2013/4/18

ニュース

  • Facebookでシェア
  • Twitterでツイート
  • noteで書く

【浜離宮セレクション】アレクサンダー・ロマノフスキーの電話インタビュー

間もなく来日するアレクサンダー・ロマノフスキーの電話インタビューをお届けします。

アレクサンダー・ロマノフスキー

今回のプログラムは前回とかなり内容が違います。前回のあなたの端正なラフマニノフに感銘を受けた日本の聴衆が、今回のリサイタルを楽しみにしています。今回の3作品、どのような面を聴いてほしいとお考えですか?
今回は、非常に多様で、有名な作品を集めたプログラムになっています。ベートーベンの「月光」などは、特に有名ですね。
まずショパンの前奏曲集Op.28は、彼が28歳の時に書いた作品です。ちょうど今の私と同い年ですね。この前奏曲集には、ショパンの内面の世界、彼の感情の両端が盛り込まれています。ショパンの深い魂の集大成、とでも言いましょうか。死への想い、そして生の喜び。立ち込めた黒い雨雲が晴れていくように。明るい未来を信じる強い気持ち。そんな感情、気持ちの抑揚が、この作品(前奏曲集)には満ち溢れています。
ちょうどこの時期、ショパンは人生の難しい時期にありました。肺病を患ったショパンは、ジュルジュ・サンドとともに、療養のためマジョルカ島へ渡ります。でもそこでも彼の人生は平穏ではなかったのです。引越しを繰り返し、あらゆる意味で非常に強い女性だったサンドとの関係も複雑でした。ショパンはきっと、人生の最後まで彼女を愛し続けたと思います。でもサンドの方の愛情は、のちにどちらかというと母性に近い形になっていった・・・そんな状況の中で書き上げられた前奏曲集なのです。
ベートーベンも、「月光ソナタ」を人生の苦悩の時期に書き上げています。その点では、ショパンの前奏曲集のように、彼の人生の叫びや、生と死、など様々な気持ちが込められた大きな作品です。ベートーベンのソナタは、10年ほど前には頻繁に弾いていたのですが、しばらく離れていました。今回、自分の中で新しいベートーベンを「語れる」と思いました。そして、「月光ソナタ」がバッハの幻想曲とフーガのあとに良いのでは、と思いました。

今回のプログラムは、バッハで始まります。そしてベートーベンとつながり、後半はショパン。この三人の作曲家には、ある意味で結びつきがあると私はおもいます。ベートーベンも、ショパンも、人生の後半になってから、バッハのポリフォニー音楽に向かい始めます。バッハに強く引かれていた証拠だと私は考えます。バッハこそ、ベートーベンやショパンにとって、もちろん他の多くの作曲家にとってもそうなのでしょうが、崇高で意味深い、同時に近しい存在だったのです。
ところで、実は私は今回のように、プログラムを作るとき、バッハで始めるのが好きです。聴衆の皆さんに、まずバッハで「プログラムの土台」を提示し、底辺を引いて、その上に他の作曲家の作品を築いていきます。そこには、「バッハの土台」上に築く作品次第で、さまざまな世界が生まれると私は信じています。
プログラム選びは、もちろん熟考しますが、“直感に従って”決める部分も多いです。バッハ→ベートーベン→ショパン、というプロは、言ってみれば、今の私の直感に従って構築しました。アーティスト、音楽家にとって、高いプロフェショナリズムはもちろん不可欠ですが、ほかに直感、第六感などの要素も大切です。
今回のプログラムは、それぞれ作曲家のピーク時に書かれた、内容の濃い大作で自分にとっても大変難しいものです。何を感じ、それを演奏会でいかに伝えるか - 難題ですが、果敢にのぞもうと思っています。

2001年にブゾーニコンクールで優勝されて12年。あなたの中で最も大きく変化したものは?
心の奥底では、昔と何も変わらず、子供の時のままでいようという自分がいます。この厳しい時代にも、人を信じて、あらゆる困難にも立ち向かえるという人としての“初心”は、失っていないと思います。どんなに辛い、悲しい、苦しいことがあっても、落ち込まず、己の力を信じようという姿勢は変わっていません。
他方で、この10年は私にとって、本当にいろいろなことが起きました。1年が10年に感じられます。コンクールの時から考えると、すでに3回も生まれ変わって人生を歩んだ気がするほどです。
多くの素晴らしい出会いに恵まれました。素晴らしい指揮者との共演もそうです。たとえば、ウラジーミル・スピヴァコフ。彼とは11,12歳の頃に最初に共演して、一度中断はあったものの、この3、4年にまた共演の機会が増えました。他にも、プレトニョフ、ゲルギエフ、オーケストラではニューヨークフィル、シカゴ・シンフォニーなどです。
それから大変貴重な出会いもありました。今もロンドンに健在の109歳の女性ピアニストです。今年110歳になるのですが、今も毎日ピアノを弾いておられます。リストの弟子の一人にピアノを学ばれ、第二次世界大戦の前までは演奏会も開いていたそうです。カフカとも知り合いだったそうですし、オペラハウスでグスタフ・マーラーを見た、という話も聞きました。ユダヤ人の彼女は戦争中に4年間、強制収容所に入れられました。その辛い経験を生きるポジティブな力に変え、毎日を大きな喜びと幸せの中で暮らしています。ロンドンに行くと必ず彼女の元を訪れ、ピアノを弾いたり、聞いたり、話をしたり、とても貴重な一時を過ごすことができます。
コンクールというのは、あくまでも一つのステップです。人生が点と点を結んで成り立っているのなら、その多くの点のひとつに過ぎません。でもコンクールで優勝したおかげで、数々の素晴らしい出会い、経験を積むことができました。それは本当に幸運だったと思っています。私の人生において、その意味でブゾーニコンクールは大きな役割を果たしました。

今回は浜離宮朝日ホールという収容人数500名のホールです。前回の紀尾井ホールは800人でした。今回は「聴衆との距離がさらに近くなります」。小さいホールと大きいホールでの演奏、気をつけて演奏することは?
私は小さいホールでのリサイタルが好きです!知人宅で、親しい仲間たち数人を集めて演奏したりするのも好きです!今回のプログラムは、作曲家の心の内面を「告白」するようなプログラムですから、小さいホールにもってこいです! 500人ですか?収容人数を今うかがいましたが、とても嬉しくなりました。そのようなホールにぴったりのプログラムですね! そこで「月光ソナタ」を弾くのが、一段と楽しみになりました。素晴らしい世界が生まれるとわくわくします!
小さなホールでの演奏は、アーティストにとってだけではなく、聴衆のみなさんにとっても、アーティストを近くに感じ、ステージとのつながりを感じることができる素晴らしい機会なのではないでしょうか?
もちろん大きいホールでの演奏も嫌いではありませんよ。たとえてみると、大きなレストランで食事をするか、家で家庭料理を楽しむか、の違いのようなもの。どっちもそれぞれ魅力があるでしょう? 長く家を離れていた後には、お母さんの手料理が食べたくなるものですし。音楽にはさまざまな面があります。いろいろな可能性があります。ですから「器」もいろいろあるわけですよね。

日本の聴取にメッセージを!

アレクサンダー・ロマノフスキー
日本には2001年、16歳の時に2回行きました。そしてしばらく中断して、去年、今年。昨年の滞在中は、いろいろな場所を訪れ、日本食も楽しみました。
日本の聴衆は、真髄を見抜くことができる、と私は感じます。とても感受性がたかいからでしょうか。大切なものとそうでないもの、真実と嘘を見分ける力があると思います。私は日本の聴衆を信じています。皆さんは本当に注意深く私の演奏に耳を傾け、感じとってくれます。じっくりと注意深く聞いてくれることは、自分に対する高い評価なのです。
5月の来日も、とても楽しみにしています。素晴らしい出会いが、きっとあることでしょう。

最近のご活躍、ご活動について。
演奏会はヨーロッパが多いです。中でもやはり拠点を置くイタリア。他にもイギリス、ドイツ、最近はフィンランドで演奏会を開きました。ロシアも訪れます。日本から帰ったら、ロシア・オムスク市の音楽祭に出演することになっています。ロシアでは、この近年、スピヴァコフやゲルギエフ他多くのすばらしい音楽家の尽力で、文化が復活し始めています。とても喜ばしいことです。
他に私はこれまで培った多くの経験と知識を、若い音楽家に伝える活動を始めました。実は私自身が以前優勝したウクライナ、ハリコフ市で開催される国際コンクールの芸術監督になりました。数年前になくなった著名なピアニストで教師のウラジーミル・クライネフ(ちなみに河村尚子さんの先生です)師が主宰していたのですが、先生がなくなってから、夫人(クライネフの奥さんは、フィギュアスケートの振り付けし、先生として有名なタラソワさん、最近は浅田真央さんのプログラムの振り付けを担当・・・訳注)から頼まれ、次回、2014年3月の回から、私が芸術監督を引き受けることになりました。このコンクールは18歳までの子供を対象にしています。このコンクールを、私はいずれ世界の大きなコンクールに引き上げたいと思っています。優勝者はロンドンやローマ、フランスで演奏する機会を得、小さい子供のカテゴリーでの入賞者には、その後の勉強の道を開き、18歳までの年長部門の入賞者にはプロとしての道を開いていけるようにしたい、と考えています。
日本の皆さんにも、ぜひ作曲的に参加していただきたいです!

ありがとうございました。

(2013年3月26日)

————————————-
2013年初夏―。世界の精鋭ピアニスト3名による、必聴のリサイタル。
[浜離宮ピアノ・セレクション]
ロマノフスキー、チョ・ソンジン、ホジャイノフ

◆研ぎ澄まされた響きで、音楽の深淵なる世界を描く。
アレクサンダー・ロマノフスキー
2013年5月14日(火)19時開演 浜離宮朝日ホール
◆天性の音楽性―傑作「ラ・ヴァルス」をひっさげて登場。
チョ・ソンジン
2013年6月24日(月)19時開演 浜離宮朝日ホール
◆聴く者をを一気に引き込み魅了する“魔力”を持つ音。
ニコライ・ホジャイノフ
2013年7月19日(金)19時開演 浜離宮朝日ホール

公演の詳細はこちらから

ページ上部へ