2018/12/8

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「白鳥の湖」12/7ローマン・ベリャコフ、ガヴリエル・ハイネのインタビュー[マリインスキー・バレエ]

初日に続いて12/7の『白鳥の湖』で悪魔ロットバルトを熱演したのは、『ドン・キホーテ』で華麗なエスパーダを踊って客席を魅了したローマン・ベリャコフ。長身のベリャコフが歌舞伎のようなメイクと黒い羽根つきの衣装でジャンプすると、舞台全体が一気にドラマティックな翳りを帯びます。ステージから戻ってきた悪魔メイクのままのベリャコフに、悪魔を演じる醍醐味を聞きました。
エスパーダに続き、ロットバルトも個性的な演技でした。どのように役作りをされたのですか?
「ロットバルトは最もパワフルな悪魔の化身です。そのパワーを最大限に表現できればと思いました」

では、今とてもパワーが高まっている状態ですね。
「頑張りました!(悪魔メイクのまま笑顔)」

テクニカルな面はもちろん、舞踏会のシーンで王妃と語り合う細かい演技なども、魅力がありました。
「ヴァリエーションを踊る代わりに、客席から見て面白いものを提供しようと思って、私らしい解釈をしてみました。踊りがメインの場面でも、背後の色々な動きで舞台を埋めていくと、ひとつの演目に統一感が出るのです」

妖しげな存在感を感じました! エスパーダもロットバルトも大変高度な身体能力を求められますが、身体はどのようにキープするのですか?
「たくさん食べます(笑)。水もいっぱい飲んで、身体を浄化します。本番の2時間前までは何も食べないですね。ジャンプを成功させるために大切なことです…それでも、毎回舞台でうまくいくとは限りません」

ところで、昨晩も今夜もオーケストラのテンポがスピーディだったように感じられたのですが、ダンサーにとっては大変ではないのですか?
「私はこのテンポが大好きですよ。ダイナミックに踊ることができますし」

明日以降、またロットバルトを演じられますか?
「実は今日(12/7)が最後なんです」

なんと残念! また日本に来/てください。
「はい。日本が大好きです! 皆さん本当にありがとう!」
(その後、メイクを落としたベリャコフさんとすれ違いましたが、とても爽やかな好青年でした)

『白鳥の湖』でピットに入ったカヴリエル・ハイネは、マリインスキー劇場でオペラとバレエを数百回も振ってきた実力派の指揮者。アメリカ出身で、初めてモスクワ音楽院に入ったアメリカ人という経歴を持ちます。踊りに「合わせる」というよりも、指揮者自らがダンサーを突き動かしているような、非常に個性的なチャイコフスキーを奏で、オケピの中から大きな渦巻が生まれている印象を与えました。踊りの「伴奏」ではない、まったく新次元のバレエ音楽を感じさせます。そのポリシーをたずねるべくマエストロの楽屋をたずねました。

ハイネさんの『白鳥の湖』には音楽に対する揺ぎ無い考えがあると感じました。バレエのオーケストラは舞台のためのシャドウワークになってしまうこともありますが、今夜のオケは指揮者がチャイコフスキーをどう考えているかが強く伝わってきました。
「(質問者のいくつかの感想を興味深い表情で聞いたあとに)まず私はバレエ指揮者として、全身全霊をかけて準備をします。リハーサルには欠かさず足を運び、コールド・バレエの伝統を知り、振付やテキストに関するものすべてを読みます。ソリストのリハーサルも見学し、それぞれの解釈の違いを認識します。テリョーシキナのテンポ、コンダウーロワのテンポ、シクリャローフの、アスケロフの…それを知った上で合わせていくべく「再生」するのです」

さきほど、ロットバルト役のベリャコフがあなたのテンポをとても気に入っていると語っていましたが…客席から見ていると、ダンサーがパニックになるのではないかと思うほど速いシーンもありました。
「もちろん、私はつねに彼らの動きを見ています。指揮者の…あるいはオーケストラの役目は、彼らを「動かす」ことです。彼らが何をしたいかあらかじめ理解して、音楽で彼らの動きを導き出すのです」

バレエ指揮者は、踊り手に合わせて彼らにとって快いテンポを創り出すけれど、それはもっと深い次元からくる「同意」なのですね。
「音楽は動きを創り出す『源』です。それぞれのアーティストの、それぞれのヴァージョンにしたがって動き出すタイミングを創り出していきます。彼らの心の準備が出来るまで待つこともあります」

余白やテンポについて、芸術家にはさらに深い次元での解釈があるのですね。舞踏会のシーンで、スペインやチャールダーシュなどエキゾティックな踊りが次々と展開される場面は、私個人の経験では一度も聞いたことがないくらい速いテンポでした。
「ペテルブルクでもこのテンポでやっていますが、今のところダンサーからは一人も苦情は出ていませんよ(笑)」

ダンサーの身体の中にあるテンポはあの速さなのですね…オーケストラの音色はとてもカラフルで、チャイコフスキーとワーグナーも関係性も感じられました。ローエングリンの遠い木霊が聴こえてくるような…。
「ハーモニーはとても豊かですよね。ロマン派だけでなく古典派の要素もたくさんあります。チャイコフスキーは雄弁に語る音楽で、フレーズはどれも饒舌で、オーケストラはすべての言語を明確に語らなくてはなりません。確信をもって、納得できる形で…。チャイコフスキーの「言語」の下にあるハーモニーは、とてもクリアで明るいのです。音楽そのもののクリアさを表すことが大切なのです」

私たちが常識と感じているテンポと、ダンサーや音楽家が内側で感じているテンポは違うのですね。芸術家の探究の先に、新しい次元が広がっているのだとお話を聞いて思いました。
「他と変わったことをしようとか、何か奇をてらったものを付け加えようとは思いません。音楽の本質を見つけ出すことが最も重要です」

バレエ指揮者は、最終的な段階での「演出家」だと思います。ハイネさんの音楽が物語を作っていました。

「私の音楽を気に入っていただけたのでしたら、大変嬉しいです」

芸術はリスクを引き受けてこそクリエイティヴになるのですね。
「(笑)」

ここで、ロシア語通訳さんが訳す前に、米国人である彼は「クリエイティヴは英語ですね!」とスマイル。さまざまな刺激を受け入れて劇場を創り上げていることを実感するショート・インタビューでした。

小田島久恵(音楽ライター)

美しく、輝かしい感動がよみがえる・・・
マリインスキー・バレエ

12.8 [土] 18:00 「白鳥の湖」エカテリーナ・オスモールキナ/ザンダー・パリッシュ
12.9 [日] 14:00 「白鳥の湖」ヴィクトリア・テリョーシキナ/ウラジーミル・シクリャローフ
公演詳細はこちらから

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