2016/1/12
ニュース
インタビュー:海老彰子(ショパンコンクール審査委員)
1980年のショパンコンクールで第5位に入賞し、今回、予備審査、本大会で審査委員を務めた海老彰子。結果発表の翌日に伺ったお話をご紹介します。
─審査結果について、どのようにお感じになっていますか?
第1位、第2位は、ファイナルの協奏曲を聴いただけでは出てこない結果でしょう。1次からファイナルまで聴いてきたうえでの評価をもとに出された結果だと思います。中国系の若いピアニストたちも入賞しましたが、若い才能をとるのか、充実した音楽を聴かせてくれる人をとるのか、この判断は難しいところです。
その他の方についても、いわゆる“ショパン”からはみ出した音楽も認めるのか、それともやりすぎだと判断するのか、これが難しかったですね。
─“ショパンらしい”か否かは、やはり審査のうえで大切なポイントになるのですね。それでは、どのような演奏が“ショパンらしい”のでしょうか。
まずは、ショパンのテキストをよく読んでいることです。そのうえで、どれだけ深い解釈であるかが大切になると思います。
楽譜をよく読みこんだうえで生まれるバラエティの豊かな演奏は受け入れることができますが、それが感じられない演奏や、やりすぎの演奏には、ショパンからまったく外れているという印象を受けます。テキストを尊重することがやはり大切です。
楽譜には、エキエル版、パデレフスキ版といろいろありますが、音の違いは重きを置くべき問題ではないでしょう。それよりも、ショパンの自筆譜を見て音楽の流れを感じ、それをどう解釈してゆくかが大切ではないかと思います。今の時代、若い方々の感覚は変わってきているでしょうし、そうした感覚もわかるのですが、古くからあるショパンへの向き合い方、本や資料をあさって考えるということも必要ではないかと私は思います。
─優勝したチョ・ソンジンさんにはどんな印象をお持ちになりましたか?
彼は春の予備審査から、ものすごく伸びました。もともと良いピアニストでしたが、これはちょっとショパンではないかな……という部分もあったところを、見事にショパンらしい演奏として仕上げていました。
ファイナルの協奏曲は、少し緊張されていたようですね。さらにオーケストラの演奏がブラームスかベートーヴェンのように重かったため、ピアノの音が聴こえにくいところがありましたが、審査結果は全体的な印象をもって出されました。完璧な演奏をできる方ですから、これからさらに自由さが加わってくるとますます良いピアニストになるだろうと感じています。
ショパンコンクールのような場では、優勝者を決めるとき、どうしても、歴代のレベルに達しているか、これから世界のピアノ界を支えていく中心人物としてやっていけるかが問題となります。報道陣やインターネット配信のカメラに囲まれて演奏を続け、今、チョ・ソンジンさんは大変疲れていると思います。でも彼は、そんなすべてのことをはねのけて進んでいける精神的な強さを持っていると思います。
インタビュー・文:高坂はる香
◇2016年1月に開催する【ショパン国際ピアノ・コンクール 入賞者ガラ】公演では、入賞者たちがカスプシック指揮ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団と来日し、若い入賞者たちの情熱をそのままお届けいたします。
2016年1月28日(木) 19時開演 東京芸術劇場 コンサートホール
2016年1月29日(金) 19時開演 東京芸術劇場 コンサートホール