指揮 フィンランド放送交響楽団

2015年11月04日(水) 19時開演 サントリーホール

公演の詳細はこちらから

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