2013/5/6
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【曲目解説】ダニール・トリフォノフ ピアノ・リサイタル[2013/6/14]
2013年6月14日(金) ダニール・トリフォノフ ピアノ・リサイタルのプログラムについてご紹介いたします。
A.スクリャービン(1872-1915)
ピアノ・ソナタ第2番嬰ト短調「幻想ソナタ」Op.19
神秘主義の作風で知られるロシアの作曲家スクリャービンは、若い頃は「コサックのショパン」と呼ばれ、ロマンティックなピアノ小品に非凡な才能を示した。ピアノ・ソナタでは<第1番>(1892年作曲)にそうした特徴がよく表れているが、1892年から約5年の歳月を費やして完成されたこの<第2番>では一転して、印象派風の表現が追求されている。曲は2楽章構成を採り、そこには懐かしい海の幻想が表現されているという。
第1楽章アンダンテは、南国の夜の海辺の静けさと深い海の動揺、そして月の光の愛撫。第2楽章プレストは、無窮動風の音の動きにより、嵐に波立つ広大な海の広がりが表される。
F.リスト(1811-1886)
ピアノ・ソナタ ロ短調
19世紀最大のヴィルトゥオーゾ・ピアニストであったリストは、その華麗な演奏スタイルを最高度に発揮させる数々の技巧曲を残したが、リスト唯一のピアノ・ソナタとして1852~53年に作曲されたこの作品は、難曲ぞろいのリスト作品中、頂点に位置するものとして名高い。
リストはこのソナタの作曲を、シューベルトの<さすらい人幻想曲>の編曲を手がけたことがきっかけで思い立ったといわれている。長大な単一楽章の中に従来の多楽章ソナタの各楽章の要素が織り込まれるという、いわゆる循環形式のスタイルは、シューベルトがまさに<さすらい人幻想曲>で予言した手法だった。このソナタが発表された当初、賛否両論の物議をかもしたエピソードは名高い。古典音楽信奉者の批評家ハンスリックは「支離滅裂」と断じ、またある批評家は「演奏不能な音楽上の怪物」というレッテルをこの曲に貼った。一方、革新派のワーグナーは、すばらしい推進力をもったこの曲を絶賛したのだった。
今日この作品はピアニストたちの重要なレパートリーとなっているが、限られた動機をもとに、繊細な楽想から圧倒的な音響まで多彩なピアニズムが展開されるその演奏には、高度な技巧はもちろん、スケールの大きな有機的音楽作りへの深い洞察力が要求される。
曲はおおまかに、次の3つの部分で構成される。
第1部(提示部):性格的な3つの動機で形作られる第1主題群と、堂々とした第2主題の呈示。
第2部(展開部):前出の主題の展開。そしてこの部分の後半は、緩徐楽章の性格をそなえた音楽となっている。
第3部(再現部):主要主題の再現、およびフガートによる展開。華麗な演奏効果を発揮したのち、最後は静かに全曲を閉じる。
F.ショパン(1810-1849)
24の前奏曲 Op.28
ピアノ音楽におけるショパンの多彩な才能の全貌が集約された曲集として、ロマン派の抒情小品の最高傑作の一つにも数えられるこの<24の前奏曲>は、ジョルジュ・サンドとの交際が始まり、持病の結核療養を兼ねてマジョルカ島で半年を過ごした1838年の前後に作曲された。この時ショパンはバッハの<48の前奏曲とフーガ>の写譜を携えていたと伝えられ、この<24の前奏曲>に見られる全24曲に24の調性を網羅するという構成は、そのバッハからの影響と言われている。当初は、以前に書いた<練習曲>Op.10、Op.25があまりにも難しすぎたため、弟子や素人ピアニスト用の新たな練習曲として着想されたものだった。いずれも演奏時間1分から長くても4分という小品であるが、個々の曲として十分に錬磨されているのに加えて、24曲全体としても高い完成度をそなえており、今回のように全曲を通して演奏されることが多い。
バッハに対する尊敬の念を感じさせる《ハ長調》(アジタート)に始まり、激烈な詩人の情熱を込めた《ニ短調》(アレグロ)で終わる24曲には、発表当時“絶望的でグロテスクな不協和音”が人々を戸惑わせた《第2番イ短調》(レント)をはじめ、半音階進行により調性感が希薄な《第4番ホ短調》(ラルゴ)や、不安な心の揺れが反映された《第6番ロ短調》(レント・アッサイ)などの強烈な感情の表現、また、練習曲的な性格をもつ《第5番ニ長調》(モルト・アレグロ)や《第8番ヘ短調》(モルト・アジタート)、さらに悪魔的ともいえる至難な技巧を要求する《第16番変ロ長調》(プレスト)、そしてテクニックと同時に豊かな幻想を要求する《第12番嬰ト短調》(プレスト)や《第22番ト短調》(モルト・アジタート)や《第23番ヘ長調》(モデラート)など、さまざまな曲想が咲き乱れている。そして、二人が滞在した僧院での暴風雨の晩のエピソードとともに「雨だれ」の愛称で広く親しまれている《第15番変ニ長調》も含まれている。
曲目解説:柿沼唯(作曲家)
世界を感嘆させる若き才能
ダニール・トリフォノフ ピアノ・リサイタル
2013年6月14日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
[曲目]
スクリャービン:ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調「幻想ソナタ」 Op.19
リスト:ピアノ・ソナタロ短調 S178/R21
ショパン:24の前奏曲 Op.28
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