2020/9/11
リナルド あらすじと相関図
概要
1711年に初演された《リナルド》は、ヘンデルがロンドンで発表した最初のイタリア・オペラで、大成功を収め、初演の前日に26歳の誕生日を迎えた若きヘンデルの名声を確立した傑作である。ロンドンの劇場で上演された、初の本格的なイタリア・オペラでもある。
原作は、ルネッサンス・イタリア文学を代表するトルクアート・タッソの『解放されたエルサレム』(1581)。イスラム教徒の占領下にあった聖地エルサレムを奪回してヨーロッパを熱狂させた「第一次十字軍」(1096-1099)に基づいた、幻想的な一大叙事詩だ。『解放されたエルサレム』は大ベストセラーになり、絵画からオペラまで多くの芸術作品の題材になったが、魔女アルミーダが十字軍の勇士リナルドを誘惑するエピソードは特に人気があった。
この題材を提案したのは、ヘンデルに作曲を依頼した女王劇場の支配人アーロン・ヒルである。ヒルは台本の原案も自分で書き、イタリア語台本の作成をジャコモ・ロッシに頼んだ。ヒルはタッソの原作をかなり自由に書き換え、リナルドの恋人アルミレーナを創造したり(有名なアリア「涙の流れるままに」は、アルミレーナがアルガンテに迫られて歌うアリアである)、結末にアルガンテとアルミーダの改宗シーンを加えるなどして物語を盛り上げている。ヘンデルはわずか二週間で作曲を終えたが、それはこれまで書きためた音楽をかなりの部分に転用したためでもあった。
《リナルド》は、「魔法オペラ」に分類されるエンタティンメントだが、同時に「時事もの」でもある。当時のイタリア・オペラは、はるか昔の物語を扱いながら作曲当時の情勢を暗示することがよくあった。ヘンデルは当時ドイツのハノーヴァーの宮廷楽長だったが、彼の雇い主であるハノーヴァー選帝侯ゲオルク1世は、母方の血筋によりイギリスの王位継承権を持っており、アン女王(在位1707-1714)の次のイギリス国王に即位することが確実視されていた。ヘンデルはゲオルク1世の意を受けて、現地の状況を偵察するためにロンドンに乗り込んだ可能性が高い。一説によると《リナルド》の主人公は、混乱しているイギリスの救世主となるだろう「ジョージ(「ゲオルク」の英語読み)1世」の暗喩だという。そのことを頭の隅に置いて鑑賞するのも、なかなか乙なのではないだろうか。
あらすじ
第一幕 1099年。総司令官のゴッフレードに率いられた第一次十字軍が、エルサレムの街を包囲している。十字軍の戦士リナルドは、ゴッフレードの娘アルミレーナと愛し合っていた。ゴッフレードは、エルサレムが陥落したら二人の結婚を許すと約束する。
エルサレムの王アルガンテの申し出で、3日間の休戦が取られることになった。アルガンテの恋人で魔女のアルミーダは、勇敢なリナルドがいなくなれば勝てると考え、まずアルミレーナを誘拐する。リナルドは、ゴッフレードとその弟のエウスタツィオと連れ立って、アルミレーナを救う方法を教えてくれるという魔法使いのところへ旅立つのだった。
第二幕 リナルドは、魔法使いのところへ向かう途中に通りかかった海岸で、彼を狙っていたアルミーダの魔法にかかり、連れ去られてしまう。
アルミレーナは、アルミーダの魔法の庭に囚われていた。彼女の美しさに魅せられたアルガンテはアルミレーナに迫り、アルミレーナは我が身を嘆く。一方アルミーダは凛々しいリナルドに夢中になり、アルミレーナに姿を変えてリナルドを誘惑する。アルガンテは変身しているアルミーダをアルミレーナだと思って口説き、アルミーダを怒らせてしまう。
第三幕 リナルドを失ったゴッフレードとエウスタツィオは、岩山の麓にある魔法使いの洞窟にたどり着く。魔法使いは二人に岩山を登るよう命じるが、魔物たちが邪魔をする。魔法使いは二人に魔法の杖を与え、魔物を退治させる。岩山の頂上には、アルミーダの魔法の庭があった。二人はアルミレーナとリナルドを助け出し、魔法の杖を振って魔法の庭を消してしまう。ゴッフレードはリナルドとエウスタツィオに、エルサレムの総攻撃を命じる。
エルサレムは陥落した。リナルドとアルミレーナは喜びのうちに結ばれ、捕らえられたアルガンテとアルミーダはキリスト教に改宗する。
加藤浩子 (音楽評論家)