2019/12/1

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【マリインスキー ・オペラ】「スペードの女王」初日レポート

11月30日に開幕した、チャイコフスキー・フェスティヴァル。歌劇「スペードの女王」の初日公演レポート。
ぜひご覧ください!マリインスキー・オペラの『スペードの女王』の初日は、新鮮な舞台だった。長年ゲルギエフと共にオペラを作り上げてきた演出家アレクセイ・ステパニュクは、登場人物の心理を視覚化したモダンな装置と、ロシアというよりフランスのロココ時代を思わせる華やかな貴族たちの装束、日本の子供の役者(黙役ではなくロシア語も語る)などを駆使して、スタイリッシュで美しいステージを作り上げた。演劇的に多くの見るべきものがあり、冒頭でロシア語の合唱を歌った杉並児童合唱団は、一人一人の芝居も手放しで讃えたいほどの出来栄えだった。オペラの中で象徴的に使われる「塑像」にも、あっと驚く仕掛けがある(特に前半の白い立像群に注目)。歌手たちは、コミカルな劇中劇も含め動きが多く、演出家から多くを求められるが、楽し気に軽々と動く。世界的な基準として、棒立ちで歌うオペラはもうあり得ないのかも知れない。声楽的なレベルは脇役まで充実し、マリインスキーの歌手の層の厚さに改めて感心する。単独で歌う場面がそれほど多くない陽気なトムスキー伯爵(ウラディスラフ・スリムスキー)や、リーザの婚約者エレツキー公爵(ロマン・ブルデンコ)のバリトン二人の見事な性格描写は長い喝采が湧き起こるほどで、劇中劇では男装もするポリーナ役のユリア・マトーチュキナも輝くような魅力に溢れている物語の鍵を握る「スペードの女王」こと伯爵夫人は、処女王エリザベス1世を彷彿させる姿で、グルジア出身のアンナ・キクナーゼが怪演。そんな中で、主人公のゲルマンを歌ったミハイル・ヴェクアの声がところどころ客席に届かなかったのは残念だった。12/1にはスター歌手ウラディーミル・ガルージンがゲルマンを歌う。女性の哀しみと苦しみを一身に背負うゲルマンの恋人リーザを演じたイリーニ・チュリロワが絶好調なだけに、初日のヴァクアの不調が惜しまれる。 マリインスキー・オペラはこれまでの来日公演で、ワーグナーの「指輪」、ロッシーニの「ランスへの旅」、プッチーニの「トゥーランドット」、R.シュトラウス「影のない女」、ヴェルディ「ドン・カルロ」など、ロシアもの以外の上演が多く、今回のチャイコフスキー・フェスティヴァルのような試みは逆に珍しい。ゲルギエフの指揮は、歌手たちの声を何よりも優先したもので、シンフォニックなサウンドも歌手たちの声をかき消すような表現はしない。何よりもチャイコフスキーがプーシキンの物語の中にみた、逸脱者ゲルマンの悲劇性を一番に伝えようとする。合唱は変幻自在で、逞しさから貴族たちの優雅さまでを生き生きと表現し、美しい美術や照明と響き合っていた。二回休憩をはさんで3時間40分というボリュームが「重く」感じられなかったのは、オペラの物語に現代に通じる普遍性が含まれていたからだろう。多忙な歌劇場で鍛えられた歌手とオケの実力が、華麗な花となって咲いた時間だった。

文:小田島久恵(音楽ライター)

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【チャイコフスキー・フェスティヴァル2019】コンテンツまとめはこちらから
巨匠ゲルギエフ&ロシア芸術の殿堂 マリインスキー歌劇場が総力を結集して贈る
マリインスキー歌劇場 チャイコフスキー・フェスティヴァル2019
▼画像をクリックするとPDFで詳細をご覧頂けます▼
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<公演情報>
マリインスキー歌劇場 チャイコフスキー・フェスティヴァル2019

歌劇「スペードの女王」
2019年11月30日(土)15:00 東京文化会館
2019年12月1日(日)15:00 東京文化会館

歌劇「マゼッパ」(コンサート形式)
2019年12月2日(月)18:00 サントリーホール

マリインスキー 歌劇場管弦楽団 演奏会
2019年12月5日(木) 19:00 サントリーホール(チェロ:アレクサンドル・ブズロフ)
2019年12月6日(金) 19:00 東京文化会館(ヴァイオリン:五嶋龍)
2019年12月7日(土) 13:00 東京文化会館(ピアノ:セルゲイ・ババヤン、辻井伸行)
2019年12月7日(土) 18:00 東京文化会館(ピアノ:セルゲイ・ババヤン)
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