2016/5/12
ニュース
ヒラリー・ハーンに聞く インタビュー[2]
Q:まもなく、世界各国でのリサイタル・ツアーにお出かけになりますね?
HH:ええ、いま、とても気持ちが引き締まっています。最初のパフォーマンスが、前述のパルティータの「H・Heart」、「I・Immensity」、「L・Love」の、ワールド・プルミエになるんです。気合が入りますね。すばらしい体験になるわ。
Q:全部で何都市を回るのですか?
HH:10都市だったはずです…ちゃんと覚えていないけれど!
Q:そのあとが日本ですが、直接いらっしゃるのですか、それとも一旦アメリカに戻られてから?
HH:洋服の洗濯をしなければならないから、いちど家に帰りますよ(笑)。
Q:失礼いたしました! でも、ということは少しリラックスしてから日本にむけて出発ですね。
HH:はい、そうです。
Q:ところで、昨年の8月に娘さんが誕生しておられます。心から、おめでとうございます。そしてお祝いを申し上げるのが遅くなりましたこと、お許しくださいね。
HH:とんでもない、どうもありがとうございます。
Q:女性にとって母になることは人生の大きな変化だと思うのですが、たとえば、ハーンさんが後進のご指導にあたられる時など、出産が契機になってご自分が変わった、と感じるようなことはあるんでしょうか?
HH:残念ながら私はいま、演奏旅行に忙殺されていて、教える仕事というのはほとんどできないんです。マスタークラスなどで教えた経験はあるし、教えることに興味もあります。私自身は、週に二回、コンスタントに教えてくださる先生に就いて勉強しました。いまの私はそれだけの時間を作れる状況にありません。もし将来、もうすこし時間に余裕が出たら、もちろんやってみたいです。ですからご質問の答えになるような体験談が、いまの私ではできません…残念ですが。学生の方たちと接することは大好きなので、教えるようになったら、きっとその仕事を好きになるだろう、ということは、いまから予感しています。
もし、親になる、という体験に関して私がなにか言えるとすれば、人生の流れでそれは一つの出来事として存在しているけれど、音楽との距離を大きく変えるものではない、ということでしょうか。たとえば、わたしのコンサートを聴きに来てくださる方たちのなかに、15年、20年という期間をへて、最初の頃は学生だった方々が、いま、ご自分のお子さんたちを連れてきてくださったりする。時間ともにそういうことが起こるわけです。そんな姿を見ていますと、ああ、音楽はつねに私たちの人生とともにあるんだなあ、と感じますね。いくつもの世代を超えて…多くの人たちの関心や、それぞれの日々の行ないとともに、自然にあるものなんだ…と、むしろそう感じます。
Q:過去のインタビューで、ハーンさんは、「人とコミュニケーションするのが好きだし、音楽だけにとらわれず、つねにいろいろなものに目を開いて、たとえば自然のなかで花を見て、風を感じて…そういう気づきが大切。」とおっしゃっていました。そのようなセンシビリティ、また、それをキープしようとする姿勢は、生まれつき持っていたのでしょうか、あるいは、むしろ意思を持って保っておられるのですか?
HH : (しばらく考えたのちに)…おそらく、その両方のコンビネーションで、習慣として身についたんだと思います。いつもいろいろなことに興味がありましたし・・・たとえば大きな絵画などの細かい部分までじっくり見たり、何か観察したりすることが好きなのです。そんなそもそもの性質を後押しするかのように、先生たちや、家族に「そうだよ、もっとやってごらん。」と手助けされたんですね。いろいろなことにトライするように、体験してみるように、と、つねに励まされました。ただし、なんとなくやるのではなくて、「どうやったらいいか?」を考えることを怠りませんでした。それぞれの体験を関連づけることも。また、体験して自分がどう感じたか?という、考察もね。そうすると、自然に「じゃあ、このあとステップアップするにはどうしたらいいかしら?」と、継続が生まれるんです。周囲からのすばらしい応援があったということ、これは自分の大きな幸運だったと思います。
Q:そして今もそのように前進することを意識しておられる…?
HH:たしかに音楽そのものに関しては、探求を怠っていませんが、最近気づいたことは、音楽の周辺、あるいは音楽以外のことから受けた刺激が、音楽そのものに還元されていくようなことがとてもあるなあ、ということ。いま私は、音楽が「どのように生成されたのか?」ということにとても興味があるんです。顕著な例が、作曲家とともに行ったコラボレーションです。意見交換しながら曲を書いていただいたわけですが。それ以前の私は、曲を演奏はしても、何もないところから曲を「つくる」ことはしていなかったわけです。最近は、共演者との即興演奏を試みてもみたり…。
みなさんにお聴きいただく「27のアンコールピース」にしても、ガルシア=アブリル氏のパルティータにしても、私はそれらの曲が「無」だったところから、最終的に曲に仕上がるまでのプロセスそのものと関わりを持ったわけなのです。パフオーマンスのとき、私は「ああ、自分は五線譜の上にこの音符たちが乗って行った過程を知っている。」という思いで弾くのです。
また、それぞれの作曲家のクリエイティビティがこれほどまでに多様だということ、じかにそれらに触れ、私の演奏にもアイディアが湧いてきます。理解が深まるということは、同時に、演奏における自由を与えられることでもあるんですよ。この人がどんな作曲家で、どのような方向を目指し、その作品に触れて自分はなにを思うか・・・そういう情報を共有できますから。
Q:同時代を生きる作曲家たちだからこそ、そのようなすばらしい体験の共有が可能になったわけですね。しかし、バッハやモーツァルトの曲を弾くときは、どうしたらいいでしょう!?
HH:とにかく、ベストを尽くしかないわ!と申し上げておくわ(笑)。
Q:では、たとえば今日の午前中、音楽以外のことで、なにか新発見はありましたか?
HH:今朝は、ラテン・ダンスのクラスに行ってきました(笑)! ルンバやサルサなど、ラテン音楽でエクササイズをするのよ。いい汗をかきました。それから、ツアーのために仕立てた新しいドレスを受け取りに、洋裁店に行ってきました。午前中はそこまでで、このあと午後はヴァイオリンの練習です。今回のプログラムは多様なスタイルの楽曲を集めているので、そのバラエティを検証するため、一見まったく違うスタイルでいろいろ弾いてみたりしてきましたが、自分のなかでは一貫した流れがあるので、練習を重ねてそれらのクロスポイントがあらわれて、よい音に仕上がっていくことを確信しています。
Q:今年の前半はワールドツアー、そしてまもなく日本、ということで、カレンダーはすでにいっぱいです。今後のおもだったスケジュールには、どんなものがあるのですか?
HH:まずツアー中の5月にウィーンのコンツェルトハウスでの演奏があり、秋になりますとアメリカではシアトルで重要なステージ、フランスのリヨンでも演奏します。ほかにもいろいろ予定がありますけれど、準備に力を入れているのはまず、そのあたりですね。
Q:お忙しいに違いありませんが、どうぞ、6月には元気に日本にご登場くださいね。楽しみにしています。
HH:私もです。日本のオーディエンスのみなさんは素晴らしいわ。まもなく、お会いしましょう!
インタビュー・翻訳:高橋 美佐
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研ぎ澄まされた技巧と高貴なる響き~進化し続ける奇跡のヴァイオリニスト
ヒラリー・ハーン ヴァイオリン・リサイタル
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