2016/10/11
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【歌手インタビュー】アレクセイ・マルコフ&ミハイル・ペトレンコ(マリインスキー・オペラ)
◆『ドン・カルロ』でエネルギッシュなロドリーゴ役を演じたアレクセイ・マルコフ。2008年からマリインスキーのソロ専属歌手として活躍し、METやヨーロッパの主要劇場でもひっぱりだこのスター歌手だ。『エフゲニー・オネーギン』ではタイトル・ロールも歌う。開演前のバックステージで、ラフなTシャツ姿で歩いていた彼をつかまえた。
「まず、今回私が『ドン・カルロ』で歌うのは初めてなのです。他の演出で歌ったことがないので比べることはできませんが、よい演出だと思います」
ロドリーゴはドン・カルロに忠誠を尽くし、命を捧げる高潔な役ですが、マルコフさんも友情に厚いタイプなのでは?
「ロドリーゴにとってドン・カルロは高貴な王子であり、同時に親友でもあるわけです。そのことを表現しなければならない。友情だけでなく、家臣として尽くしたい、という気持ちがあるのです。そこが普通の友人関係とは少し違うところですね」
声楽的に難しいところは?
「トータルで非常に長いオペラで、ロドリーゴは最初から最後まで登場し、どのシーンでも息の長い歌を歌います。音域も高めですし、歌手としては色々なことを同時にコントロールしながら歌う必要があります」
ゲルギエフさんの指揮は?
「すべては…神のようです。問題は何もありません。ゲルギエフさんは私のことをよくわかっているし、私もマエストロのことをよくわかっている。歌手の気持ちを深く理解してくださる方です」
マリインスキー劇場は歌手がたくさんのレパートリーをこなさなければならないことでも有名ですが、専属歌手のマルコフさんはどれだけの役を歌われてきましたか?
「数えたことはありません…!(笑)おそらく数十ほどでしょうか。今まで本当にたくさんの役を歌ってきましたが、最近では長く歌い続けるために、喉を大切にしようと考えています。声楽的に健康な状態を保つためには、依頼を断る決断力も必要です。METでもヨーロッパでも、色々な役を断ってきました」
歌手はひとつでも多くの舞台に立ちたいものだと思っていました。
「仕事がまったく決まっていない歌手なら、どんな役でも歌いたいと思うでしょう。でも、私は神様が見てくれているので、選択する可能性があるのです」
この日のマルコフのパフォーマンスは絶好調で、フルラネット、ヨンフンとの掛け合いもゴージャスで完璧だった。ロドリーゴの声楽的な「美味しさ」をすべて押さえており、演劇的にも複数の相手役と絶妙なニュアンスの芝居を見せる。「健康であることが重要」と何度も語っていたマルコフ。プロとして万全の準備をしているストイックな日々がうかがえた。
◆ヴェルディの書いたバス役の中でも、ベスト3に入る「恐い役」が、フィリッポ2世に親心を捨てさせ、カルロ処刑を決意させる宗教裁判長だ。地面から呻くように鳴るおどろおどろしいオーケストラに乗って、冷酷無比な歌を歌うこの役を、存在感たっぷりに演じたのがバス歌手のミハイル・ペトレンコ。終演後、役について語ってもらった。
宗教裁判長はある意味、人間を超越した役ですが、このような役はどのように作っていくものなのですか?
「『ドン・カルロ』でこの役を歌うのは初めてではないので、つねに自分の中でイメージがあります。悪魔的な役を歌うのはとても面白いですよ」
先日の演奏会形式『ファウストの劫罰』でも、すごいメフィストフェレスを歌われていましたしね。
「あの役もとても歌い甲斐があります」
ところでペトレンコさんはとても背が高いのですが、宗教裁判長はさらに底の厚い履物を履いていました。
「15センチほどの高さがあります。でもあの靴は、役作りの中では最後のニュアンスですね」
なるほど。フィリッポが絶望に打ちひしがれた歌を歌った後、宗教裁判長はさらに低いオーケストラの音とともに現れます。あそこではフルラネットさんより低い声を出そう…と思ったりするのでしょうか?
「譜面通り歌うだけです(笑)」
ああ、それはそうですよね(笑)。
「存在感を抑えるというか、気持ちを低く抑えて歌うということはあります。宗教裁判長は顔が見えないような照明になっていますが、そのことによって影の存在であることを伝えているのです。見えなければ見えないほど、恐ろしい存在になるのです」
『エフゲニー・オネーギン』ではグレーミン公爵を演じるペトレンコ。温かい心の人間役(!)を見られるのも楽しみである。
取材・文:小田島 久恵 (音楽ライター)
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マリインスキー・オペラ 来日公演2016
「ドン・カルロ」
10月12日(水) 18:00
「エフゲニー・オネーギン」
10月15日(土) 12:00/10月16日(日) 14:00
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