2019/1/9
ニュース
ウラディーミル・ユロフスキーのインタビュー前編[ベルリン放送交響楽団]
いま、世界のクラシック界から注目される、気鋭の指揮者ウラディーミル・ユロフスキー。3月にベルリン放送交響楽団との初日本ツアーで来日いたします。今シーズンのテーマ「マーラー」、日本公演で演奏する作品、楽団の現在について語ったインタビューをお届けします。
私がまだ幼い頃に、父がこのオーケストラを指揮しているのを聴いたときが最初です。
その後も父、ミハイルのリハーサルやコンサートで何度も演奏を聴きました。80年代の終わりから90年代の初め頃のことです。その後私がデビューしたての頃に、何度か指揮をさせていただきました。
1995年に急遽代行で指揮をしたときに、現代作品の多い難しいプログラムを振ったことがきっかけで、以来何度も声をかけていただくことになりました。その頃からベルリン放送交響楽団は優れたオーケストラではありましたが、東ドイツの社会主義的なメンタリティーを引きずっていたように思います。とはいうものの、とても豊かな音楽性があり、真摯に取り組んでいるという好印象を持ちました。その次にベルリン放送交響楽団と会ったのは、ヤノフスキさんが首席指揮者を数年間にわたり務められた後で、技術的にもかなり向上していました。幸いに、音楽に対する情熱と柔軟な姿勢は以前のままでした。楽員の顔ぶれも変わり、今や東ドイツのオーケストラではなく、世界各国の音楽家から成る、国際色豊かなドイツのオーケストラに生まれ変わっています。
いかにもドイツらしい豊かな弦、そして管楽器の響きを誇っています。一番相性がいいのがブラームスやワーグナー、ブルックナー等ですが、ドイツやロシアのロマン派音楽全般に適していると思います。
今シーズンのテーマは「マーラー」ですね。マーラーへの想いをお聞かせくださいますか?
私を最初に虜にした作曲家の一人が、マーラーです。15歳、16歳頃の頃に夢中になりました。マーラーの交響曲を指揮したいがために、指揮者になったと言っても良いでしょう。来日公演では、マーラーの楽曲だけでなく、マーラー編曲によるベートーヴェンをも取り上げます。お客様には、作曲家としてだけでなく、指揮者としてのマーラーに着目していただけると思います。私にとってマーラーは、20世紀の音楽を理解する上で重要な鍵です。後期ロマン派に分類されるものの、マーラーは現代音楽への道を切り開いた作曲家です。ですので、21世紀の人間である私にとって、マーラーは19世紀から20世紀への変貌を理解するのに不可欠な存在です。
ツアーでマーラーの交響曲第1番と、ベートーヴェンの交響曲第7番(マーラー編曲)を取り上げられます。なぜ、その作品を選ばれたのでしょうか?
交響曲第1番は、マーラーの作品の中で最も人気がある楽曲の一つで、頻繁に演奏されています。マーラーとしては珍しく、歌手や合唱、テキストがなく、純然たる器楽のみの交響曲です。あまり知られていないことですが、初稿は今と全く違う形で、5楽章からなる交響曲でした。来日公演ではそれを取り上げます。完全な再現ではありません。初稿はもっと小編成の、ブルックナーの演奏に適したオーケストラのための楽曲でした。
その後、マーラーは楽器を増やしましたが、その際に元々の2楽章、「ブルーミネ」(花の章)を削除しています。ですので、今回お届けするのはハイブリッド版です。「ブルーミネ」を復活させ、5楽章にし、それを今と同じ編成のオーケストラで演奏します。「ブルーミネ」以外の楽章は変わりありません。もちろん、オリジナル版をそのまま演奏することも可能なのですが、完璧なオーケストレーションとはいえず、色彩感に乏しいので、ハイブリッド版でいくことにしました。
マーラー編曲版という新たな視点を通して、その新しい魅力を紹介したいと思っています。
マーラーだけでなく、多くの人がベートーヴェンのオーケストレーションに手を加えています。R.ワーグナーやマーラーと同年代に活躍した、指揮者フェリックス・フォン・ワインガルトナーも編曲しています。中でも、偉大な指揮者であり、作曲家であったマーラーの編曲はかなり過激だと思います。それはベートーヴェンと対等なスタンスを取っています。
マーラーは、ベートーヴェンの通常の編成よりも楽器を増やし、大編成のオーケストラ向けに編曲し直しました。それを聞くと、70年代、80年代のカラヤンとベルリン・フィルの頃の演奏を彷彿とさせるかもしれません。でも、カラヤンが指揮者としての視点から楽器を増やしたのに対し、マーラーは作曲家として臨んでいます。音は一切変えておらず、ベートーヴェンが作曲したままですが、オーケストレーションを徹底的に見つめ直しています。そこが他の編曲版との大きな違いだと思います。マーラーの編曲により、音楽のスケールが格段に豊かになっています。私たちは今、ピリオド楽器による速いテンポの演奏に慣れていますが、マーラー版はテンポがより遅く、重厚な印象を与えます。大編成のオーケストラであるからだけではなく、マーラーが指定したボウイングによるところが大きいと思います。音楽の本質は、ベートーヴェンであることに変わりありませんがより豊かな響きを持つ、ロマン派よりの音楽になっています。ベートーヴェンの交響曲であることに変わりないのですが、マーラーによって色彩感がぐっと増しています。
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世界が追い求めるユロフスキー、新時代の幕開け!
ウラディーミル・ユロフスキー指揮 ベルリン放送交響楽団
2019年3月26日(火) 19:00 サントリーホール
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