2017/12/4

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ニコライ・ホジャイノフのインタビュー[ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団]

来年1月にワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団と共演するニコライ・ホジャイノフのインタビュー是非ご覧ください。

ワルシャワ・フィルとは、2010年ショパン国際ピアノコンクール本選のステージでもピアノ協奏曲第1番を共演されています。作品について感じることに、当時から変化はありますか?
ショパンのピアノ協奏曲は、天才の手による真のマスターピースです。こうした作品は、書かれたその瞬間から音楽それ自身が生きているので、演奏のたびに新しい表現を見つけることができます。発見したハーモニーや抑揚を演奏で試していくことは、大きな喜びです。そもそも、多くのドラマ、葛藤、詩情が込められているので、同じように演奏することなど不可能ですが。
今回は、初めてカスプシックさんの指揮のもと演奏することになるので、楽しみです。

ホジャイノフさんとワルシャワ・フィルによるこの協奏曲というと、コンクールの本選でライトが消えて真っ暗になったハプニングを思い出してしまうのですが・・・。
僕もよく覚えていますよ。あのときの指揮者はマエストロ・ヴィットでしたが、そんなハプニングの中でも僕を支えてくださり、また、ワルシャワ・フィルもプロフェッショナルな姿勢を保ってくれたので、何事もなかったかのように演奏を続けられました。オーケストラとのコミュニケーションもうまくいき、とても心地よかったです。
舞台の電気系統のトラブルだったということですが、僕はあの瞬間、ショパンがホールに現れたエネルギーで何かが起きたのではないかと感じていましたね。
ショパンの作品を知り尽くしたオーケストラだったことは、幸いでしたね。その後、いろいろなオーケストラとこの協奏曲を演奏していると思いますが、ワルシャワ・フィルの特徴はどんなところに感じますか?
ポーランドの演奏家にとって、ショパンの音楽は小さな頃から親しんできた、いわばそれを母乳に育ってきたようなものといえるでしょう。彼らの演奏からは、ショパンの音楽を単に理解しているという以上に、ごく自然にほとんど民族音楽としてなじんでいるのだということを感じます。

ピアノ協奏曲第1番の3つの楽章には、どんな物語の展開を感じますか?
まず、ドラマティックな第1楽章では、葛藤を抱くロマンティックな主人公が描かれます。オーケストラは彼の外の世界として、ピアノと対する役割を果たしていると思います。
美しい第2楽章では、嵐のあと必ず訪れる、静けさ、澄んだ空や輝く太陽を思わせる音楽の中、詩的な主人公がまた別の一面を見せます。作曲家自身の夢見る表情が現れるようです。
そして、ポーランドの村人が歌と踊りで楽しい時を過ごす様が目に浮かぶような、第3楽章。マズルカやポロネーズといったポーランドのリズムが次々現れます。
3つの楽章は、性格が異なりながら統一感を保っています。その変遷の構造は、とても興味深いものです。

第2楽章はとても甘くロマンティックです。あの楽章を弾くときは、ピアニストもロマンティックな気分に浸っているのでしょうか?
音がホールに満たされていくことを感じてすばらしい気持ちになりますが、ロマンティックな気分に浸るというのとは、違いますね。優れた作品にはさまざまな美しい要素がちりばめられていますが、それらを楽しみながら弾いているというわけではないのです。イメージに飲まれてしまえば、音楽全体の構造が崩れ、伝えるべきものが壊れてしまうこともあります。
大切なのは、何かを人工的に作ろうとせず、感じたままに演奏すること。聴き手は、ピアニストの感情を直接感じるものですから、もしそこに嘘や作りものがあれば気が付きます。偽物の感情は、受け入れてもらえません。

ホジャイノフさんのショパンには、独特の歌が感じられます。どんな表現を心がけているのでしょうか。
ショパンの音楽にとって、歌は中心となる要素で、彼の本質にあるものです。複雑なパッセージでも、メロディラインはいつも歌っています。
演奏するうえで大切なのは、自然であること。よりエスプレッシーヴォな新しい表現を目指すあまり、毎秒ごとに“心を胸から取り出す”ようなイントネーションをつけてしまえば、作品全体の構造が壊れてしまいます。
ショパンの音楽は、よくベッリーニのオペラで聴かれる、永遠に続くかのような長いメロディラインと比べて語られます。ルバートしながら自由に感情を伝えるなかでも、全体の流が常に見えていなくてはいけません。いつも自然に歌い、呼吸していることが、ショパンの音楽にとって最も大切なことだと僕は思います。

もう一つ印象的なのは、美しいピアニシモです。大きなホールであれほど小さな音を鳴らすのは勇気がいるのではと思うほどですが。
やわらかく小さな音をいかに聴き手に届けられるかは、演奏家にとって重要なことです。楽器を意のままに操って激しい演奏をすることも時には必要ですが、やわらかい音で特別な空気をつくることには、大きな意味があると思います。
ピアニシモが消えてしまうことなく届くようにするには、アイデアを音に込めることが大切です。その楽器で可能な限界を超える静かな音を鳴らすことができたとき、音楽はすばらしいものになると思います。

ショパンの録音で一番好きなピアニストは誰ですか?
僕が一番好きなショパン弾きは、ラフマニノフです。まずラフマニノフの音は、まるで人の声のように歌っていて、フレージングもとても自然です。魅せようとしたり、装ったりすることがないので、演奏を聴いていると、ただひたすらにラフマニノフの歌やアイデアの流れを追っている気持ちになります。

2010年のショパンコンクールを聴いたアルド・チッコリーニさんが、ホジャイノフさんの演奏について、ただ一人の正しいショパンだったと評していました。でも、その後チッコリーニさんにお会いする機会はなかったそうですね。
そうなんです、とても残念ながら、お会いする機会を得る前にチッコリーニさんは亡くなられてしまいました。彼の芸術はすばらしく、敬服しています。最近再び、サティやドビュッシーなど、彼が演奏するフランス音楽をいろいろ聴いていますが、音楽のさまざまなレイヤーの表現、独特の雰囲気が本当にすばらしく、魅了されます。

最近、プレトニョフさんとお話しする機会があり、刺激をうけたと聞きました。どんな方でしたか?
プレトニョフさんがモスクワで行っている音楽祭の最中に、お会いする機会を得ました。彼のまえでラフマニノフのピアノ・ソナタ第1番を演奏し、聴いていただきました。プレトニョフさんもこの作品がお好きだそうで、最近日本のリサイタルでも演奏されましたね。彼は作品について多くのアイデアを教えてくださり、また、音楽だけでなくいろいろな芸術についてお話しすることができました。とても知的な方で、あらゆることにすばらしい見解をお持ちなのでとても楽しくて、あっという間に1時間以上時間が過ぎていました。とても光栄でした!

高坂はる香(音楽ライター)
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ショパンの国ポーランドの名門オーケストラが贈る名曲の夕べ
ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団 ニューイヤー・コンサート
2018年1月15日(月) 19:00開演 サントリーホール
公演詳細はこちらから

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