2016/1/7

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市川右近×千住博 対談 「廻り舞台」がもたらした普遍性

市川右近 × 千住博 対談
「廻り舞台」がもたらした普遍性

 「いつともしれない物語、どこともしれない雪の中の村」
 これは、オペラ『夕鶴』に團伊玖磨が書き記したト書きである。團が木下順二の戯曲をオペラ化する際には、その条件として一言一句変えてはならないとされていた。ところが、このト書きを書き加えたのだ。2014年に上演され、今回再演が決まったオペラ『夕鶴』の演出を手がけた市川右近氏は、團によって加筆されたこの一行にテーマを見出した。
 「團先生は、木下先生のお書きになったものをもっと普遍的な世界観へ移し替えるというお考えで、この言葉を記されたのだと思います。2014年に新演出させていただくにあたり、今までの『夕鶴』にはない普遍性を目指し、そぎ落としていく作業をしました。そこで、歌舞伎の役者である私は、歌舞伎の舞台機構である廻り舞台を取り入れることにしました。これは能楽師が一周するだけで何千年という時の経過を表現するという抽象性がある能舞台から着想を得たものです。この廻り舞台と通常オペラに使われている開帳場の舞台を組み合わせることで、現代の能楽的な舞台機構になると思いました。そして、舞台を廻して、背景に千住博先生の絵を使わせていただくことで、家の中に見えたり、自然の風景に見えたり、空間の広がりを出すことができたのです。舞台上に家のセットを組んで囲炉裏を切ったり、鍋や釜があったりすると、團先生が目指していた普遍性とはほど遠いものになる。このことをプロジェクトチームの皆さんと共有し、お互いにアイディアを出して意見を交わし合いながら作業を進めることができました」
 こうした市川右近氏の発想の転換で、“そぎ落としていく”という作業を徹底したことにより、従来のオペラ『夕鶴』とは一線を画した新作が誕生したのだ。この新演出の立役者の一人である千住博氏も、次のように語る。

 「今回右近さんが演出されたことで、あらゆる意味の融合となりました。西洋文化と東洋文化の融合であり、オペラと歌舞伎の融合であり、現代と古典のアートの融合であり、またハイテクとローテクの融合でもあった。こうした多様性に満ちたものをすべて受け容れる現代だからこそ、実に現代的な舞台となったのだと思います。まさに不易流行ですね。日本の文化というのは、基本的に自然景観ですべてを表すということがあります。オペラ『夕鶴』も人間中心の世界観ではなく、自然に置き換えて設定されている作品だったはずです。日本というのは、自然景観で物が語れる。“ここにあるつもり”ということで見る人の想像力を膨らませるために、廻り舞台がある。右近さんのご提案が「まさにこれだ」と「これならすべてを抽象的に生かすことができる」と、全員一致で決まりました。これが鉄壁の完成度へと導いていったのだと思います」

 時空を超えたテーマを掲げたオペラ『夕鶴』。日本の美意識を兼ね備えた歌舞伎の演出を取り入れたことで、この作品の本質をより具現化することができたのである。

文:山下 シオン(ジャーナリスト、エディター)
写真:ヒダキトモコ

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オペラ「夕鶴」2016
2月14日(日) 15:00 神奈川県民ホール
3月24日(木) 14:00 東京文化会館
3月27日(日) 14:00 東京文化会館

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