2019/3/7
ニュース
バレエ、アートファン必読!ボリス・エイフマン スペシャル・インタビュー Vol.1
7月に21年ぶりに日本に上陸するエイフマン・バレエ。
精鋭集団を率いる芸術監督・振付家ボリス・エイフマンのインタビューを、3回の連載でご紹介します。
ロシア・バレエの生きる伝説、ボリス・エイフマンの一つ一つの言葉が胸を打ちます。
ボリス・エイフマン(以下B.E.):はい、とてもうれしいです。
今回日本で上演してくださるのは「ロダン~魂を捧げた幻想」と「アンナ・カレーニナ」の2作品です。まず「ロダン~魂を捧げた幻想」について教えてください。
エイフマンさんはこれまで、小説を原作にした作品を多く発表されてきましたが、今回の「ロダン」は、実在の人物にスポットを当てられました。どういったところに心を動かされて、このバレエを創ろうと思われたのでしょうか?
B.E.:彫刻家ロダンは、生涯、人間の身体を追求し続けました。理想的な人体を追い求め、その内面の世界を表現しようとした人物です。振付家である私も、これまで、人間の身体の可能性を追い求めてきました。人の身体の動きを通して、人間の内面の世界、心や精神を表現し続けてきた人間です。人間の身体がもつ謎や秘密、内なる世界を見出し、それを芸術で表現するという点で、私たちには共通するものがあるのです。また私はこれまでにも、バレリーナのオルガ・スペシフツェワ(「赤いジゼル」)や、チャイコフスキー、そしてロダンといった、実在した偉大な芸術家たちを描いてきました。彼らが、人の情熱や感情を、自らの創造物の中で、いかに表現しようとしているのか、ということが、私の関心を引いたのです。
注目ポイント? 今回「ロダン」を上演するにあたり、日本の皆さんにご注目いただきたいのは、この作品には、2人の彫刻家が主人公として登場するということ。その2人とは、高名なロダンと、あまり知られていないもう一人の彫刻家、カミーユ・クローデル。
ロダンと出会った18歳のカミーユは、すでに天才的な彫刻家でした。彼女は、自身の作品で、そしてロダンへの愛で、ロダンの芸術に大きな影響を及ぼします。ロダンの有名な作品『接吻』『永遠の偶像』『永遠の青春』などは、カミーユの影響を受けて生まれた作品です。カミーユの理想的な身体をモデルに、永久に残る傑作の数々が生まれたのです。しかし彼らの愛は、悲劇的なものでした。円熟期の芸術家ロダンは、カミーユを利用しました…彼女の才能や身体、愛など、彼女のすべてを利用し、自らの芸術を豊かにした末に、彼女を捨ててしまいます。ロダンに無下にされたカミーユは、それに耐えることができず発狂し、人生の後半は、精神病院で過ごすことになってしまったのです。悲劇的な運命です。
でも彼らの愛情、彼らの情熱は、世界を豊かにしたといえます。今に至るまで、ロダンの芸術は、世界中で人々を感動させているのですから。実生活において、ロダンとカミーユは離別してしまいますが、フランスの人々は、パリのロダン美術館にカミーユ・クローデルの間を設けることで、2人を再び結びつけました。美術館の中で、二人は永遠に一緒なのです。
皆さんは、舞台上で、どのように彫刻作品が作られていくのか、その過程を見ることができます。それはとても面白い体験になるでしょう。
あれは本当に素晴らしいアイディアだと思います。エイフマンさんのバレエは、動きのダイナミズムが魅力の一つだといわれていますが、「ロダン」では、彫刻というものを題材に“静止”の表現をされています。真逆の魅力で身体の可能性の限界を追求するという、新しい挑戦を見せてくださっているように感じます。
さていま、エイフマンさんは、ロダンとカミーユの悲劇は、結果的に世界を豊かにしたとおっしゃいました。いわゆる犠牲の主題が存在していると?
大切ポイント!B.E.:はい。私が表現したいのは、芸術家たちが何を犠牲にしているのかということです。ある人は命を犠牲にする、またある人は吸血鬼のように周りの人々から何かを“吸い取って”理想的な芸術作品を作り上げる。私が表現したかったのは、傑作芸術というものはいかに生まれるのか、という謎なのです。
取材協力:西原朋未
次回は、エイフマン・バレエ名刺代わりの大傑作「アンナ・カレーニナ」について、掘り下げていただきます。ご期待ください!
Vol.2はこちらから
————————————
エイフマン・バレエ
「ロダン ~魂を捧げた幻想」
2019年7月18日(木) 19:00
2019年7月19日(金) 19:00
「アンナ・カレーニナ」
2019年7月20日(土) 17:00
2019年7月21日(日) 14:00
会場:東京文化会館
⇒ 公演の詳細はこちらから