2015/11/9

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【来日直前レポート】フランクフルト放送交響楽団

 11月5日、間もなく来日するフランクフルト放送交響楽団が音楽監督のアンドレス・オロスコ=エストラーダの指揮により、本拠地のアルテ・オーパーで定期公演を行った。
 中央駅から欧州の代表的な金融機関がひしめく高層ビル街を歩いて行くと、突然時代がさかのぼったかのような石造りの重厚な劇場「アルテ・オーパー」(旧オペラ座)が姿を現す。元々19世紀後半にオペラハウスとして建てられたこの劇場は、第2次世界大戦中の空爆で破壊されたが、戦後外観はオリジナルに忠実に再建され、一方で内部はモダンなコンサートホールに生まれ変わった。客席につながる廊下には、廃墟だった頃の劇場の様子や、著名な音楽家や市民のイニシアティブによってホールへと生まれ変わる過程がパネルで展示されていた。ベルリンやドレスデンなどドイツの他の都市と同様、劇場が市民の文化生活の復興のシンボルだったことを伺わせてくれる。
 ほぼ満席のこの夜の公演で冒頭に演奏されたのは、国際的にも評価の高い権代敦彦の委嘱作品《終わりへ向かって 落ちる時間》。大編成のオーケストラが絶え間ないトレモロ、執拗な下降音型を繰り返すことで、聴き手に息の詰まるような、峻厳な時間へと導く。

 新作初演の後、黒の妖艶なドレスに身を包んだアリス=紗良・オットが登場すると、ステージがぱっと明るくなった。チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の冒頭、ピアノが上昇する和音を繰り返し、弦が雄渾なメロディーを奏でるところからすでに両者の呼吸はぴったりだ。オロスコ=エストラーダは音楽の高まりに応じて微妙な強弱の変化を付けるなど、旋律の歌わせ方がうまい。特に印象に残ったのは、第2主題の哀愁味のあるメロディーをフルートが受け継ぎ、ピアノの伴奏を伴って音楽がドラマチックに動き出す瞬間。そして第1楽章の後半、再び現れる第2主題がオーボエ、クラリネット、さらに弦楽器へと受け継がれるところでは、ピアノとオケとが互いに寄り添い高まってゆく協奏の妙味にあふれ、聴いていてゾクゾクした。アリス=紗良・オットのピアノは、弱音の美しさと技巧的なパッセージにおける緩急の絶妙なドライブに加えて、この巨大な協奏曲をコンサートホールで聴かせる上でどうしても必要となる力強さと野性味をも備え、フィナーレでは両者のぶつかり合いから大きなカタルシスを味わった。

 後半は、やはり日本公演の演目であるブラームスの交響曲第1番。テンポは全体的にやや早めだが、オロスコ=エストラーダはブラームスの音楽の妙味である内声部のヴィオラやチェロのセクションともしばしばコンタクトを交わし、ドイツのオーケストラならではの深みのある響きを引き出していた。第2楽章では、表情豊かなフルート、オーボエ、ヴァイオリンのソロなど、フランクフルト放送交響楽団のソロ奏者の高いクオリティが全体を彩る。アルペンホルンから始まる雄大なフィナーレの展開においても、オロスコ=エストラーダはブラームスの音楽のドラマの内奥に踏み込みながら、決して音楽の流れを邪魔しない。スコアへの確かな読みに裏打ちされた音楽へのまっすぐな向き合い方が清新で、終演後の客席には「ああ、いいコンサートだった」という聴衆の満足感がみなぎっていた。


※11月4日撮影

 今回の来日公演では、伝統と実力を誇るオーケストラ、日本でもすでにお馴染みの若手ソリストのほか、アンドレス・オロスコ=エストラーダというクラシック音楽界の新しい才能と出会える格好の機会になりそうだ。

文:中村真人(在ベルリン/ジャーナリスト)

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アンドレス・オロスコ=エストラーダ(音楽監督・指揮)フランクフルト放送交響楽団

2015年11月17日(火) 19時開演 サントリーホール  売り切れ
2015年11月18日(水) 19時開演 サントリーホール

⇒公演詳細はこちら

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