2020/1/14
ニュース
阪田知樹インタビュー「演奏会を通して、ピアノで成し得る表現の幅を楽しんでいただけたらと思います」―
2020年3月1日ピアノ・リサイタルを行う阪田知樹に、音楽ライターの高坂はる香さんがインタビューを行いました。
1900年代初頭のピアニストのリサイタルプログラムには、3部構成で、1部に古典的な作品、2部にメイン、3部にお客様が楽しめる作品というものが多くあります。今回は、尊敬する巨匠たちへのオマージュとして、1部にモーツァルトとシューマン、2部にリストのロ短調ソナタ、3部に編曲作品というプログラムを考えました。
バックハウスやリパッティのライヴ録音を聞くと、舞台に出てポロポロと即興的に少し弾いてから曲に入るんですよね。今回は僕もそんな風に、即興演奏でモーツァルトやシューマンの空気を作ってから演奏に入るつもりです。
はじめに演奏するモーツァルトは、これまで演奏会で多く弾いてきたわけではないので意外なセレクトと思われるかもしれませんが、大好きな作曲家です。昨年9月に他界された師匠、バドゥラ=スコダ先生はモーツァルトの名手でしたから、先生への想いも込めて選びました。
シューマンについては、中学生の頃、インタビューで一番好きな作品を聞かれて「クライスレリアーナ」と答えているほど、昔からとても好きな作曲家。魔法のランプのような……蓋を開けて出てきた煙が、魔法のように形や色を変えていく音楽に、魅力を感じるのです。シューマンは多面的な人間性でよく知られていますが、そういったキャラクターが“破壊的”に出ている曲と、そうでない曲があると思います。「クライスレリアーナ」は前者ですが、今回演奏する「交響的練習曲」は、後者。ピアノ1台でシンフォニックな表現を目指した音楽から、さまざまな声部が聴こえてきます。多面的な性格が、音楽の中身とうまく調和しています。
―第2部はリストです。阪田さんは昔からリストが大好きだそうですから、きっとロ短調ソナタには特別な想いがあるのでしょうね。
そうですね。簡単に近寄ってはいけないという畏敬の念を抱いていたので、僕自身も、演奏会で弾くようになったのは数年前からです。
この時代の芸術家は、知識や芸術への考えを総括するような規模の作品を書く傾向がありました。「ハンマークラヴィーア」などベートーヴェンのピアノソナタもそうした作品の一つで、リストのロ短調ソナタもこの延長線上にあると思います。昨年ベートーヴェンの最後の3つのソナタを演奏して、改めてそれを実感しました。幻想曲風に書かれているけれど、構成感が大切なソナタ作品であることに間違いありません。人生を凝縮して表現した哲学のような作品でもあります。
細かい部分を知るにつれて、音楽を俯瞰して見られるようになり、長い作品を一瞬に感じるようになりました。一生取り組んでいくつもりです。
―そして、第3部は多彩な編曲作品によるプログラムです。
昔から編曲作品を調べるのが好きで、家に楽譜がたくさんあるので、アイデアが溢れてしまって選ぶのが大変でした(笑)。
まず、チャイコフスキーの交響曲《悲愴》3楽章のフェインベルク編曲版はずっと弾きたかった作品。オーケストラ演奏でもこの後につい拍手が出るような華やかさがあるので、楽んでいただけると思います。
バラキレフ編のショパンの協奏曲は、聴いた印象以上に超絶技巧を要しますが、さまざまな楽器を感じる美しい編曲です。
リストの「リゴレット・パラフレーズ」も大好きな作品。オペラの編曲ものは、ピアノでいかに歌えるかがとても大切になります。
その他「ラ・カンパネラ」や「愛の悲しみ」を選びましたが、よく見ていただくと、原曲がヴァイオリン協奏曲、交響曲、ピアノとヴァイオリンのデュオ、ピアノ協奏曲 、オペラと、全て違うことにお気づきになるでしょう。演奏会を通して、ピアノで成し得る表現の幅を楽しんでいただけたらと思います。
―編曲作品を集めた新譜「イリュージョン」には、ご自身で編曲した作品も収められています。
ピアノの表現の可能性をより前面に打ち出した選曲で、アルバムのタイトルは、ピアノでいろいろな音をお聴かせするイリュージョニストのような表現を目指したことに由来しています。
例えば、バラキレフの交響詩「タマーラ」と関係の深い「イスラメイ」、オーケストラ編曲版でも親しまれているリストのハンガリー狂詩曲第2番は、ピアノ1つでオーケストラの響きを再現することが求められます。ちなみにハンガリー狂詩曲は、僕が書いたカデンツァも聴きどころの一つです!
―ピアノで歌い、多彩な音を鳴らすうえで大切なものは?
耳だと思います。指は自然と動きますから、まずは耳で聴く能力。そして、こういう音が欲しいという明確なイメージを持つことが大切です。
例えば僕はマリア・カラスが大好きなのですが、オペラの編曲作品を弾くときは、彼女がどんなフレージング、息遣いで歌っているかをじっくり聴き、それをピアノで再現する試みを続けます。
ピアニストは十本の指でたくさんの音を鳴らしますが、声楽は一音しか発することができません。つまり、その一音への気持ちがすごく強いということ。「一流のピアニストは三流の歌手にしかなれない」といいますが、優れた歌い手の表現を聴くことは、本当に勉強になります。
第1部では、ヴァイオリンの成田逹輝さん、チェロの上野通明さんと、ピアノ三重奏曲第1番、第5番を演奏します。二人とも世代が近く、すばらしい音楽家なので、どんな演奏になるのか楽しみです。
第3部では諏訪内晶子さんとヴァイオリン・ソナタ第4番、第10番で初共演します。子供の頃、アシュケナージ指揮チェコ・フィルと諏訪内さんのCDを本当によく聴いていたので、そんな方の音を共演者として間近で聴くことができるのは光栄です。
マラソンコンサート当日は、ベートーヴェンづくし、演奏される機会の少ないものも含む緩急のあるプログラムとなっているので、1日充分に楽しめるのではないでしょうか。
高坂 はる香(音楽ライター)
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深化するヴィルトゥオーゾが魅せる光彩に溢れたプログラム
阪田知樹 ピアノ・リサイタル
2020年3月1日(日)13:00 横浜みなとみらいホール
⇒ 公演詳細はこちらから
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国際音楽祭NIPPON 2020 芸術監督:諏訪内晶子
諏訪内晶子 & ニコラ・アンゲリッシュ デュオ・リサイタル
2020年2月14日(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
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2020年3月8日(日)13:00 東京オペラシティ コンサートホール
ジャナンドレア・ノセダ指揮 ワシントン・ナショナル交響楽団
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2020年3月11日(水)19:00 紀尾井ホール
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2020年3月13日(金)19:00 紀尾井ホール