2017/7/31
ニュース
指揮者フィリップ・ジョルダン その人と音楽 その2
フィリップ・ジョルダンのご紹介その2をお届けします!
⇒ その1はこちらから
今年6月、私はウィーンに赴いた。フィリップ・ジョルダンとウィーン交響楽団のベートーヴェン・ツィクルスの最終公演(合唱幻想曲と交響曲第9番)を聴くためである。2014年に首席指揮者に就任した最初のシーズン、ジョルダンはシューベルトの交響曲ツィクルスを行い、翌シーズンはバルトークの作品とベートーヴェンのピアノ協奏曲(ピアノはピエール=ローラン・エマール)を組み合わせたツィクルスで話題を呼んだ。そして、3シーズン目に満を持して臨んだのが、ベートーヴェンの交響曲ツィクルスだった。意外にも、ウィーン響がベートーヴェンのツィクルスに取り組むのは、1998年のフェドセーエフ指揮以来だという。
ツィクルスは約4ヶ月かけて、録音をしながら入念に進められた。6月20日の夜は、楽友協会の大ホールでレコーディングも兼ねたゲネプロが行われた。黄金のホールの舞台にぎっしり並ぶオーケストラに合唱団、そこからかすかに聴こえてくる空虚五度の響き。もうそれだけで胸が熱くなるが、そこから巨大な音楽の全容が姿を現すまでのたたみかける迫力にいきなり圧倒された。やや早めのテンポの中で、強い表現への意欲にあふれた演奏であり、ジョルダンはすべての小節において音と「格闘」しているような趣きだった。もちろん、常に汗をかきながら動き回っているわけではないのだが、舞台の至るところから熱ある響きが吹き出してきて、聴き手を呪縛し続ける。翌日、ジョルダンにインタビューした際、その感想を伝えたところ、「第8番まではコンパクトな編成も取り入れましたが、『第9』はベートーヴェンが表現の苛烈さの限界に挑んだ作品なので、(コントラバス8本の大編成を使って)人間的な部分とモニュメンタルな要素の両方を出そうと努めました」という答えが返ってきた。
21日の本番の演奏会も感銘深いものだった。フィナーレ冒頭での低弦のレチタティーヴォは人間の声のように響き、ジョルダンのオペラ指揮者の経験が如実に生きていた。私が直接知る20代の頃のキビキビとした音楽の運び方は変わっていないものの、音に漂う風格やスケール感がぐっと増した。ソプラノのアニア・カンペ、バスのルネ・パーペといった当代一流の歌手をソリストに起用できたのも、オペラ指揮者ジョルダンの幅広い人脈ゆえだろう。
この原稿を書いている数日後の7月25日、ジョルダンはバイロイト音楽祭のオープニング公演、新演出の《ニュルンベルクのマイスタージンガー》を指揮する。彼は2012年にここで《パルジファル》を指揮しているが、プレミエを任されるのはこれが初だ。欧州の楽壇でますますその存在感が高まっていくジョルダンだが、意外にも日本では2007年の札幌のPMFがこれまで指揮した唯一の機会。この11月からのウィーン交響楽団との来日公演は、まさにウィーン、そして彼が得意とするドイツ・ロマン派の香りが漂うプログラムだけに、期待は膨らむ。
文:中村 真人(ジャーナリスト・ベルリン在住)
⇒ フィリップ・ジョルダン、待望の来日!ウィーン響の新時代到来!!
◆フィリップ・ジョルダンのプロフィールなどアーティストの詳細
⇒ https://www.japanarts.co.jp/artist/philippejordan/
ジョルダンが聴衆を熱くする、ウィーン響の覚醒と新時代!
フィリップ・ジョルダン指揮 ウィーン交響楽団 ヴァイオリン:樫本大進
2017年12月1日(金)19:00サントリーホール
12月3日(日)14:00 サントリーホール
⇒ 詳しい公演情報はこちらから