2015/12/24

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インタビュー:チョ・ソンジン(ショパン国際ピアノ・コンクール第1位、ポロネーズ賞)

 “ヨーロッパでの演奏機会はまだまだ足りない、それがコンクールを受ける理由だ”と、チョ・ソンジンさんが語っていたのは、2014年、第3位に入賞したルービンシュタインコンクールで話を聞いたときのこと。今回ショパンコンクールという特別な場で優勝に輝いたことで、これからの彼の長いピアニスト人生にとって念願だった、最高のスタート地点を手に入れたといえるでしょう。この後は音楽に集中し、すばらしい演奏を届けてくれることが期待できます! 次の来日ではガラ・コンサート以外にも、リサイタルやジョイントコンサートなど、さまざまな公演に出演予定。楽しみです。

─優勝おめでとうございます。結果を聞いたときのご気分は?
 実は覚えていないんです。1日たって、ようやく実感がわいてきました。メールボックスにたくさんメッセージが届いていたから。

─ポロネーズ賞も受賞されましたね。
 はい、ポロネーズはうまく演奏できたと思っていたので、嬉しかったです。とても光栄な賞です。

─コンクールに向けてショパンに集中する期間を過ごし、いかがでしたか?
 7月の末までは演奏会で他のプログラムもたくさん弾いていましたが、その後はショパンに集中していました。とても大変でしたね。ショパンの音楽は深いので、弾くごとに、良くなくなっていくような気がしてしまって。モーツァルトにもそういうところがあります。最初は簡単だと思うのだけれど、練習していくごとにどんどん難しくなっていくし、演奏も悪くなっていくように感じる。でも、ある地点を越えると、だんだんうまく弾けるようになっていきます。

─知れば知るほど満足できなくなっていくということですか?
 そうかもしれません。

─それでは、今のご自分はどのあたりの“地点”にいらっしゃるのでしょう?
 (逆放物線の底辺から少し上がったところを示しながら)ちょっとあがってきた、このあたりです。でも、これからもずっと、今が頂点だとは言えないような気がしますけど。

─それにしても、3次で演奏した「24のプレリュード」もすばらしかったです。
 これは僕にとって新しいレパートリーで、1年前から勉強を始めました。技術的には難しくないかもしれませんが、音楽的にはとても難しい。弾くたびに、いつも新しい作品のように感じます。感覚を掴むには時間が必要でした。ショパンのすべての感情と技術が込められていると思います。
 僕にとって、ショパンの中の“三大難しい作品”は、バラード4番、「幻想ポロネーズ」、そしてこの「24のプレリュード」です。

─ところで、ショパンを演奏するにはマズルカなど舞曲の理解も重要だったと思いますが、そういうものはどのように体得したのですか?
 クラコヴィアクのビデオは観ました。でも、それとショパンのマズルカとの関連性を理解するのは難しかったし、結局は別ものだと思いました。それなので、イグナツ・フリードマンのマズルカを聴いていました。彼のマズルカは最高で、すべてを語っていると思います。マズルカの感情は、ここから知ることができました。彼の録音はそれほどたくさん残っていませんが、僕がコンクールで演奏したOp.33は、録音が残されています。
ホロヴィッツのマズルカが好きな人は多いと思いますが、僕には、それはフリードマンの音楽を継承しているものだと感じられます。
 いずれにしても、フリードマンの演奏は彼独自のものですから、真似することはできません。21世紀になって、ピアノも変わっていますからね。でも、マズルカの理想的な形は、ここから学ぶことができました。
※ポーランドの民族舞曲の一つ。

─その学ぶプロセスというのは……真似するということでないなら、聴いて、自分のものにして、出していくということ?
 そうです、フィーリングを“盗む”というか。

─ショパンの人柄についての理解は、こうして改めて向き合ってくる中で変化がありましたか?
 フランス語で「弟子から見たショパン」を読んだのですが、ここから彼のさまざまなパーソナリティを発見しました。ショパンはとても厳格な先生で、あまり良い人じゃなかったような気がします。古風だけれど、ヒステリックなところもあるし、ちょっと変な人だったでしょう。身体は不健康で、精神的にもドラマティックだったと思います。そんなショパンの、本当の内面的な思考を表現したいと考えて、演奏に臨んでいました。

インタビュー・文:高坂はる香

*ガラ・コンサート会場で販売されるプログラム冊子には、別のインタビュー記事が掲載されます。ぜひご覧ください。

2016年1月に開催する【ショパン国際ピアノ・コンクール 入賞者ガラ】公演では、入賞者たちがカスプシック指揮ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団と来日し、若い入賞者たちの情熱をそのままお届けいたします。
2016年1月28日(木) 19時開演 東京芸術劇場 コンサートホール
2016年1月29日(金) 19時開演 東京芸術劇場 コンサートホール

公演の詳細はこちらから

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