2020/9/19

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舘野泉 演奏生活60周年記念インタビュー

舘野泉

妻の期待を裏切って(笑)、左手のピアニストとして再スタート!

今年で舘野泉は、ピアニスト生活60年を迎えることができました。
デビューは1960年の9月。第一生命ホールでのリサイタルには、恩師である安川加壽子先生から「音楽をたっぷり歌わすことを常に心がけていられる演奏家」と紹介していただき、レオニード・コハンスキーからは「音楽を理解する深い魂を持っている」との、メッセージをいただきました。

本当に、あっという間の60年でした。
この間、様々なことがありました。思い起こせば1964年に、フィンランドへ行ったことが新しい舘野泉のスタートでした。なぜフィンランドだったのか、他の北欧3ヶ国とは違って、西でも東でもない、また西でもあり東でもある、そんな空気感が気にいったからでした。普通ならウィーンやパリといった、音楽を勉強できる都市を選ぶのかもしれません。しかし、僕は音楽というのはどこへいって、何を習ってということより、好きな所へ行き、自分で考えることの方が大切だと思っています。それはたぶんに、音楽一家で育ったせいで、生まれた時から音が周りにあったからと思っています。

2002年にタンぺレでのコンサート中に脳溢血で倒れ、1年半のリハビリ生活を経験しました。妻はこれでやっと私の元に返ってきた、といって「何も心配しなくていい、全部私が面倒みてあげるから」と、話してくれました(笑)。しかし、自分でも説明がつきませんが、必ず弾けるようになる、という確信がありました。結局、妻の期待を裏切って(笑)、左手のピアニストとして再スタートをきることができたのです。

舘野泉

3作品が世界初演

今回のプログラムは、J.S.バッハの(ブラームス編曲)のシャコンヌ、スクリャービン:前奏曲、夜想曲、光永浩一郎:苦海浄土に寄せる~左手ピアノ独奏のためのソナタ、新見徳英:夢の王国、パブロ・エスカンデ:悦楽の園、を演奏いたします。5作品のうち、3作品が「舘野泉に捧ぐ」世界初演です。

最初のバッハ=ブラームスの「シャコンヌ」は、左手になってからずっと弾いてきました。実をいうとバッハを弾いたのは67歳の時が初めてです。それまで弾いて来なかったというのは、僕自身がドイツの音楽にあまり興味を持てなかったからなのです。シューベルトやベートーヴェンにも素敵な曲はたくさんあります。とくにベートーヴェンの「ティアベリ変奏曲」は大好きで弾いていました。ただ、全般に自分ではぜんぜん歯が立たないなぁ、と感じていたのです。
「シャコンヌ」も、練習していて、つまらなくて(笑)。もともとこの曲はバイオリンのための曲ですから単旋律が多い。いくら経っても音にならないのです。でも、やらなくてはいけない。練習を続けているうちに「あれーっ」、という瞬間がありました。なにかを感じたのです。いってみれば「フレージング」なんです。どこで息づかいをするのか、その次は細かい息づかい、大きな息づかい、いろいろとわかってきたのです。それから面白くなってきました。
不思議なものですね。今まで700回くらい演奏しています。ほんとうに飽きることがない。面白くて、毎回毎回違っています。スクリャービンもそうでした。何年も弾いてきて、最近は初期のころとはまた違った作品になってきました。変えようと思ってやっているわけではないのですけどね。この2作品は最初に決まりました。

次に光永浩一郎さんの「苦海浄土によせる」。
以前「サムライ」や「オルフェウスの涙」という曲を書いてもらいました。今回は「苦海浄土」。僕が頼んだというのではなく、光永さんが自発的に書いてくれたのです。2018年の暮れに譜面だけ送られてきました。大作です。ただ時間がなくてなかなか演奏するチャンスがありませんでした。ところが昨年の暮れに、なぜか気になって、譜面を再度確認しました。すごく良い曲なのです。海の嘆き、~フーガ~海の沈黙と今回は演奏します。
ほんとうは第3楽章に「迦陵頻」という曲が入っています。彼は譜面をおくってきたとき、「迦陵頻というのは連鶴にある秘伝の一つである。喜びの極みに達する第3楽章は迦陵頻を折るような心地なのだ」と、説明書をつけてきてくれました。
見事に書けている曲なのですが、今回はあえて「海と沈黙」に変えさせてもらいました。「迦陵頻」と違って音が少ない。とっても静かで、「沈黙が語る」という曲になっています。僕はどうしても「海と沈黙」を最後におきたかった。それで彼に頼んだのです。ですから「迦陵頻」は次回を楽しみにしておいてください。

舘野泉

人生にゴールはありません

4番目は新見徳英さんの「夢の王国」です。新見さんに曲を書いていただいたのは、40年ぶりです。夢の砂丘~夢のうた~夢階段~夢は夢見る。全部「夢」がモチーフになっています。夢といっても希望ばかりではない。夢には苦いこともあり、不安もあります。そんな、人生のさまざまな出来事がすべて詰め込んであるのです。とても良い仕上がりになっています。

最後の締めの曲はパブロ・エスカンデに頼もうと決めていました。今回の記念公演では、古典的な曲ではなく、バラードとかファンタジ―といった作風で、強く熱い力に満ちたものを希望していましたが、すべてはバブロに任せました。彼には、この10年に10作品ほどお願いしていました。アルゼンチンの作曲家で、いつもすばらしいアイデアを提供してくれます。昨年、演奏したのは「アヴェ・フェニックス”紅の風〟~左手のピアノと金管アンサンブルと打楽器ための」という曲で、12本の金管楽器と打楽器との編成でした。
希望どおり、3月に作品が出来上がってきました。タイトルが「悦楽の園」。僕の好きな画家のボッシュの絵からとっています。日本でいう3面の屏風のようになっている絵で、左にアダムとイヴ、正面が悦楽の園、右に地獄が描かれています。曲は、天地創造の3日目から始まります。すばらしい曲です。すべてが理想的な構成になりました。

65歳で病いに倒れ、半身不随になりました。それでもこうやってピアノを弾き続けてこられました。人生にゴールはありません。いつも「今」は通過点です。「今」という瞬間の連続が人生ではないでしょうか。どうか、コロナ禍に負けることなく、舘野泉のピアノを楽しみに待っていただけましたら本望です。(談)

インタビュア/小柴康利


「舘野泉 演奏生活60周年 ピアノ・リサイタル」
11月10日(火)19時00分開演 東京オペラシティコンサートホール
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そのほかの全国ツアースケジュール:福岡、札幌、藤沢、福島
                 大阪公演は2021年2月を予定。

・2020/10/24(土) 福岡 FFGホール (問)エムアンドエム 092-751-8257
・2020/10/26(月) 北海道 札幌コンサートホールKitara 小ホール (問)オフィス・ワン 011-612-8696
・2020/11/1(日) 神奈川 藤沢リラホール
・2020/11/7(土) 福島 南相⾺市⺠文化会館(ゆめはっと) (問)南相馬市民会館 0244-25-2763
・2020/11/10(火) 東京 東京オペラシティ・コンサートホール (問)ジャパンアーツぴあ 0570-00-1212
・2021/2/23(火・祝) ⼤阪 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール

舘野泉へ ~演奏生活60年おめでとうメッセージ~
11/10(火)東京オペラシティ コンサートホールで演奏生活60年記念公演を行う舘野泉(84)へ、 ご縁ある演奏家から届いた祝福のメッセージを紹介していきます。
https://www.japanarts.co.jp/news/p5514/


⇒ 舘野泉 プロフィール
https://www.japanarts.co.jp/artist/izumitateno/

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