2012/12/4

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ラファウ・ブレハッチがプログラムについて語る(1)

ラファウ・ブレハッチ

Q : 本日はありがとうございます。来年2月に、また日本でブレハッチさんの演奏を聴けると思うと、私ども一同、たいへん幸せです。
RB : 私もとても楽しみにしています。また日本に行けること、みなさんに、ショパン作品、そしてとくに今回シマノフスキ作品をお聞かせできることを、とてもハッピーに感じています。来年、シマノフスキのソナタが演奏の曲目に予定されていますよね。ドイツ・グラモフォンのアルバムに収録した曲目なんです。

Q : シマノフスキのピアノ・ソナタ第一番のことですね。
RB : そのとおりです。

Q : きょうは、7項目の質問を用意させていただいたのですが、シマノフスキに関する質問はとても大事なものです。なぜ、この作曲家につよい魅力を感じられるのですか?
RB : それでは、私がシマノフスキの音楽に出会ったときのことをお話しましょう。あれはたしか、私が11歳か12歳のときのことです。あるポーランド人のピアニストでもあり先生でもあった方のコンサートに出かけました。私が学校に通っていたビドゴシュチュの町でのことです。コンサートの会場はビドゴシュチュ音楽院の中で、先生はシマノフスキの作品だけを選んでリサイタルを行われました。これが私とシマノフスキ作品との、最初の出会いです。はっきり覚えておりますが、彼の、シマノフスキの曲を聞いてぱっと気持ちが明るくなったのです。その美しいハーモニーにたちまち惹きつけられました。メロディーもまた素晴らしく「ああ、シマノフスキ作品を弾きたい」と強く思い、さっそくいくつかの作品にトライしてみました。聴衆を前にして初めて弾いた作品は、作品番号3,ピアノ変奏曲 変ロ短調 (Variations Opus.3 B flat minor) でした。2005年にショパン・コンクールで優勝した後も、シマノフスキ作品はかなり多く弾いてきました。ヨーロッパはもとより、アメリカ、アジア、日本でも演奏しています。

Q : そうでしたか。音楽そのもの、そして作曲家の姿そのものが、惹きつけられる大きな要因だったのですね。
RB : はい。彼の作品には、興味を喚起される側面がいくつもあります。第一にハーモニーが素晴らしく、また、意表を突いて音を抑えるような表現も多用しています。そしてもっと美しいのは、楽曲に漂う詩情の豊かさ。ポエティックな断片がたくさん、ちりばめられているのです。メロディーのひとつひとつが心を奪います。そういった情緒の反映が、聴衆のみなさんに訴えかけるのだと思います。

Q : シマノフスキに親しむ大きな理由として、ご自身の国の作曲家だ、ということがあるのではないでしょうか?
RB : そうですね、たしかに、シマノフスキの楽曲にはポーランド音楽に独特の要素がいくつかあります。彼は多くのマズルカを書きました。ポーランドの典型的なフォークロア音楽から、彼は大きなインスピレーションを得ていることを感じますね。

Q : 今回は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第7番もお弾きくださいますね、この選曲の理由は?
RB : はい、自分の中では、私のドイツ・グラモフォンでの2枚目のCD「ウィーン古典派ソナタ集」からの流れがあります。2008年の録音で、そのCDにハイドン、モーツァルト、そしてベートーヴェンのソナタを入れました。そして今年は、ヨーロッパのコンサートでソナタを弾く機会が多かったので、日本でも弾いてみよう、と思ったのです。私には、古典派様式が非常に大切です。なぜかといいますと、子供のころ、私は頻繁にバッハとモーツァルトの作品を弾いていましたから。その流れの次にベートーヴェンにも挑戦する時期がきました。いま、日本の皆様を前に、古典派作品を演奏できることは、とても嬉しいです。

ラファウ・ブレハッチ

Q : 私たちにも嬉しいお話です。あなたのベートーヴェンの演奏に期待します。
RB : 私もとても幸せに感じています。彼のこのソナタは素晴らしい作品です。エネルギーに満ちあふれ、とくに第2楽章の素晴らしさは私の心を打ちます。心の琴線に触れ、揺り動かされます。演奏できることは喜びなのです。

Q : 大きな作品ですね、4つの楽章から成り、ベートーヴェンの32のソナタの中でも特別なものです。
BR : おっしゃるとおりです。くり返しますが、第2楽章のラルゴはとても有名です、非常に美しい部分です。そしてやはり、部分だけでなくソナタ全体が美しいですね、ベートーヴェンが心血を注いだ大作です、比類のない作品です。

Q : 演奏をお聴きするのが待ち遠しいです。さて、次はショパンについてお聞きします。ブレハッチさんといえば何と言ってもショパンです。日本の聴衆は、ショパン・コンクールでのあなたの完全勝利に圧倒されました。そこで伺います。コンクールで優勝された前と後とで、ご自身のショパンに対する認識に、変化した点がありますか?
RB : 申し訳ありませんが、言葉にはしづらいのです。作品の解釈は、私のなかの、自然な流れに沿って行われるものです。解釈は、もちろん、変化しうるものだと思います。ただ、ショパンに関して言えば、私の作品解釈はそれほど変わっていないと思います。作曲家自身のスタイルが大切なのであって、私は昔も今も、そこを堅持したいと考えるからです。私の考えでは、演奏家がそれぞれの解釈・奏法を展開できるとするならば、その鍵となるのは、演奏家がいかなる作曲家に対しても、その意図にどれだけ尊敬を払えるか、ということだと思うんです。作曲家が指し示すことに対して、いかに敬意をもって向き合うことができるか・・・です。私たちは作曲家の様式を逸脱してはなりません。それは、けっして、してはいけません。次回の日本ツアーでは、いくつか、皆さんの前で初めて弾く曲目がありますが・・・数年前の機会には披露しなかった曲目です・・・新しいショパンの曲をご紹介することに意義を感じています、ノクターン、ポロネーズ、スケルツォの3番、そして3つのマズルカです。これらの曲は、日本でまだ弾いていないですよね。今回、みなさまにお聴きいただけることを幸せに思います。

Q : ところで、ポーランド人ではない演奏家と話をしますと、しばしば聞く台詞なのですが、みなさんマズルカが難しいとおっしゃるのです。ポーランド民謡の独特のリズムだから、とおっしゃるのですが・・・これは、正しい見解だと思われますか? あるいは、ご自身がポーランド人であることで、弾きやすい、と感じますか?
RB : その意見は、必ずしも当たっていないと思います。なぜかといえば、ポーランド人ではないピアニストは大勢いますが、その中にマズルカやポロネーズをとても上手に弾く人も多いのです。ですので、最も大切なのは感性です。感性でとらえれば、典型的なポーランドの音楽スタイルであるマズルカやポロネーズを理解できます。確かにマズルカの中には、特徴的なポーランドのダンスのリズムが入っており、そのフォークロアの要素をどのように演奏スタイルとして作るか、という問題はあります。もし演奏家の方たちがその方法をさぐり正しい解釈をしようと思うのなら、研ぎ澄まされた感性でもって、作曲家の意図した様式、その曲の様式に至ることです。それがあれば、高度な演奏を実現できます。

Q : 今のご意見は、多くの人たちへのアドバイスにもなります。どうもありがとうございます。
RB : いずれにしても、これだ、という解釈に至るためには時間が必要です。マズルカは決してやさしい曲ではありません。テンポもルバート(rubato)を多用していますし、掴みにくいものなのです。しかし、先入観を捨ててみることです。ポーランド人でなくても、素晴らしいマズルカやポロネーズを演奏することは、きっとできると思います。

電話インタビュー:高橋美佐
Photo by Felix Broede

次回は、以前パイプオルガンについて勉強していた事や哲学についても語ります。
https://www.japanarts.co.jp/news/p225/


―深化する音楽。―
ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル
ラファウ・ブレハッチ
2013年02月05日(火) 19時開演 サントリーホール
2013年02月10日(日) 14時開演 横浜みなとみらいホール

公演詳細はこちら

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