2020/4/23

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「サンクトペテルブルグ・フィル 公演プログラム 寄稿エッセイ ご紹介」~ツアーを華やかに彩る2人のヴァイオリニスト (セルゲイ・ドガージン、庄司沙矢香)(浅松啓介 音楽ライター・ジャーナリスト)

ツアーを華やかに彩る2人のヴァイオリニスト

地元が育てた若き世代の最高峰─セルゲイ・ドガージン 第16回チャイコフスキー・コンクール(2019)で圧巻の演奏を聞かせ、今最も輝き注目されるヴァイオリニスト。数々のコンクールを総なめにしてきただけでなく、2大会前のチャイコフスキー・コンクールで1位なしの2位という言い分ない成績でその後演奏活動など活躍してきたわけだが、今回のチャイコフスキー・コンクールでの優勝は、ただのリベンジではなかった。全くの別人かと思われるほどに大進化を遂げて登場したのだ。第一次予選から聴いていたが、他の奏者とは一線も二線も画す演奏で泣く子もだまる飛び抜けたヴァイオリンだった。

 サンクトペテルブルグの聴衆は彼の成長を温かく見守ってきた。街全体が地元音楽家を育てようとする風土と、レニングラード的な音楽性への強いこだわりからいわば地産地消の音楽環境がある。音楽シーンでモスクワとも相容れない、特別な音楽への理解を育んできた場所。ドガージンも、その街が育ててきた作品だ。彼の音楽にツンツンしたところや尖ったところがないのも、そうした愛に包まれた音楽家だからだろう。

 サンクトペテルブルグの音楽界隈のみならず世界が彼の人となりがにじみ出た音楽を楽しみに待っている。今の若き世代の最高峰のヴァイオリニストの演奏に今後目が離せなくなること間違いない。

皆に魔法をかける稀有の名手─庄司紗矢香 音の絵を描くヴァイオリニスト。こういう表現をすると、色彩や音楽性の豊かさとうありきたりの理解を促してしまうかもしれない。しかし、そうではない。彼女の音楽は文字通り音によって絵を描いているかのような錯覚をもたらすのだ。それも空間に広がる3Dの絵だ。時に柔らかなふわふわとした世界の中に色々な音がバランスよく紡ぎ出されるかと思えば、荘厳の世界に誘われたり、そうかと思うと寒さや暖かさを感じるような温度のある不思議な世界を音の塊の間をすり抜けて行くような幻想をもたらしたり、時にそれらは匂い伴って迫ってきたり、?にそよ風すら感じるような五感をわきたたせる空間の絵だ。サンクトペテルブルグ・フィルとの演奏で何度も聴いているが毎回この現象にとりつかれる。上下左右、縦横無尽にそこにある空間を音楽の世界に変えてしまう不思議な力を持ったヴァイオリニストだ。

 この魅力にとりつかれるのは聴衆の我々だけにあらず。世界のマエストロやソリストもその魔法にかかった人たちであろう。共演してきた音楽家たちの信頼が厚いのは、彼らもまた彼女の音楽の虜になっているからに違いない。今回の共演者であるサンクトペテルブルグ・フィルハーモニーとその音楽監督のユーリ・テミルカーノフもまた理想の共演である。彼らの音のマジックにかかるまたとない機会。きっと、その夢のような魔法の世界から抜け出せなくなるだろう。

浅松 啓介(音楽ライター・ジャーナリスト)

浅松 啓介(あさまつ・けいすけ)
音楽ライター・ジャーナリスト。月刊「音楽の友」(音楽之友社)ライター。サンクトペテルブルグを中心にロシア国内の音楽シーンの取材し日本へ届けている。独自のルートでロシア国内のオーケストラや劇場を多角的に伝える。帝政時代の埋れた楽譜の発掘や出版物の収集をライフワークとする。サンクトペテルブルグ在住。

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