2013/6/26
ニュース
【ラファウ・ブレハッチ】サル・プレイエル公演レポート
当初5月23日に予定されていたものの、急病で延期になったラファウ・ブレハッチのリサイタルが6月13日夜パリのサル・プレイエルで開かれた。
すっと早足で舞台に入ってきたブレハッチは、さっと深く一礼した。椅子の高さを念入りに調整してから、じっと前を見つめる。一呼吸おいて澄んだ清冽な音が流れだし、ヨーゼフ・ハイドン「ソナタ52番変ホ長調Hob16/52」が始まった。滞在中のロンドンで楽器製造技術が長足の進歩を遂げたことを目の当たりにした晩年のハイドンが作品に託した敏捷性、以前よりも濃淡の明瞭なディナミックといった新機軸がブレハッチの指先から明快に浮かび上がってくる。むずかしい曲と一切感じさせないのはピアニストの技法が確かだからだ。
これにベートーベンの「ソナタ第2番イ長調作品2の2」が続いた。ウイーンに居を移した楽聖がハイドンに捧げた三曲のソナタの一つである。ブレハッチには無駄な体の動きはなく、鍵盤という標的にぴたりと照準が定められている。若いベートーベンのユーモアや悪戯といった側面よりも、はつらつとした若さの中にも落ち着いた静けさが印象に残った。
後半はオールショパンのプログラムだった。まず「二つのノクターン」作品37、ついで、「二つのポロネーズ」作品40に「三つのマズルカ」作品63、最後が「スケルツォ第3番」嬰ハ単調作品39 だった。
音色のパレットが多彩なだけに曲により表情がさっと変わる。さらっとした粘り気のない音がなめらかに「夜想曲」をささやくように奏でるかと思うと、「ポロネーズ」では激情が弾けるかのような鼓動を伝えていた。「マズルカ」の三曲目では薄明を想わせるような憂愁がにじみ出てきた。
曲想は違っても、静かな表情に秘められたエネルギーの迸りは常にすがすがしい。作品に正面から向き合ったピアニストでなければ得られない端正そのものの演奏から自然に漂ってくる気品はこの人ならのものだろう。アンコールはショパン二曲、最後はもう一度ベートーベンの「ソナタ第2番」のスケルツォ・アレグレットを弾き直した。2014年6月10日に再びパリでどんな曲を弾いてくれるのか、今からたのしみだ。
三光 洋(音楽ジャーナリスト/パリ在住)
———————————-
ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル
2013年12月14日(土) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第9番 二長調 K.311
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第7番 二長調 Op.10-3
– – – – – – – – – – – – – –
ショパン:夜想曲 第10番 変イ長調 Op.32-2
ショパン:ポロネーズ 第3番 イ長調 「軍隊」/第4番 ハ短調
ショパン:3つのマズルカ Op.63
ショパン:スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 Op.39
⇒ 公演の詳細はこちらから