2018/9/12
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目で聴くシューマン・ツィクルス Vol.2【ドレスデン国立歌劇場管弦楽団】
10月31日・11月1日に東京で、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団とシューマンの交響曲全曲演奏会を行います。同団は、当時首席指揮者であったジュゼッペ・シノーポリと1998年に来日し、サントリーホールで第3番「ライン」を演奏したことで日本の多くのファンを惹きつけました。シノーポリ追悼コンサート以来、同団と初めて取り組むティーレマンの、シューマンの交響曲全曲演奏は、特別な、想像のつかない演奏会になるのではと期待されます。
「目で聴くシューマン・ツィクルス」の第2回目は、ドイツ文学の田辺秀樹さんが、シューマン:交響曲第3番・第4番、作曲家自身についてご執筆下さいました。
今から40年くらい前、私が2年間の留学生活を送ったのは旧西ドイツの首都ボンだった。ベートーヴェンの生家とシューマンの墓があるライン河畔の町だ。住み始めてすぐにベートーヴェンの生家は訪ねたが、シューマンの墓を見に行ったのは、留学生活も終わりに近づいた頃だった。その少し前、地元ボンのオーケストラがシューマンの交響曲第3番《ライン》を演奏するのを聴いて、思いがけない圧倒的な多幸感を味わい、しんそこ魅了されたのがきっかけだった。ボン、ケルン、デュッセルドルフといったライン河流域の土地(ラインラント)にしばらく暮らしたことで、その音楽的な地霊(ゲニウス・ロキ)とでもいったものに、私の耳が多少なりとも開かれたのかもしれない。それまではシューマンの本領はピアノと歌曲にこそあると信じて疑わず、交響曲には不向きな作曲家だと思い込んでいたが、それは違うと思った。いや、苦手ではあったにせよ、にもかかわらず交響曲というドイツ音楽の偉大な構築的ジャンルのために苦闘したところにこそ、文学的な、あまりに文学的な作曲家シューマンならではの面目があると思ったのだ。シューマン夫妻がもっとも幸福だったであろう1850年に書かれた《ライン》には、この地方特有の明朗で快活な気風がそこかしこに感じられて、心地よい高揚感がすばらしい。とはいえ、シューマンは4年後にはそのライン河で入水自殺を図り、以後はボン近郊のエンデニヒの精神病院で晩年の日々を過ごしたすえに、1856年46歳で世を去ることになるのだ。
第4番の交響曲ニ短調は、すでに1841年にライプツィヒで作曲されていたものに10年後の1851年、部分的な改訂を行った、成立年代順からいえば2番目の交響曲だ。シューベルトの交響曲第4番ハ短調《悲劇的》の影響が色濃く、若々しい情熱と覇気にあふれている。独特の切迫感と甘美なメランコリー、夢想への没入とやみくもな憧れが交錯しながらひたむきに高揚を希求するところなど、シューマンのロマンティシズムそのものだ。ラインラントにくらべてより厳粛で重々しいザクセン地方の雰囲気をかんじさせるところがある。
ドレスデン・シュターツカペレというザクセン随一の名門オーケストラを率いるティーレマンの使命は、なによりもまず、ドイツ・ロマン派音楽の奥深い魅力を余すところなく開示することだろう。その彼がシューマンの交響曲全曲をどんなふうに聴かせてくれるか、非常に楽しみだ。
田辺秀樹(ドイツ文学)
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ティーレマン×シューマン~陶酔のロマンティシズム
クリスティアン・ティーレマン指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
2018年10月31日(水) 19:00開演 サントリーホール
2018年11月1日(木) 19:00開演 サントリーホール
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