2013/8/28
ニュース
マルセロ・ゴメス 電話インタビュー
今年の夏、日本に“ゴメス旋風”を巻き起こしたマルセロ・ゴメス!
熱く、激しく、優しく、時にせつなく…踊り演じるゴメスの魅力に、はまってしまった(!)方も多いはず。
次の日本の舞台は、来年2月アメリカン・バレエ・シアター(ABT)来日公演です。
「マノン」と「くるみ割り人形」に主演するゴメスの電話インタビューをご覧ください。
Q:この夏の日本ツアーでのご成功、おめでとうございます。
マルセロ・ゴメス:ありがとうございます。日本で踊れたことはほんとうに素晴らしい経験でした。そして今回、自分の振付作品を披露したことも喜びです。これまでも、世界バレエフェスティバルでソロの作品を発表したことはありました。でも、グループで踊る作品の依頼は初めてで、エキサイティングでした。ディアナ・ヴィシニョーワさんメインのガラでしたが、彼女が「一緒にやりましょう。」と声をかけてくださったんです。
Q:そこで最初の質問なのですが、ヴィシニョーワさんとはとくにここ数年、すばらしいコラボレーションをなさっています。彼女と共演することの特別さは、どんなところにあるのでしょう?
ゴメス:彼女との友情はとても多くの意味を含んでいます。まさに「築き上げてきた関係」です・・・オフ・ステージでも親しいんです。そんな素晴らしい友情がおそらく、舞台で踊るときににじみ出てくるのでしょう。特に「マノン」「オネーギン」や「椿姫」といった作品を踊るときには、親密さの表現がカギになりますから、なおさらです。それぞれがドラマティックな役柄に入り込んだときには、形を超えたところで自然に溢れるものがあります。ですので、パートナーとどれだけ心を結びつけることができるか、が、ダンサーにはとても大切です。一方だけでなく、互いにそれが必要ですが、ディアナとは、そんな関係をしっかり作り上げています。ここ数年のあいだ一緒に仕事をして経験を共有し、どの舞台でもそのパートナーシップをお見せしてきましたが、そんな彼女とのコンビは私にも非常に快いものなんです。
Q:プロのダンサーであれば、どんなパートナーともよいステージを作らねばならず、ゴメスさんもつねに素晴らしいパフォーマンスをなさいますが、わけてもヴィシニョーワさんとのフィーリングは特別なのですね。
ゴメス: ええ、そうです。一緒に踊るそのとき、私は、どなたのことも大好きになってしまいます。みなさん素晴らしい。そのうえ、回数多く一緒に踊る機会に恵まれれば、これは特別な存在にならないわけがありません。一回一回に集中しますが、それが継続されていくと、その人との間でなにかが「成長」を始めます・・・前回と同じではありえません。ディアナの優れた点というのは、組む相手に、そのつど、前回とは違った何かを触発してくれるところです。彼女とステージに立つたびに、私自身が、新しい私を見つけるんです。それが継続します。彼女に惹かれる最大の理由はそこですね。真に魅力あるパートナーです。
Q:彼女と組むようになってすでに何年ぐらいになるのでしょう?
ゴメス:明確には覚えていませんが・・・ここ10年ほどでしょう。そして、彼女と最初に組んだ演目が、まさにアメリカン・バレエ・シアターでの「マノン」だったのです。ですので、およそ10年という年月をへて、また彼女とこのバレエを踊ることになったのは、非常に興味深いことです。
Q:最初の「マノン」以後、何回かすでに踊っていらっしゃると思いますが、その度ごとにヴィシニョーワさんとは、新しい発見をし、互いに成長を重ね…
ゴメス:まさにそこです。ディアナは、つねに私をぎりぎりのところまで追い込んでくれるのです。彼女自身もけして妥協しないアーティストで、「もうこのへんでやめておこうかしら。」ということをしません。お互いが胸に思い描くイメージを確実に表現できたと思える次元まで、ねばり続けます。ここで主人公たちはどれほど悲しかっただろうか、あるいは幸せだったのだろうか…そして、復讐の気持ちはどれほど激しかったのか・・・等々を。彼女がそうやって自分の体を使い尽くして踊るとき、そこに身を添わせて相手役をつとめることは、素晴らしい喜びなんです。同様の喜びをくれる優れたバレリーナは多くいるなか、ディアナは、例えば先日のガラ公演でもそうでしたが、私に対して同じ信頼を寄せてくれる人の一人だと思っています。
Q:いま、ヴィシニョーワさんのほうに同じ質問をしたら、きっとゴメスさんのことを全く同じように評価すると思いますね。
ゴメス:(嬉しそうに笑う)そうですね、そうかも知れません。
Q:さらに、ゴメスさんのデ・グリュー役の解釈についても、お話を伺いたいのですが。彼はマノンをあまりにも愛し、幾多の問題に苦しみながらも、その愛を貫き通します。それは、強烈な愛情です。そんなデ・グリューとは、ゴメスさんにとって、どんな男に映るのでしょうか?
ゴメス:彼はね・・・とてもロマンティックな男ですよ、それは明らかですね。そして自分の頭のなかで「人生はこうであってほしい。」というイメージができている人です。ですから、その思い通りにことが運ばなかったとき・・・もちろんそうなる理由はマノンを愛しているからに他ならないのですが・・・彼女と別れようとするのです。身を引き裂かれるような決心のはずです・・・もし相手をほんとうに愛しているのにそうせざるを得ない場合はね。あの長いバレエ作品中、彼らが揃って恍惚を味わうのは、寝室のパ・ド・ドゥの、たった一箇所だけなんですよ、彼らに起こるのはそんな矛盾に満ちた愛です。ですから、彼の愛が完遂されるのは、彼女が死ぬ瞬間でしかない。おそらく幸福なベッドの中でさえ、それは起こらなかったと思うんです。正直に申しますが、これは、演じるのは非常に難しい役ですね。挑戦し甲斐がありますよ。振付作品としてとても多重性と構築性に富んでいます。
Q:そしてラストシーン。マノンはすでに遺体。彼はその愛しい体を担いで彷徨します。…このとき、デ・グリューは幸せだったのでしょうか、それともやはり、悲しんでいたのでしょうか? いままさに彼女は彼だけのものになった。周囲に邪魔者はもう誰もいません。この場面でのゴメスさんの解釈は?
ゴメス:まさに「ビター・スイート」でしょうね。苦々しく、けれど甘い。マノンは何度となく彼を裏切りました・・・地位のある別の男のため、お金のため、宝石のために。そして数々の裏切りにあっても、デ・グリューはなんとか彼女を、その精神を毒されたような生活から救おうと戦い続けました。彼にしてみれば、そんな惨めな人生はあってはならなかったのです。しかし皮肉にも、ついに彼女が彼だけのものになったとき、人生が彼女を見捨てます。そしてそうなって初めて彼女は、デ・グリューがこれまで自分に示してくれたものと同価値の愛を、その身をもって表現したのです。とても悲しい、愛の物語ですね。
Q:役の解釈においてすでに優れた分析力が求められるうえ、振付もけして簡単ではありません。ゴメスさんは、デ・グリューを踊りながら、この二つの違った技術の間でどうやってバランスをとっておられるのですか?
ゴメス: まったくその通りで、高度な2種類のスキルが求められます。踊りの技術としては、この作品ならではの振りも多く、第1幕の最初のソロなどは、かなり躍り込まないと、すべてのパの流れがスムーズにできるまでになりません。もうひとつ第2幕の長いソロがありますが、こちらはさらに詩情豊かに表現しなくてはなりません。技術的なことを申せば、非常に高度なボディ・コントロールが不可欠なのです。ですが、それはただ単に高度なだけでなく、マクミランが見事な手法で作品中に結集させた、柔らかさを伴った表現であるべきなのです。その総合的なバランスによってロマン主義とはなにか、ということが語られるのです。そこを踊りきれたら、先ほどの「デ・グリューはどんな人物か?」というご質問にお答えできたことになるでしょう。つまり、この作品では、技術面を完全にフォローすれば、演技面は自然にそれについてきます。頭で「ここはこう演技しなければ・・・反対にここではこう…」などと考えすぎて、踊りのスキルと人物解釈をわざわざ二分しなくてもいいのです。この「マノン」という作品は、振付のなかにすべての心情のサインが込められています。そして、あの音楽。マスネの音楽が、強い力でリードしてくれます。
マクミラン作品を踊る場合、「ロミオとジュリエット」の場合も同じですが、私は「演技しなくちゃ。」と思うことはなく、ただ「自分の体をそこに置けばいい。」と感じます。リハーサルで動きの流れを練習したあとはもう、「その中に居よう。」と思うだけです。
Q:バレエのテクニックはすでに非常に難しいものですから、どんな子供たちも、習い始めてまずはテクニックの習得に打ち込むものと思います。ある程度の年齢になって、つぎの段階として「解釈」というものに触れると思います…今のお話を伺うと、おそらくゴメスさんもそうだったのだろうと思いますが、これは、正しい順序でしょうか? つまり、少年・少女のうちはまず技術を徹底的にマスターし、頭を使って物語を考察するのは後からでいいのでしょうか?
ゴメス:ええ、若いうちは「それが順序だ。」と信じていて差し支えありません。まずは数々のパの習得に集中するべきでしょう。そこができていれば、年齢が上がって役の感情をどう込めるかという意識が目覚めたときに、苦労少なく全体のパフォーマンスにつなげてゆけます。長年踊っていますとね・・・ええ、確かにテクニックはつねに大事なんですが、どうやって「物語」を表したらいいのか、という、難しい責任にぶつかりますから・・・そこで人間のフィーリングを込められないと、ただのステップに終始してしまいますよね。私もつねに研鑽しているところです。若いときですが、初めて「ジゼル」のアルブレヒト王子を踊ったときも、「オネーギン」を踊ったときも、すごく考えました・・・ここを、このステップで踊る意味は何だろう?と。
ご存知と思いますが、バレエの基本中の基本に、アラベスクの形がありますね。おなじアラベスクでも、どの役の、どこで使われるかで、意味がそれぞれ違ってきます。自分が後輩にヴァリエーションなどを指導するときに言いたいことですが、踊り手がそういうことを意識するかしないかで、全体の印象がまったく変わってくるものなんです。
Q:近年は振付にもトライしているゴメスさんですが、踊り手ではなく振付家の視点で、アレクセイ・ラトマンスキー版の「くるみ割り人形」の面白さについて、語っていただけないでしょうか?
ゴメス:ここ数年踊っていますが、まさに「ファンタスティック!」なプロダクションです。アレクセイは、自身のイマジネーションを極限まで追求し、その粋を集めて舞台を満たす・・・そう、天才ですね、感動します。非常に音楽性に富んでいますし、リハーサルに臨めばその空気をすでに体感することができます。わけても「くるみ割り人形」には、彼の独創性が凝縮されていて、魔法のように美しい作品です。日本の皆さんにお見せできる日をとても楽しみにしています。
Q:ゴメスさんが初めて「くるみ割り人形」を踊った時というのは、いつに遡るのでしょう?
ゴメス:「くるみ」ですか・・・う~~ん、いつだったでしょう、この作品では、まず子供の頃、兵士の役を踊って、いえ、そのまえにネズミの役ですね、私もそうでしたし!(笑)。
Q: : きっとまだ、バレエ学校の生徒の頃、6才とか7才頃でしょうか?
ゴメス: ええ、そうです。そしてそのあと、アラビアの踊り、花のワルツ・・・定番ですねえ、どんなダンサーにとっても「くるみ割り人形」という作品は、子供の頃からの歩みの記録です。全曲を通して、だれもが自分の数々の思い出を重ねて踊るものなんです。
Q:初めて白いコスチュームで金平糖の王子役を踊ったときの感動とか、覚えていらっしゃいますか?
ゴメス: いやあ・・・いつでしたか・・・「ゴメス・アーカイブス」を全部おさらいしませんと(爆笑)!・・・すみません、本当に思い出せません!でも、いわゆる大きな舞台で初めて「くるみ」を踊ったのは、それはABTでのことです、その点は間違いありません。
Q:相手役のヴェロニカ・パールトさんとも、近年、コンビは好調そうです。
ゴメス:ヴェロニカは、とても美しくてゴージャスなバレリーナです。ラトマンスキー版の「くるみ割り人形」を初めて一緒に踊ったとき、彼女のテクニック面での強さに驚かされました。以来、回数を重ねていますし、この作品を踊るにはもっとも安心できるパートナーです。ステップのバランスがお互いの体にしっかり入っています。ラトマンスキー版は、他のバージョンにくらべ、ジャンプもリフトも多く、ステップも複雑でテンポが速い箇所もあります。ですが、ヴェロニカとならそんな点も不安なく、もう「楽しみながら」こなせるはずです。日本の皆さんの目にも、とても面白い、クラシックと言うよりはなにか新しいものに映るでしょう。どうぞ楽しみにしていてください。
Q:ゴメスさん、お忙しい中、こんなに丁寧なお話、ほんとうにありがとうございました。来日を心よりお待ち申し上げます。
ゴメス:私も、みなさんとの再会を心待ちにしています。こちらこそ、ありがとうございました。
アメリカン・バレエ・シアター2014年来日公演
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≪くるみ割り人形≫
2月20日(木) 19:00
2月21日(金) 13:00
2月21日(金) 19:00
2月22日(土) 13:00
≪オール・スター・ガラ≫
Aプロ 2月25日(火)18:30
Bプロ 2月26日(水)18:30
≪マノン≫
2月27日(木) 18:30
2月28日(金) 13:00
2月28日(金) 18:30
3月1日(土) 13:00