2015/12/7

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樫本大進のインタビュー(リフシッツとのデュオについて)

[ふたりは人間性も音楽性も異なりますが、目指す演奏は同じ方向を向いています]

樫本さんはリフシッツさんと2010年12月からベートーヴェン・チクルスを開始し、ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏を行いました。同時に録音も行い、リフシッツさんとのデュオは絆を深めたと思いますが、彼との初共演は、日本だったそうですね。

「コンスタンチンとの初共演はもう10数年前になります。日本でベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番《クロイツェル》で共演し、彼の天才的なピアノの響きに一気に魅せられてしまいました。そのときに、“ふたりでいつかベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲を演奏したいね”と話したのです。ようやく10数年後にそれが実現することになり、とてもうれしかったですね。実は、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタをチクルスで演奏するのが、ぼくの長年の夢だったんです。その夢が、もっとも信頼し、敬愛するコンスタンチンとの共演でかなうなんて、信じられない思いでした。人生においていろいろ夢見ることは多いのですが、このチクルスは、ぼくの理想とする形のデュオ・リサイタルができたと思っています」

初共演から10数年経過し、ふたりの気持ちには何か変化がありましたか。

「この10数年間にぼくも彼も各地で演奏を重ね、さまざまな人と共演を行い、人生経験も積んできました。そのなかでベートーヴェンの偉大な作品とどう対峙するかをじっくり考え、ふたりで練習を重ねてきたのです。そして2010年にソナタ全曲に真っ向から向き合う準備が整い、演奏を開始しました。もちろん、当初考えていた解釈、表現、奏法などにいろんな変化はありましたが、それは当然のことで、それだけふたりとも経験を積んできたということだと思います。そうした変化について話し合うのも、興味深かったですね」

おふたりは、音楽性も人間性もまったく異なり、それが刺激的なデュオを生む大きな要因になっているようですが…。

「本当に性格は違いますね。それが演奏にも反映し、異なる音の対話が生み出され、いつも丁々発止の音のやりとりが行われます。でも、目指す演奏は同じ方向を向いています。それがコンスタンチンとの共演の一番の醍醐味だといえます。ベートーヴェン・チクルスのときは、特に第7番に関していえば、ピアノとの濃密な会話が重要になります。コンスタンチンは天才的なピアノを弾く人ですので、彼に合わせてぼくも刺激的な演奏をしたいと思うようになったのです。その思いがぶつかり合い、結果的にスリリングなデュオが生まれたのだと思います」

樫本さんは2010年にベルリン・フィルのコンサートマスターに就任し、オーケストラでの演奏を重ねることにより他の楽器の音に注意深く耳を開く要素が加わったと思いますが、そうした点がリフシッツとのデュオにはどんな影響がありますか。

「オーケストラでの演奏は、本当にいろんな面で大きな勉強になります。ぼくにとっては、日々新たな発見があるという感じです。他の楽器の音に耳を開くという点では、コンスタンチンの音をより繊細に、注意深く、集中して聴くようになりました。ぼくは彼のピアノを初めて聴いたときの、心が震えるような感動をいまだ忘れることはありません。その演奏は驚異的な集中力に支配され、ある種の狂気をただよわせていました。ベートーヴェンの作品の奥にもそうした狂気が横たわっていますので、チクルスのときは、ぼくも狂気を感じさせる演奏をしたいと願ったものです。コンスタンチンは、幅広いレパートリーの持ち主ですが、とりわけJ.S.バッハの演奏がすばらしい。まるで神からの贈り物のようにぼくを別世界へといざなってくれます。もちろん、バッハやベートーヴェン以外の作品もすばらしく、いつもふたりで次はどんな作品を演奏しようかと話し合っています」

今回のデュオでは、おふたりの得意とするベートーヴェンのソナタ第7番と、ブラームス、プロコフィエフが選ばれていますね。

「長い間ふたりで考えて、ようやく決めたプログラムです。これはコンスタンチンといつも話していることですが、ぼくたちは聴いてくださるかたがコンサート後に笑顔になって帰ってほしいと思っているんです。いま世の中はさまざまな問題が起き、人々は困難な状況に陥り、悩みを抱えている人が多い。日本も大変な状況で、例外ではありません。そのなかで自分たち音楽家に何ができるかを真剣に考えたとき、人々の心が一瞬でもいいから幸せな気持ちになる、そんな演奏をしたいと願っているわけです。そうしたことを踏まえ、ふたりでとことん話し合い、この3作品を選びました。ベートーヴェン同様、ブラームスとプロコフィエフも両楽器が一体化しないといい演奏は生まれません。ぼくたちのこれまでの演奏が強い絆となって、聴いてくれる人たちの心に届けばうれしいのですが…」

伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)
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樫本大進&コンスタンチン・リフシッツ
2016年02月12日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール

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