2015/12/1
ニュース
ダンサーインタビュー:シリンキナ、スチョーピン、セルゲーエフ&スメカロフ(マリインスキー・バレエ)
『ロミオとジュリエット』の東京初日が開幕した。1940年にマリインスキー劇場で初演されたラヴロフスキー版は、ロミオとジュリエットのラブ・ストーリーにもまして、両家の相克を深く描いたシェイクスピアの原作に近い内容。当初、ロミオ役にキャスティングされていたウラジーミル・シクリャローフが怪我で降板になったため、大阪公演でロミオを踊ったフィリップ・スチョーピンが東京でも踊った。優しくて繊細な演技と、驚くほど高さのあるグラン・ジュテで恋する若者を演じ切り、ラストシーンまで一気に盛り上げた。
―日本は久しぶりなんですよね。
「13年ぶりです。前回来たのはワガノワ・バレエ・アカデミーでの公演でした」
―それはものすごく昔ですね!
「偶然にも東京でロミオを踊れることになったのは、本当に光栄でした。ワロージャ(シクリャーフ)の怪我が一日でも早く治ることを祈っていますが…」
―スチョーピンさんのロミオはものすごく新鮮でした。多くのダンサーが、冒頭ではやんちゃな少年としてロミオを演じますが、最初から最後まで詩人のような雰囲気を漂わせ、とても知的で優しいロミオに見えました。
「奇妙なことに、僕はマリインスキーで『ロミオとジュリエット』の脇役のほとんどを踊っているのです。マーキュシオも何度も踊りました。長年他のパートを踊っていると、「自分にはこういうロミオが似合うだろうな」ということが自然にわかってくるんですよ。相手役によっても大きく変わります。マーシャ(シリンキナ)のように優しい人がジュリエットを踊るのなら、自分も同じような気持ちになるんです」
―愛と平和を愛する青年に見えました。ティボルトと戦うときの表情が「本当は戦いたくない!」と訴えかけてくるような…。
「それはとても難しいところですね。どういう気持ちでやるのかという段取りは決めていても、舞台では本当に別世界になってしまうのです。ティボルトはロミオの仲間のマキューシオを殺したわけですから、それに対して許せない、という気持ちはあったと思います」
―なるほど。ラストシーンでロミオが死ぬシーンでは、階段を逆さに転げ落ちますが、あれは怖くはないのですか?
「怖くないです(笑)それくらいはたいしたことないですし、それくらいの勇気なら、わざわざ奮い立たせることもないですよ」
―そうだったんですね! 本当に勇敢なのですね。ロミオは究極の感情を出し切りますが、そんな舞台の後では眠れないのではないですか?
「明日も踊りますから、今日はちゃんと眠りますよ。明日は何の役か? それは秘密なんです(笑)」
可憐で愛らしいジュリエットを細やかな演技で踊り、観客を魅了したマリーヤ・シリンキナ。そこにいるだけで癒されるような優しい雰囲気の持ち主で、誰もが彼女を大好きになってしまう。終演後、一瞬だけコメントをいただきました。
―とても素晴らしいジュリエットでした!
「ありがとうございます」
―ラヴロフスキー版の『ロミオとジュリエット』というのはダンサーにとってとても演じ甲斐があるのではないですか?
「ジュリエットはラヴロフスキー版でしか踊ったことはないのですが、ジュリエットと私はイコールではないですね。ジュリエットならどう感じるか? どういう反応をするか? いつも考えながら作っていきます。自分以外のもう一人の人間を、つねに客観的に見ながら演技している感じですね」
―とても誠実な態度だと思います。最後の死のシーンもふくめて、とても引き込まれました。
「このバレエのすべては感情的な複雑さにあります。テクニックはほとんど重要ではないのです。難しいのは感情の演技です」
―伝わってきました。『愛の伝説』のシリン役をパーフェクトに踊った二日後に、また素晴らしいバレエを見せていただきました。
「私も日本に来られてとても嬉しいのです。
呼んでいただいて嬉しいですし、また来られることを祈っています」
4日前の『ジュエルズ』のゲネプロの休憩時に「マキューシオの作り方」を詳しく教えてくれたアレクサンドル・セルゲーエフ。話をするたびにその頭の良さと、演技に対する大きな情熱に驚く。テクニックも見るたびに研ぎ澄まされ、ふわりとした着地と丁寧なステップには、プロのダンサーとしてのプライドを感じる。何事も完璧主義なのだろう。周囲のダンサーともものすごくいいコミュニケーションをとっているのが伝わってきた。
―セルゲーエフさんのマキューシオは、この役には珍しいシリアスさを湛えたキャラクターでしたね。ティボルトに刺されて死ぬシーンでは、観客全員が釘付けになりました。
「あの死のシーンはリハーサルをやらないんです。とても大きな感情を使うので、エネルギー的な負担が大きすぎるのです。何度もリハーサルをすると感情を消耗してしまう。だからエネルギーをため込んで、それを本番で爆発させるんです」
―剣での乱闘のシーンのあとに、さらにあのハイライトでかすから、とんでもないエネルギーが爆発しているのだと思います。
「この役を踊り始めて9年になります。ただ陽気で楽しそうな、道化のよう役にはしたくなかった。実際に舞台に立ってこの役を演じるようになってから、自分の中で成長させていった部分も大きいです。マキューシオの悲劇が最初から運命だとわかるような…死ぬことがわかっていたような演技がしたかったんです」
(ここで、マキューシオを『殺した』張本人、ティボルトを演じたユーリー・スメカロフが話に加わる)
スメカロフ「彼(セルゲーエフ)とはふだんは友人同士でも、本番では思い切り憎しみ合います。舞台で起こることは毎回変わっていて、今日は彼の脇腹を刺しました。そうしたら、いつもと反応も違っていた。マキューシオがとても器用なので、色々冒険することが出来るのです」
セルゲーエフ「お前、俺を殺すのか、っていう気分になる。あの場面では(笑)」
スメカロフ「友達なのに…って(笑)」
―ティボルトの死も強烈ですね。オーケストラが打楽器を15回鳴らす間に彼は最後の瞬間をすべて表現します。
スメカロフ「ズン、ズンというあの音ですね。打楽器の音もきっかけになりますが、もっと小さな演技の積み重ねでティボルトの死を作っていきます。彼は本当にアグレッシヴな人間で、それをすべてのシーンで表していくのです」
―スメカロフさんは振付もやられますが、ラヴロフスキー版は演じていていかがですか?
「とても素晴らしいですが、ソ連時代に作られたものなので、対立の表現などは時代を反映したものになっています。シェイクスピアの原作はもっと深いニュアンスがありますが、舞台ではっきり見せていくためにシンプルにしている個所もあります。原作では、墓場でパリスは犠牲にならなければなりませんが、ここではその場面は描かれません。ソ連時代にロミオはパリスを殺すことが出来なかったんです」
―ちょうど二週間前に、シュツットガルト・バレエ団がクランコ版の『ロミオとジュリエット』をここ(東京文化会館)で上演しましたが、そのときのティボルトも振付家だったのですよ。
「今は、若いダンサーが振付をすることが歓迎されている時代なのです。何か新しいことに挑戦するのはとてもいいことですし、本当に大勢のダンサーが振付を試みています。成功することもあるし、そうでないこともある」
―スメカロフさんの振付はマリインスキーのレパートリーにもなっているんですよね。
「そうです。今作っているのは『青銅の騎士』の復活上演です。多くの部分が失われてしまった作品なので、オリジナルのスタイルを参考にして、それを保ちながら作っていきます。ものすごくマリインスキーっぽくて、豪華で大規模なプロジェクトになると思います」
―『愛の伝説』ではカリスマティックな宰相も踊られました。『白鳥の湖』にも登場しますね。
「ロッドバルトです。私の役はこれ以外にないでしょう(笑)」
取材:小田島久恵 (音楽ライター)
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東京公演開幕!!
世界のバレエの至宝。ロシア芸術の都サンクトペテルブルグの高貴な華
マリインスキー・バレエ<キーロフ・バレエ>2015年来日公演
⇒ 詳細はこちらから
「ロミオとジュリエット」
12月1日(火) 18:30 東京文化会館
12月2日(水) 13:00 東京文化会館(平日マチネ公演)
「白鳥の湖」
12月4日(金) 18:30 東京文化会館
12月5日(土) 12:30 東京文化会館
12月5日(土) 18:30 東京文化会館
12月6日(日) 13:00 東京文化会館