2016/10/8
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【公演直前インタビュー】世界の歌劇場で活躍するテノール ヨンフン・リーの魅力
5年ぶり2度目の来日。2011年のメトロポリタン・オペラ『ドン・カルロ』で、急遽ヨナス・カウフマンの代役としてタイトル・ロールを歌い、ドラマティックな歌唱と演技で日本の観客を釘付けにした。マリインスキー・オペラとの共演では、同じく『ドン・カルロ』の主役を歌う。
この5年間ですっかり大スターになってしまいましたね。
「METでデビューしたときは、『彗星のごとく…』などと言われたものですが、実は地道な努力の結果なんですよ。それまでもヨーロッパ各地の劇場でこの役を歌っていましたし、毎回真剣に取り組んでいました。僕のキャリアの中で画期的だったのは、2007年にフランクフルト歌劇場で上演された新制作の『ドン・カルロ』です。オープニングの二週間前に主役のテノール歌手が降板になり、急遽僕がキャスティングされたのですが、新制作ということもあり大きく注目されていたプロダクションでした。その公演を成功させ、翌年にはロリン・マゼールの招待でバレンシアの劇場でも歌うことが出来ました。それが大きな転換点だったと思います」
METでは色々な役を歌われていますが、アンナ・ネトレプコと共演した『イル・トロヴァトーレ』は日本でもライブビューイングで観ることができました。
「アンナはすごくいい人! そしてとても普通の人なんです。いわゆるオペラ・スター的な気取ったところが全くないのですね。アンナとホヴォロストフスキーとは、2018年にも『トロヴァトーレ』をやるんです。息の合った3人なので『毎年やりたいね』と話しているんですよ」
楽しみです! マリインスキーとの共演は昨年のバーデン・バーデンでの『ドン・カルロ』だったとお聞きしました。この劇場と再び日本で歌う気持ちは?
「ゲルギエフ氏に認めていただいている嬉しさがあります。バーデン・バーデンで歌ったとき、公演後にマエストロが楽屋を訪ねてきてくださって『君のレパートリーを書き出してくれ。今までやってすべての役で契約したい』と仰ってくださったんです。日本でも最高の演技をしたいと思っています」
さきほど、マリインスキーのスタッフと『ドン・カルロ』の中で使う映像を撮られていましたが、何度も同じことを繰り返す忍耐力のいる現場で、最後まで皆をハッピーにさせてくれたヨンフンさんの姿に驚きました。そのプロ精神はどう培ったのですか?
「半分は僕のもともとの性格、半分はこれまでの現場で苦労しながら学んだことです。歌にはテクニックが必要ですが、心のすべてを表現するためには指揮者やオーケストラは勿論、舞台に出ない裏方スタッフとも積極的にコミュニケーションをとっていく必要があります。気持ちが通じ合っていないと、聴衆は『何かがおかしい』とすぐに気づくんですよ。実際、過去に周囲とうまくいかないことがあり、辛い経験となりました。そうしたプロダクションの後では、挨拶もなく「またやろうね」といった会話もなく、ただ解散するだけ…そういう現場にはしたくないのです」
技術だけでなく、心のパワーが必要なのですね。
「僕は人が好きだから、その点はラッキーでした。毎朝目が覚めるたびに『何が起こるかわからないから、何があってもベストな対応をしよう』と思うんです。オペラは一人では作れないですからね」
小田島久恵(音楽ライター)
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帝王ゲルギエフ&伝説の劇場が威信をかける2演目
マリインスキー・オペラ 来日公演2016
「ドン・カルロ」
10月10日(月・祝) 14:00/10月12日(水) 18:00
「エフゲニー・オネーギン」
10月15日(土) 12:00/10月16日(日) 14:00
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