2013/3/8

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吉松隆 インタビュー「天才の波乱万丈」

 「天才」と呼ばれる人たちがいる。彼らは何ゆえ天才となったのか。高い知能指数? 早熟な芸術的知性? 重要なのは「天才の心」を持って生まれたかどうか、なのだと思う。時代に迎合し、官僚的な作品しか残さなかった芸術家は、後世において「天才」の名簿には登録されない。極貧の中で亡くなったモーツァルトや、生前に絵が売れなかったゴッホの「心」は、容易に真似など出来ないのだ。
 「育った家が「働かざるもの食うべからず」ではなく、いかに美しいものを作るかが最優先という環境でした。だから、僕の人生には一円も稼げなかった時代もあるし、彫刻家の友人が「お金が入った」なんて言うと「お前ダメなやつだな!」となんて説教してました」
 今年60歳を迎える吉松隆さんの人生は、まさに天才の波乱万丈の絵に描いたような軌跡だ。デビュー当時の35年前といえば、無調で難解な「現代音楽」が正統とされていた時代だったが…
 「現代音楽とはもっと自由なものだと思っていたから、そういう風潮とは全く関係のない曲を書いて、コンクールに応募していました。そうしているうちに、表紙を見ただけで落とされるようになってしまって。15回くらい応募したけど「またあいつが出してきた」みたいな感じ(笑)。審査員に全くひっかからない音楽ばかり作っていました」
 世俗的な評価とは無縁のまま、不思議なタイトルの楽曲を制作し続ける日々。しかし、90年代に入って英国のレーベルにその巨大な才能を見出され、交響曲全曲がCD化される。演奏家たちからの支持も高まり、吉松作品は忍耐強く、その存在感を増していくのだ。
 この3月にオペラシティで開催される還暦コンサートには、吉松隆作品と縁の深い指揮者の藤岡幸夫、ピアニストの舘野泉、田部京子、小川典子、サックスの須川展也、ホルンの福川伸陽らが登場。自由で創造性にあふれた吉松ワールドを表現する。
 「50歳を過ぎてから、ピアニストの舘野泉さんや、多くのアーティストとの出会いがあって、そこからまた作曲が楽しくなってきたんですよ。僕の作った作品が100%だとすると、演奏家が120%や150%に膨らませてくれる。プレイヤーには曲の完璧な再現は求めてなくて、どこまで勝手なことをやってくれるかが楽しみなんです。着地点を示すのが僕の役割ですが、演奏家の方には思い切り跳躍してほしいと思ってます」
 コンサートでは、幻のデビュー作「ドーリアン」も復活。奇跡の再演を果たす。
「無調の現代音楽に反抗して「調整をとりもどす」という意味で書いた曲なんだけど、「過激に取り戻す」というのと、「優しく取り戻す」という二元で僕は考えていたんです。古代スパルタのドーリア族ともつながりがあって、彼らはとても攻撃的な民族だったんですね。そのイメージも投影されている。音楽の元ネタは「タルカス」とほとんど一緒です(笑)」
 青春のシンフォニック・ロックとも呼ばれる幻の名曲に、期待は募るばかり。若者たちが現実主義者になり、大きな夢を追いかけなくなった現代、吉松さんの「天才脳」が作る音楽には、窮屈な世界を打破するヒントが詰まっている。
「あ、でも崖から落ちてもいい、と思って飛び降りて、かろうじて枝にひっかかって生き延びているのが僕の人生ですから。真似したら100%助からないですよ(笑)。」

小田島久恵(音楽ライター)

幻のデビュー作から大河ドラマ「平清盛」まで作曲家:吉松隆60年の集大成
吉松 隆 還暦コンサート≪鳥の響展≫
2013年3月20日(水・祝) 15時開演 東京オペラシティ コンサートホール
⇒ 公演の詳細はこちらから

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