2016/10/18

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ザ・フィルハーモニクス コンサートレポート [9月21日 コンツェルトハウス]

12月に来日する、ザ・フィルハーモニクスのコンサートレポートが届きました。是非ご覧下さい。

ザ・フィルハーモニクス コンサートレポート

 ウィーンの音楽シーズンが本格的に始まる直前の9月21日、コンツェルトハウスでザ・フィルハーモニクスのコンサートが行われた。彼らの本拠地であるコンツェルトハウスでの3回の定期公演の初回は、「Movie Night」と題して映画音楽の特集が組まれた。

 ウィーン広しといえども、1900席近いコンツェルトハウスの大ホールを公演の度に満席にしてしまうアンサンブルグループは稀だろう。つい最近、ピアノと第2ヴァイオリンがヤーノシュカ兄弟からクリストフ・トラクスラー(ピアノ)、セバスティアン・ギュルトラー(第2ヴァイオリン)にメンバーが変わったばかり。2人のメンバーが同時に抜けたことで、彼らの音楽がどう変わるのか、注目していたファンも多かったに違いない。

 果たして、心配はまったく無用だった。チェロのシュテファン・コンツ作による「Filmharmonics」という冒頭の曲では、ジェームズ・ボンドの007シリーズや「ロッキー」のテーマなどお馴染みの映画音楽のメロディーを切れ味のある演奏で聴かせ、聴き手の心を一気にさらった。ドヴォルザークのスラヴ舞曲、ピアソラの「ミロンガ・ロカ」、クライスラーの「中国の太鼓」といった彼らのお馴染みのナンバーの後、ガーシュインの「サマータイム」では、伴奏のメンバーがぐっと音量を落とす中、クラリネットのダニエル・オッテンザマーが夏のけだるい雰囲気を作り出す。彼ら1人1人のソロが卓越しているのはもちろんだが、引き立て役に回るときの切り替えも絶妙だ。

 後半、ちょっとした「事件」が起きた。2曲目で新メンバーのギュルトラーが朗らかな声でウィーンなまりの歌を披露。それがあまりに堂に入った歌いっぷりだったので、地元のお客さんも大喝采を送った。もともと彼はウィーン・フォルクスオーパーのコンサートマスターを務め、ザ・フィルハーモニクスのメンバーとは以前から「相思相愛」の間柄だったというが、面白い人が加わったものである。ピアノのトラクスラーも、端正さと豪快さを兼ね備えた名手だ。

 最後のサティの「グノシエンヌ」は、掛け声と共に圧倒的なスピード感の中で繰り広げられるクレズマー風の曲で、「これがあのサティの音楽?」と思ったほど。アンコールでは、スティングの「Englishman in New York」、ジャズ風のアレンジの「ピンク・パンサー」、さらに「ユダヤの母」がたたみかけるようなテンポで演奏されて終演。聴衆は総立ちとなった。

 この日彼らが演奏したのは、クラシック、タンゴ、ジプシー音楽、クレズマー、ジャズ……。さまざまな時代とジャンルの音楽がまったく違和感なく1つのコンサートに収まり、かついずれの曲もメンバーによる独自の編曲と卓越したアンサンブルで楽しませてくれたのは驚くほかない。リーダーのティボール・コヴァーチが語るように、ウィーンという「もともとハプスブルク帝国時代からさまざまな文化や潮流が混ざり合った土壌」で生まれたザ・フィルハーモニクス。新メンバーが加わったことで、彼らが新たな化学反応を起こし始めたのは間違いない。

中村真人(在ベルリン/ジャーナリスト)

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ウィーン・フィルの伝統をベースにジャンルを超える!
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ザ・フィルハーモニクス
2016年12月9日(金) 19:00開演 東京芸術劇場 コンサートホール
公演詳細はこちらから

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