2017/12/31
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アレクサンダー・ガヴリリュクに聞く Vol. 2
アレクサンダー・ガヴリリュクに聞く Vol. 2
大晦日の今日。来日直前のガブリリュクに行ったインタビュー第2弾を届けします。
質問:もうあと数日で、日本に来ていただくわけですが、今回のプログラムについてぜひお話しください。まずバッハのイタリア協奏曲 BWV971 で第一部が始まりますが。
AG : バッハが書いた曲の中でも傑作のひとつです。バッハの偉大さに関しては今更みなさんに解説が必要とも思いませんが・・・まさに普遍の音楽ですね。打ち立てたその論理と数学的な構築性においてです。そしてそこには情緒の豊かさもある。もしバッハが存在していなかったら、彼以後の音楽がどうなっていたか、想像もつきませんね。今回の「イタリア協奏曲」は、おそらくバッハの曲の中でもっとも表現に富んだものでしょう。カラフルで、ジョイフルで・・・そして演奏者にとっては感情移入しやすい曲です。生きることを、悦びをもって味わっているかのような音楽です。
質問:2曲目はモーツァルトですが・・・
AG : ピアノ・ソナタ第10番 ハ長調、これも、とても有名な曲で、私の人生のなかでいつもマイルストーン(道しるべ)となってきた曲です。子供の頃にホロヴィッツやルービンシュタインの素晴らしい録音によってこの曲に触れ、自身も節目節目に弾いてきました。この曲は子供の頃に聴いた時と、今とでは、違った発見をもたらします。曲の感じはとても繊細で・・・脆さ、と言ってもいいような・・・でもその脆さの芯には非常に強い何かがある。精神性というか。おそらく、「善」「よきこと」への真摯な態度です。私たちの世界にある「美」への信念というか。かろやかで明るい、翳りや悲しみはありません・・・いえ、悲しみの要素はありますが、それがとてもクリアに純粋に描かれます。その意味において、絶品と言ってよいでしょう。
質問:ショパンはバラード第2番を弾いてくださいます。
AG : この曲は2本の音の連なりが親密な会話を交わしながら進行していきいます。中盤以降のドラマティックな盛り上がりでは・・・なにか、美や愛といったものが、つらい運命に負けず、真実であるようにと、そう願う対話のように聞こえます。
質問:リサイタルの第二部はロシアの楽曲です。
AG : スクリャービンのピアノ・ソナタ第5番。ちょうどこの曲が書かれた時代の、それ以前と以後のピアノ音楽の表現の違いを見せてくれる曲だと思っています。演奏技術の限界に挑戦している意味も含めて。スクリャービンの描く世界はしかし、ちょっとこの世のものとはかけ離れているというか、クレイジーというか(笑)、見えてくる色彩も、極端な感じを与えます。地球ではなくどこか他の天体を見ているような・・・我々が「たぶんこうなるだろう。」と、ものの道理をわかっている世界から、その外に出ていくようなイメージの曲です。でもスクリャービンにしてみると、そちらの世界のほうが彼自身に近かったんだろうなあ、と思うわけです。彼は地球上の我々が知らない色彩を知っていたのだろうし、地球生物の知らない感情もきっと知っていたのでしょう。彼のような作曲家には、私たちの感覚や感情はもう判りきったもので、それを超える地平を見ていたに違いないのです。多くの意味で非常に興味深い1曲です。
質問:締めくくりはラフマニノフです。
AG : はい。リサイタル最後の曲はやはりラフマニノフにしたかったのです。ラフマニノフの見ている風景、そして魂は、自由そのもの。解き放たれており、けして縛られることがない。聴く人の心にダイレクトに迫ってきます。今回、前奏曲集から数曲と、ソナタを弾きますが、そのいずれをとっても、そこに、人生の喜びを讃える彼の心がうかがえます。光と影の間でつねに闘っているような曲調だと思うのです。非常にロシア的な、メランコリックな暗さと切っても切れない作曲家ですが・・・
質問:前奏曲集 Op.23の第5番のような、行進曲のような元気のよい曲であってさえ、そこに暗さがありますね。
AG : あのイメージは、彼独自のストイシズムの表れだと私は思っています。非常に挑戦的でもあり・・・強い意志を読み取ります。やはり彼も「よきもの」を追求したのではないでしょうか。当然そこにあるべきものが、そうあって欲しい、という願いだったと思います。今回のプログラムでは最後のピアノ・ソナタ第2番につづいてゆく流れで、そのようなラフマニノフの一貫した姿勢を感じ取っていただきたいのです。
質問:このインタビューではあえてアンコールでなにを弾くご予定かは聞きません(笑)。
AG : 了解しました、当日まで秘密にしておきましょう(笑)。
つづく・・・。
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煌びやかな超絶技巧!深い詩情
アレクサンダー・ガヴリリュク ピアノ・リサイタル
2018年1月8日(月・祝) 14:00開演 紀尾井ホール
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