2018/8/8
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一期一会’のいい舞台~ブルガリア国立歌劇場のトゥーランドット 後半
著述家・プロデューサーの湯山玲子氏による、トゥーランドット公演レポート後半ぜひご覧ください!
圧巻だったのはタイトルロールの歌手たちである。1日前の『カルメン』のカルメン役は、超当たり役のナディア・クラスティヴァ急病により、日本公演にもキャスティングされていない代役での公演だったため、いまひとつ精彩を欠いたが、今回は本当に素晴らしい。トゥーランドット姫役は、METのヴェルディ作曲の『マクベス』で、ネトレプコの代役を務めた実力派のガブリエラ・ゲオルギエヴァ(Gabriela Georgieva)。
さて、ブルガリア正教会と国民との関係の深さ、そのミサの一翼を成す合唱の存在については、前述の『カルメン』で述べたが、その真骨頂は実は『トゥーランドット』にこそあった。第一幕の群衆による「どうして月の出は遅いのだろう」という合唱の一小節を聞くや否や、その音像にびっくり。犠牲者を見送る群衆の恐怖と畏敬に対して、プッチーニは官能的とも言える和声とメロディーを用意したが、ブルガリア歌劇場のそれは「人々の肉声」というよりも、漆黒の暗闇そのものの「空気の音」のような異様な透明感があるのだ。例えるならば、マイリンスキー劇場の『白鳥の湖』の一糸乱れず幽玄めいたコールドバレエ(群舞)のごとし。この部分は今回の聴きどころでもあるので、お見逃しなく。
オペラは特に「いい舞台との出会い」が、その後のオペラ観を決定することになるが、ブルガリア国立歌劇場の日本公演と同演目の今回のセットはまさにそういう一期一会になりそう。スター歌手がいるわけではない。しかし、本当の音楽好き、芸術を愛する観客にとっては、オペラという表現の理想的な出会いとなるに違いない。
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<湯山玲子>
日本大学芸術学部文芸学科非常勤講師。自らが寿司を握るユニット「美人寿司」、クラシックを爆音で聴く「爆音クラシック(通称・爆クラ)」を主宰するなど多彩に活動。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッションなど、カルチャー界全般を牽引する。著書に『クラブカルチャー』(毎日新聞社)、『四十路越え!』(角川文庫)、『女装する女』(新潮新書)、『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『ベルばら手帖』(マガジンハウス)、『快楽上等!』(上野千鶴子さんとの共著。幻冬舎)、『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』(KADOKAWA)などがある。
湯山玲子公式サイト:http://yuyamareiko.blogspot.com/
<ブルガリア国立歌劇場>
10月5日(金) 18:30 「カルメン」
10月6日(土) 15:00 「カルメン」
10月8日(月・祝) 15:00 「トゥーランドット」
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